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第三章 軍旗強奪祭り 9

 レント、サンドラ、クロロの三つ巴の戦いも一つの区切りに差し掛かっていた。

散乱した廃材に足を取られたクロロの懐に潜り込んだレントが顎へ頭突き、その勢いのままクロロの頭を叩きつけるように背負って投げ落とした。転がったはずみで座り込むような体勢になったクロロの顔面にサンドラが後ろ回し蹴りでかかとをぶち込む。普通ならもう立てない。見ていた4人がそう思った時、意地がそうさせたのか本能がそうさせたのか・・・クロロがゆらりと立ち上がった。

サンドラが背後から、レントが正面から腰溜めにして掌打波をほぼ同時に打ち込んだ。

奇しくもレントとサンドラのソレは共に衝撃波だった。ただしサンドラはドメを、ほんの僅かに遅れて打ち込んだレントはドーシを放っていた。

サンドラは自分が打ち込んだ衝撃波に加え、レントの打ち込んだ衝撃波を上乗せした分を手を通して返された。2,3歩後退して、たまらずに膝をついた。

そして前後からの掌打波を受けたクロロは兜の隙間から血泡を吹き出すと両膝をつき、そして前のめりに倒れて動かなくなった。

すかさず4人が駆け寄ってクロロをテーブルの方に引きずって行った。


「まだ息があるぞ。早く薬草を!」

「回復薬!急げ!!」


 もしもレントの掌打波の方が早かったら、もしも2人ともドメを打っていたら、・・・クロロは間違いなく即死していただろう。ほんの僅かな偶然がクロロの命を救った。

クロロの治療に専念する4人をよそに、レントとサンドラはお互いを見つめた。

腑に落ちない事が多すぎた。何よりもお互いに掌打波を使うと言う事実が不可解だった。

サンドラは未だに痺れる足に手を添えて立ち上がると低く構えた。

レントも同じように低く構える。その時サンドラの口から信じられない言葉が発せられた。


「我は修羅なり・・・・」


レントが静かに返す。


「この世は修羅なり」


聞いたサンドラが構えを解いて尋ねた。


「四帝流剣術・・・・同門だな?」


レントもまた構えを解いて答える。


「ハンニバル先生から一皇四帝流を名乗る許しを得ている。だがまさかこんな所で同門に出会えるとは思ってもみなかったよ。」

「ああ、まさしく同感だ。私もち・・・ハンニバル先生より一皇四帝流の名乗りの許しを得ている。」

「おお!じゃあせっかくだから組み打ちで勝負しよう。同門で死んでもいいまでやらなくてもいいだろ?」

「ああ構わん。いいぞ。」


そう言って再び構えを取ろうとしたサンドラにレントが口を挟んだ。


「あー、ダメダメ、その鎧脱げよ。動きが遅くなるし可動部分のひしぎ技が利かないからな。」

「え?いや、しかし・・・それは・・・」

「なーに恥ずかしがってんだよ。俺みたいに裸になれって言ってるわけじゃねえよ。ほらほら早く脱げよ、さっさと始めようぜ。」

「ちょ、ちょっと待て、やめろ。」


 そう言うと手を伸ばしたレントを鞭のように伸ばした精霊でとっさに弾き飛ばした。

片膝で起き上がったレントが切れた口の血を拭って不敵な笑みを浮かべた。


「やってくれるなぁ。わかったよ、俺はお前の鎧を脱がす。お前は俺の兜を脱がすか戦闘不能にする。それでいいな?」

「お前人の話を聞けよ!自分勝手すぎるぞ。」

「あ、そうだ。せっかくだから何か賭けようぜ。俺が負けたら金貨を樽盃3杯分お前にやるよ。と言うかあぶく銭でそれしか無いんだけどな。」

「あのなぁ・・・お前人の話を・・・」

「お前は負けたら何を出す?命とケツ以外だったら何でもいいぞ」

「誰が賭けなどすると言った?」

「俺に勝つ自信がないのか?」

「だ、誰がお前なんかに負けるもんか。」

「だったら賭け成立だな。ほら、ちょっと雑嚢見せろよ・・・お、これなんだ?」


そう言うとレントは勝手にサンドラの腰の革袋から銀色の玉を取り出した。


「来訪者の遺物だ。禁断の地から持って来た物だがお前には何の役にも立たん」

「いや、これいいよ。希少金属か?凄くいい。」

「まったくもう・・・わかった。お前が勝ったらそれをやろう。・・・ん?いや、そうじゃないだろ。」

「よおおおし、気分が乗ってきた。おいそこのお前、これ持ってろ。行くぞ黒鎧!」


 サンドラの供に玉を放ると身をかがめながら肩で体当たりをした。

後ろによろけるサンドラの指先を掴みながら飛びついて体を腕に絡みつける。脇腹に足をつけると力を込めて右手部分の肘から先を引きちぎった。


「よっしゃぁー、まずは右手いただ・・・ゲフォッ」


 後ろに飛ぶレントにタイミングを合わせて踏み込んだ正拳突きが、みぞおちに吸い込まれるように入った。

もがきながら転がってレントが距離を取る。

再び正対したレントが心底嬉しそうにサンドラに向かって笑った。


「どうしたバッタ?痛みでおかしくなったのか?」

「いや、そうじゃない。嬉しくってさ、同門同士の手合わせっていいなぁ。10年ぶりぐらいで受けと捌きを完全に忘れてた。思い出させてくれてありがとう。」

「ん?・・・ああ、そういう事か。そうかそうか、どうだ?続けられるか?」

「ああ、大丈夫。じゃあ行くよ。」

「よし、いい気合だ。こっちも本気で行かせてもらうぞ。」


 四帝流剣術は相手の引きに合わせて踏み込む攻撃と予備動作無しの攻撃が骨子となる。逆に言えば他流派でこの様な攻撃や防御対応をする所はほぼ無い。レント自身もそのせいで攻撃はともかく防御に関しては無頓着になっていたのだった。

勝負を再開した2人はお互いに基本の型をおさらいするようにゆっくりとした組み打ちを始めた。

その場に居合わせた4人と息を吹き返したクロロが目を瞠った。

お互いに攻撃をしつつ次の動作に繋げる防御や誘いをかけての攻防は、それが通常よりも緩慢な動きでも常人では避け切れる物では無かったからだ。


「おい、何なんだよこいつら。めちゃくちゃ凄えじゃねえか。」

「私たちも驚いているのです。これは・・・凄すぎる。」


 やがて組み打ちを中断した2人は互いに一礼し、後ろに下がっておよそ50メートル程の距離を取った。

雄叫びを上げて2人が突進し、そして激突した。

もはや居合わせた者たちは目でもその速さを追う事が出来なかった。

20手ほど打ち合った所でレントが後ろに飛ばされた。更に追い打ちをかけるサンドラの攻撃で動きが鈍ったと思われたレントが、逆に巻き付くように抱きついてサンドラを投げ、締め上げる。

もがいて抜け出したサンドラの左の肩当てと右の胸当てが外れていた。

一方のレントも体中が擦り傷と痣だらけだった。


「さすがに良い筋肉の付き方をしてるな。相当な鍛錬を積んだのがわかるよ。」

「お前もな。こんなに腕力の強い奴は初めて見たよ。」

「ああ、俺は巨人族だからな。」

「巨人族?そんなに小さい体でか?」

「光の谷って所で生まれ育った巨人族は体が小さいんだ。だが力は巨人並み、いや、それ以上だ。」

「面白い。ますます面白いぞ。」

「所でなんでさっきから黒い鞭みたいな物を使わないんだ?」

「なんでだと?同門の組み打ちにそんな無粋な事が出来るか。」

「無粋か・・・いいなぁ。気に入った。」

「フフ、褒めても手加減はしてやらんぞ。」


 言うと同時にサンドラが低い姿勢でレントに駆け寄った。

ぶつかりながら両手で胴を抱え、そのまま背後に回る。背面投げをしようとしたサンドラの両足を内側から弾いて広げるとレントはそのまま共に後ろに倒れ込んだ。頭を打ち朦朧としているサンドラの首と左胸を押さえながら右の胸当てに手をかけた。レントの左肘がサンドラの左胸に当たる。


「本当に良い身体だなぁ、しなやかで柔らかい。それでいて力を入れると鋼のように固くなる。」

「お、お前・・・ち、ちょ・・・こら・・・」

「ん?なに恥ずかしがってんだよ、・・・それにしてもお前の胸柔らかいな。」

「ば、ばばばばば・・・馬鹿野郎!!」


 サンドラが両肘でレントを打ちまくって逃れるのと同時にレントもまたサンドラの左手に足を絡ませた。


「今度は左腕を頂くぞ・・・」


 そう言って左手を引っ張った瞬間、装着していた遺物のスイッチが入った。

凄まじい風が巻き起こり、仕切り壁の残骸やレンガが200メートルほど先の崩れた城壁の外へと吹き飛ばされる。レントも吹き飛ばされそうになるのを必死でサンドラの左腕を掴んでいた。


「おい離せ、スイッチが切れないじゃないか。」

「離したら城壁の外に吹き飛ばされるよ。」

「やめろ、目盛に手をかけるな、おい。威力を上げるな!」

「そんなこと言われてもわかんないよ。早く止め・・・・」


 レントがそこまで言った時、遺物が小爆発を起こした。同時にこれまでにない威力の突風がレントを襲った。

ゴロゴロと転がりながら城壁の端まで飛ばされたレントだったが、辛うじて突起部分に手をかけて落ちるのを防いだ。体が半分落ちかけていた。地面まではおよそ50メートル、落ちたらまず助からなかっただろう。

レントは手探りをして手近に這っているロープに手をかけた。

軽く引いてみる。きちんと縛ってあるらしく体重をかけても大丈夫そうだ。

這い上がりながらロープに体重をかけた。

ロープの向こう側、レントからは見えない先からカチリと言う感触が指先に伝わった。

レントは予感ではなく確信した。どういう事なのかを理解した。


「セーラさん・・・準備良すぎだよ・・・」


樽盃は樽の形をした蓋付きのビールジョッキで物入れとしても使える雑貨。

金貨で言うと350枚程の量が入るので3杯分だと1000枚ちょっとの勘定になります。

次回で一応過去の出来事についての物語は終わる予定になります。


いつも読んで下さってありがとうございます。


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