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第三章 軍旗強奪祭り 12

 急を聞いたリンダがふらりと倒れそうになりつつも、なんとか踏みとどまった。


「それでレンちゃんは?無事なの?」

「それが城壁の下には見当たらないので崖下を捜索中です。」


 聞くなりリンダが翼を広げて飛び立った。ハイネルドやセーラ、その他猟犬やリンダ支持者達も急いで崖下へと走り出した。


「忌み森か、よりによってあんな所に落ちるとはな。」

「獣に食われたか魔に身を塵芥にされたか・・・どっちにしても不憫な事よ。」


 増援として向かった城兵たちがささやきあった。

忌み森はかつては戦死者の墓地として、現在は罪人の処刑場として広く知られていた。

屍肉喰らいや魔獣、悪霊が行き交い、職能集団である執行人でさえも夜は恐れて近づかぬ場所である。

だがそんな事さえも意に介さずに森を駆け回るリンダやハイネルドに、驚きと畏敬の念をもって城兵たちが応えた。率先して森に分け入りレントの搜索に協力したのだ。

・・・やがて兵士の少数のグループが応援要請の呼び笛を吹き鳴らした。

 駆けつけたハイネルドが、そしてリンダが、駆けつけた全ての者がその場に立ち尽くした。

見上げても顔が見えないほど大きく筋骨隆々たる巨人が、これもまた巨大な剣を杖代りにして立っていた。

 白い体と白い髪のその巨人の周囲に魔獣たちがひれ伏し、死霊たちが歓喜に満ちた顔で飛び回っていた。

 ハイネルド達に気付いた巨人は剣を天に掲げると大きな叫び声をあげた。大地が震え、同時に魔獣達は散りじりに逃げ、死霊達が天へと飛んで行く。

あまりの出来事に恐怖と驚きでハイネルドたちは動く事が出来なかった。

やがて巨人は剣を地面に突き刺して、その横にどかりと座り込んだ。居合わせた者たちをゆっくりと見わたすとかすかに笑い。そしてかき消すように姿が見えなくなった。

信じられない光景に皆が呆然としている中、兵士の一人が叫んだ。 


「王子、見て下さい!あそこに!!」


 巨人が剣を突き刺した場所に古ぼけた墓碑が建ち、そこにレントが足を投げ出して寄りかかっていた。


「レント!!」

「レンちゃん!」


 2人が叫びながら駆け寄り、ハイネルドがレントの兜を脱がして肩を揺さぶった。


「レント、しっかりしろ!おい、おい、レント!!」

「・・・ん・・・ん?何だよハイネルド、まだ夜中じゃないか。」


 気が付いてつぶやくレントにリンダが飛び付いて来た。

「レンちゃーん!良かった。生きてた。」

「え、なに?なんでリンダが・・・って、なんで僕裸になってんの?」

「・・・レント、お前・・・覚えてないのか?」

「え?何を?軍旗争奪を控えて何かしてたんだっけ?」

「レンちゃん?」

「あー・・・リンダ、こいつここ何日かの記憶が飛んでるな。落ちた時に頭を強く打ったんだろう。」

「おいおいハイネルド、落ちたってどこから?ここいらへんに高い木なんて・・・」


 言いかけたレントがハイネルドの指差した先を見て息を飲んだ。

遠く離れた高い崖の更に上、城壁の一角が崩れて煙がかすかに舞っている。


「まさかとは思うけど、もしかしてあそこ?」


 レントの問いに周りの全員が頷いた。


「じゃあ軍旗争奪は?国王軍旗は奪れたのか?」


 ハイネルドが答えようとしたその時、遠く城の方からファンファーレが鳴り響いた。兵たちが驚き、戸惑う中でハイネルドとリンダの2人だけが平然と城の方を眺めた。


「最低保証が手に入ったみたいだな。これで奪った軍旗は2枚って事になる。」

「2枚?・・・じゃあ・・・」

「おう!奪ったぞ!!」

「やったぁー!!」


 疲れ果てて掲揚台の下に座り込んだマルコスに仲間が声をかけた。


「我々は結局あまりおいしくない所を貰った感じですねマルコスさん。」

「何を言ってるんだ。こんなにも歓声を受けて居るのに不満なのか?」

「そりゃまぁ、満更でもないですが・・・でも国王軍旗を奪りたかったですよ。」

「手柄は平等に参加者全員のものさ。王国史上初の小隊旗と国王軍旗を強奪した者の一員として胸を張れよ。おそらく今後2度とこんな事は起きないんだからな。」

「ははは、確かに。もうこんな事2度と無いでしょう。」


 後日、リンダは城兵たちの要望を受けた国王の命により8千の軍勢を束ねる将軍職を学生の身でありながら兼任する事になった。レントもまたクロロの要望を受けた国王の命によってクロロ小隊改め、レント小隊の隊長を学生と兼任する事となった。共に王国史上初の事である。

そしてハイネルドは正式に次期国王として王位に就く事を全国民に対して発表された。

それから約一年ののち、17代国王リシュエールが在位2年、38歳で没した。

今回で少年時代の物語である第三章が完結となります。

次回より第四章開始です。

これからもよろしくお願いいたします。

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