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第三章 少女時代 5

 戸惑う保安部員を押しのけてサンドラが室内に入った。

「精霊の騎士どの、なぜここに?ザモラの抵抗勢力との・・・・」

「聞いてないのか?もう終わった。」

「終わったって・・・・・?」

「すべて鎮圧した。司令官は首を晒して他は咎なしとした。」

保安部員に答えるサンドラの目が真っ赤な髪のリンダを捉えた。

「ルーゼンがあんたに詫びてたよ。兵権も返上して辞職するそうだ。」

「ふぅん。あなた誰?」

「ただの傭兵だ。」

「それにしては偉そうね。ただの傭兵に対してこの人たちの態度が全然違うわ。」

「強いからな。」

「強いって・・・すごい自信ね。あのルーゼンもあなたには低姿勢だったの?」

「あー・・・、あれはいきなり逃げ出したよ。捕まえたら命乞いをされた。」

サンドラの言葉にリンダが抑えきれずに笑った。

「あーおかしかった。ところであなた私にそれだけを伝えに来たの?何か用があったんじゃない?」

サンドラが軽く周囲を見回してから答えた。

「いや、それだけだ。即時釈放だ。それでいいな士官殿?」

言われた保安部員が敬礼で答えた。

そのまま踵を返して外へ向かうサンドラに供の1人が問いかけた。

「よろしいのですか若先生。ワルキューレと立ち会うのではなかったのですか?」

「あの娘では役不足だ。それに・・・・」

そこまで言って玄関を出たところでサンドラが振り返った。

「どっちにしろ立ち会いを承諾してくれたからな。そうですよね?」

並んで立っているセーラとムスタファに問いかけた。

「仕方ないですな。受けなければリンダ様を抜き打ちに斬り捨てる気配を出されてはね。あなたにしてみたらどっちにしろ・・・・まさにそうでしょう。」

ムスタファが苦笑いで言った。

「私も斬りかかる気合をぶつけられて見逃す気にはなれんからのう。」

セーラも薄く笑って言い放った。

「感謝します。それでは申し訳ないが邪魔の入らない所へ案内をお願いします。」

そう言ってサンドラは深々と頭を下げた。

                 ★

軍施設へと向かう途中の売店でハイネルドがチョコレート菓子を買うと言い出してから随分と待たされて、さすがにレントも飽きていた。豚バラ肉の串焼きを食べながらテラスのベンチでウトウトしていた。

と、不意に剣で斬りつけられてベンチから横滑りして低い姿勢を取った。

続く斬撃に更に2歩後ろに飛ぶように下がった。

下がってすぐに抜き打ちの気をぶつけられただけだと言う事に気付いた。

視界に入ったのはリンダの家の使用人とセーラと見知らぬ鎧を着た剣士が3人。

真ん中に居る黒鎧の男が気を飛ばして来たのだと気付いた。

「どうした?レント。」

買い物袋を持ったハイネルドが声をかけてくる。

「いや、何でもない。」

意図して飛ばした訳ではない。

間合いの中に異物として感じただけなのだろう。

「チョコレート選びは終わったのか?」

言いながら後ろの方に気を飛ばした。

駆け寄って後ろから逆袈裟に斬り上げ、更に1歩踏み込んで連突きする。

黒鎧の男が右肩を少し反らせて流し見たのをレントは背中で感じたが、そのまま素知らぬふりをしてハイネルドと連れ立って歩み去った。

「今斬り合ったじゃろう。どうだった?」

セーラが意地悪くサンドラに聞いてきた。

「別に。間合いに居たから無意識に気を飛ばしたら返して来た。それだけだ。」

「ふぅーん・・・・ところであんた。ハンニバルの娘じゃろう。」

ピクリと反応するサンドラを制してセーラが続けた。

「まぁそう殺気立つな。もうすぐ町外れの廃屋に着くでの。」

後ろを歩きながらサンドラが問いかける。

「なぜわかった?」

「いやぁ、簡単な事じゃよ。あんたとは小さい頃に会ってるしハンニバルの身のこなしにそっくりじゃしのう。」

廃屋の広い中庭に入って立ち止まると振り返って続けた。

かつてレントに言ったのと同じ事をサンドラにも言った。

「あんた男に抱かれた事が無いじゃろう。私は男を知らない女を殺す気はない。不憫すぎるからのう。」

「な、何を根拠に・・・・それに殺す?大きく出た物ね。」

「そうじゃ。私はやりあったら殺す、それしか知らない。負けた時はともかく勝つ時には相手は例外なく死んでる。」

「いいわ。じゃあとりあえずあなたに相手をしてもらいますよ。」

そう言ってムスタファに向き合った。

「あー、それもやめておくんじゃな。ムスタファはあんたよりも格が数段落ちる。相手にしたところで得る物など無いよ。」

「セーラ、それはないだろう。確かにそうかも知れんが言い過ぎだろう。」

憤然としてムスタファが食い下がった。

「何が言い過ぎなもんかね。その弱いところがかわいいと思ったんじゃないか。」

毒気を抜かれて構えを解いたサンドラにセーラが続けた。

「あんた強い奴とやり合いたいんだね。血が抑えきれない程騒ぐんじゃろ?」

「・・・・だったらどうどうだと言うんです?セーラさん。」

「緑の鎧に身を包んだアバドンの化身、悪魔の騎士と言われた者の噂をザモラで聞いてはおらんか?」

その言葉にハッとしてサンドラが顔を上げた。





「その者と?立ち会えるのですか?」

「明日じゃ、お膳立ては整えてやろう。私もどっちが強いか興味があるでな。」


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