第三章 軍旗強奪祭り 3
西壁の中窓から双眼鏡で噴水広場を見ながらハットンがサンテックスに声をかけた。
「どうだね、自慢の生徒が軍旗を強奪するのを眺める気分は?」
「まだ何とも言えんね。確かにハイネルドは優秀だがクロロ小隊の軍旗を奪えるかどうか正直わからんよ。」
「まぁ切り札もあるし俺は大丈夫だと思うがな。」
「レントの事かね?彼は切り札にするには自由すぎるよ。」
「あんたがそれを言っちゃあお終いだろうが。」
「ムッ、どうやら始まりそうだな・・・・・」
時刻は午後5時を回ったところである。
噴水広場へと白いフードを被った兵学校の生徒たちが続々と集まり始めた。
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「250・・・いや、300は居そうだな。」
「さすがハイネルド王子と言った所ですね隊長。」
「ああ、統率力はあるな。狙われた分隊は災難だ。あの人数ならまぁ楽に軍旗を分捕れ・・・・・ん?」
「どうしたんですかクロロ隊長?」
「あの真ん中に居る奴、王子が雇ったのか?」
「あれ・・・・あれって・・・もしかして・・・?」
「あの兜はザモラ国攻略の時に王子のそばで暴れてたバッタ野郎だ。」
「確か隊長の酒を断ってた人で・・・・なにアレ?」
「あいつら布靴とフード以外何も着てねぇじゃねぇか。」
「一体何を考えてるんでしょう?・・・不審者にしか見えないですね。」
「あのバッタ野郎ニセモノだな。ろくに毛も生え揃ってねえガキじゃねえか。」
「あ、ちょっと待って下さい隊長。あいつの両手・・・・・」
「2メーター以上ある丸太に剣の柄を付けてやがる。本物かよ。あいつ兵学校の生徒だったのかよ。」
★
さすがにセーラによるオーダーメイドの木剣である。
重さといい長さといいレントにはぴったりの使い心地であった。
「生きるも死ぬもこの木剣次第か。」
「ん?何か言ったかレント?」
「いや、何でもない。マルコスさん、突撃の号令をかけてくれ。」
「何を言ってるんだレント、君が実質的な副官じゃないか。」
「違う。俺は捨て駒の個別の遊撃隊だ。マルコス副官、号令はあんたがかけるんだ。」
「・・・・王子に命をくれてやるつもりか?・・・いいな、そういうの。」
マルコスはしばし天を仰ぎ、やがて全員に向かって叫んだ。
「我らはこれよりクロロ小隊に突撃をかける。各々の活躍を願う。以上だ。」
そう言うと手を上にかざし、そしてクロロ小隊に向けて振り下ろした。
「突撃!!」
マルコスを先頭に兵学校の生徒たち約300名が兵団の一角に向けて駆け出した。
「た・・・・隊長?あいつらこっちに突進してますよ?」
「ほほう、面白い。23本足の蠍に勝負を挑むか。受けて立とうじゃないか。」
クロロは立ち上がると小隊の全員に檄を飛ばした。
「旗を死守せよ、学生などはじき飛ばせ!」
その声に呼応して隊員全員が雄叫びをあげた。
突進する学生たちに向かって身構えた彼らの耳に信じられない言葉が聞こえた。
「いいか!旗などどうでもいい。10人がかりで蠍全員を裸にしろ!!」




