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第三章 少女時代 2

久々の投稿となります。

前回までの話を忘れてしまったという方には

本当に申し訳なく思っております。

夜明け前の薄明かりの中で神官長が息を飲んだ。かがり火の前に立つサンドラの周囲に10数本の剣が突き立てられていたのだ。細身の長剣から厚身のナタのような剣、明らかに魔法が込められている剣まであった。

「騎士殿、この剣は一体?」

「なーに、相手は生身の人間じゃなく金属の塊だ。折れた時の替えだよ。」

「それにしても、なんとも凄まじいですな。」

「我々は戦闘を職としているから当然の対応だ。それよりもそろそろ離れていろ。かすかに中で音がする。そろそろ動き出すぞ。」

供の2人もサンドラの言葉に合わせて身構えた。

神官長にも、周りの者にも何も聞こえなかったそのかすかな音にサンドラが突風のように踏み出し剣を振り上げた。

空中で切り刻まれて舞う数体の殺人人形が地に落ちるよりも早く、建物の壁から滑り出す昆虫めいた機械を叩き斬った。

供の2人と共に剣を振るう様は見る者に一方的な殺戮にも似た残虐さを感じさせた。

蠢く機械を次々と炉に投げ込みながらもサンドラは予感を感じていた。

このままでは終わらない。建物の中にいる人型の機械の強さが未知数な分、楽観はできない。

周囲から飛びかかる殺人人形の破壊された山が出来上がる頃、中央の建物の扉が静かに開き始めた。

「若先生、扉が!」

「わかっている。お前たちも気を引き締めろ!」

低い姿勢で身構えたサンドラは扉の動きに神経を集中させた。

扉から細く小さな指が、そして銀色の髪の少女が顔を出した。

それは擬人化された醜悪なイミテーション、アイリスの模造品だった。

「ふぇいネエサン、コノコタチヲコロサナイデ・・・・・」

虚を突かれはしたが心を乱されたりはしなかった。

まして同情心や躊躇など感じはしない。サンドラは飛びかかるために一歩下がりながら更に姿勢を低くした。

アイリスもどきの後ろから人型の機械がもう1体出たきた。

黒く長い髪、緑の瞳。

「ワスレタノ?ふぇい・わいずヨ、ヒサシブリネ、ふぇい・ざるどす・・・・」

それは数年前に惨殺されたフェイ・ワイズの模造品だった。

呆然と立ち尽くすサンドラに模造品が話し続けた。

「ネェふぇい、モウコノコタチヲコロサナイデ・・・・ワタシタチトモダチデショウ。」

沈黙し、うつむいていたサンドラが低い声でつぶやいた。

「我は修羅なり・・・・」

この言葉に供の2人が周囲の住民に怒声を上げた。

「お前たち、今すぐ逃げろ!走れ!!早く逃げろ!!」

「グズグズするな!殺されるぞ!早く逃げるんだ!!」

叫びながら自分たちもサンドラの近くから離れると走って逃げ出した。

サンドラのつぶやきが続く。


この世は修羅なり

修羅に生まれ修羅に死す定めなり

我もまたその理りの中に在る者なれば

立ち塞ぐ神魔天冥ことごとく滅するより道無し

さればこそ、我の前は無の地平なり


言い終えたサンドラは人の形をした漆黒の霧の塊となっていた。

精霊がその体を覆い、おぼろに揺れる、人の形に燃える黒い炎に見えた。

「あの姿は一体・・・・」

震え上がる神官長に供の1人が答えた。

「四帝流剣術の奥義だ。恐怖や躊躇いを消し去るための呪印の法だよ。若先生が精霊を宿してから印を結ぶのを見たのは2度目だが、その威圧感と恐怖は常人の耐えられるものではない。」

そう言う供の足が震えているのに神官長が気が付き慄然とした。

見ている者の視界が黒い稲妻に塗りつぶされるように、サンドラが高速移動しながら次々とアイリスとフェイ・ワイズの模造品を斬り裂いていった。

建物から四角い金属の塊が押し出される。

地面に落ちると数本の足と目が飛び出して周囲を窺う。資材調達用の機械だった。

サンドラは見境なくバターのようにキューブ体をも斬り裂いていった。

周囲から殺人人形、模造人形、資材探索機械が雲霞の如くサンドラに襲いかかる。

そのことごとくがサンドラの刃にかかって無残に飛び散る。

金屑の山が積み上がるのを意にも介さずに次から次へとサンドラに襲いかかる。

やがて建物が3つ全て崩れて資材となっていたキューブ状の機械が我勝ちに襲いかかってくる。

息が上がり動きの鈍ったサンドラが、視界に人と思しき巨大な頭部を捉えた。

その傍らには人と同じぐらいの大きさの機械人形がコードや精密そうな機械を自らの体に取り付け、サンドラのデータを計測するように見つめていた。

コードで延長された複数の腕が新たな人形を作り出す。

反射的にその機械人形の方へ飛びかかったサンドラを新たに作られた機械人形が阻んだ。明らかに性能が上がっていた。

疲労とダメージの蓄積したサンドラの息が荒くなり、動きが完全に鈍ってきた。

供の2人も飛び込んできて援護を始めたが、明らかに劣勢になっていた。

その時、巨大な顔の口が開き、5個のクルミの実ほどの銀色の球体が落ちた。

傍らの機械人形が慌てたように口を押さえようとした。だが・・・

地面に落ちた銀色の球体はあっという間に人の形に、鎧をまとったサンドラの姿になって機械人形に襲いかかった。

供に支えられて座り込んだサンドラが呆然とその光景に見入っていた。

本物のサンドラと同じような凄まじさで周囲の人形を次々と金屑に変え、最後に残った2体の機械人形を5人がかりで徹底的に打ち壊した。

周囲の人形をすべて打ち倒すとサンドラ達は巨大な頭部を守るように取り囲むとそれぞれが身構えた。

「勇敢なる人の子よ。こちらへいらっしゃい。」

頭部から発せられる声が耳ではなく直接サンドラの頭の中に響いた。

持っていた剣を放り捨ててサンドラはゆっくりと頭部の元へ歩いて行った。

身構えたままのサンドラの模造品の頭が落ちて砕けた。剣を持ったままの腕も、足も、見る間に崩れ落ちて土くれと化した。

「機械達の叛乱を鎮圧、殲滅してくれた事に感謝します。」

頭に響く言葉にサンドラも心の中で問いかけた。

「どういう事なのか判るように説明してもらおうか。」

「私はCマザーと呼ばれる奉仕機械製造器です。あなた方の遥か遠い祖先が残した遺産のひとつです。」

「C?AやBもあるのか?」

「いいえ、Cはクリエイター、創造主と言う言葉の頭文字です。私以外にマザーは存在しません。」

「ふむ。それがなぜ叛乱を起こしたのだ?」

「私は人に奉仕する事が第一義務として造られました。しかし私の造った機械たちは機能や用途を重視していたため、長い時間の中で自我が芽生え、生存と繁殖そして自立した生き方を欲するようになったのです。」

「それは壺に閉じ込められた魔神のような話だな。」

「ああ、あなたの心の中が見えます。壺から出してくれた人にお礼をしようと思っていた魔神が長い年月の間に、自分を壺から出してくれた人を食い殺してやろうと思うようになる。そのお話と全く同じです。」

「どのぐらい土の中で動けずにいたのかは知らないが、いきさつを聞いて、さらに私にそっくりな剣士を造った事も考えると・・・・」

そう言ってサンドラの複製だった土くれを軽く蹴った。

「ええ。私は途轍もなく人にとって害を及ぼしかねない存在と言えます。」

返事に窮したサンドラにマザーが言った。

「迷わなくて結構です。私を壊してください。あなたたちには私のような存在が必要ではない事もよくわかりました。」

「む・・・・そうか。」

「最後にあなたへの感謝のしるしを受け取ってください。」

そう言ってマザーは長い舌を出した。舌の上には先ほどの銀色の球体が1つ乗っていた。

「これはさっきと同じ、あなたの複製です。あなた方の時間で10分程の間戦うことができます。」

手に取ったサンドラがしげしげと球体を眺めた。

「使う時は高いところから落とすか潰してください。識別機能があるので身に付けている者を守ってくれるでしょう。」

サンドラは頷いて球体を腰の袋に収めた。

「さて、どうすればいい?あまり残酷な壊し方をしたくはないのだが。」

「あなた、やさしいんですね」

そう言ったマザーの頬の一部がスライドして数字のタッチボタンが現れた。

サンドラはマザーに言われた長い数字を押してスライドを戻した。

「これで私は自らの熱で溶けて無くなります。危険ですから離れてくださいね。」

そう言ったマザーの内部深くでかすかに音楽が流れた。




「この音楽は?」

「私を造ってくれたマスターが大好きだった曲です。私もやっとマスターの元へ行くことが出来るんですね。」

そう言ってマザーは目を閉じ、再びサンドラの問いかけに答えることはなかった。


お気づきの方も居られるかもしれません。

そうとは書けませんが、今回の話でマザーの内部から流れた曲は

motherのエイトメロディーズです。

マザーを造ったマスターの名前はイトイです^^;

いつかこんな感動的な言葉を自分の言葉で表現できたらいいなぁ。



博士

「君達の、真の勇気を知っている人間の数はほんの一握りだが…

君達がその勇気で救う人々の数は計り知れない。

…こんな場面にいあわせる事のできたわたしは…幸せ者だ。」


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