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第三章 少年時代 6

ハイネルドは壇上に上がり広間に居る全員に語りかけた。

「現在の残存数は約100弱って所だな。対するサンテックス軍は総勢1000と言った所だ。兵力差で言えば約10倍だが俺の指示に従えば絶対に勝てる。だから今後は最高責任者として俺を信用して各自、忠実に作戦を遂行して欲しい。異議は認めない。」

一旦言葉を止めて全体を眺めたハイネルドが再び口を開いた。

「不満のある者は居ないな。では作戦を伝える。」

ハットンがうろたえたように横から口を挟んだ。

「ちょっと待てよ。お前が最高指導者ってのはいいが、ここで全員に作戦を伝えるのかよ?各自分担でいいんじゃねぇか?」

「いや、全員に作戦の全貌を知ってもらう必要があるんだ。一本の剣の様に動いてもらわなくちゃいけない。それとハットン、今後は俺には敬語を使え。作戦遂行中だけでいい。わかったな。」

「わ、わか・・・承知致しました。ハイネルド様。」

深く頭を下げてハットンが後ろに下がった。

「サンテックス軍の攻撃は明日の朝になる。今からの攻撃も夜襲も無い。ここまで一方的に優勢となっている状況で力押しすれば勝つのは容易だろうが、砦を落とすとなると被害もそれなりに出る。それよりは動揺を誘い、無条件降伏または戦意の喪失、兵の逃亡を促す方をサンテックスは選ぶ。」

ハイネルドの演説にレントとリンダがうんうんと頷いた。

「俺の作戦は籠城だ。・・・・ただし見せかけのな。」

再び広間全体を見回してから静かに言った。

「この砦を丸ごと罠として使う。俺も含めてお前ら全員が敵を誘うためのエサとなる。

仕掛けはセーラが、作業の指揮はハットンが執る。・・・・・」

ハイネルドが詳細を話している間にレントはリンダに命じて城門を閉じさせ、外の見張りについた。敵の斥候の侵入に備えると共に、スパイや逃亡者の作戦の密告を用心しての事だった。

気付かぬふりをしながらセーラも猟犬達もその行動の意味を察し、内心驚いていた。

高々12,3歳の子供の発想ではない。しかも発見したら確実に倒せるという自信がなければ出来ない行動である。

それを言ったらハイネルドの態度や洞察力、作戦の組み立て、そのどれひとつを取っても歴戦の古強者にしか思えない。そして最も信じられないのはザモラの兵士である砦の兵たちが信頼と尊敬の目でハイネルドを見ているという事だった。

「なぁ、子供たちよ。」

セーラが部下に向かって話しかけた。

「もしかしたら私たちは・・・今歴史を見ているのかもしれんな。」



誰もが力惜しみすることなく作業に取り掛かっていた。

土を運ぶ者、ハシゴや渡り板を作る者、その目には充実した喜びの光があった。

鍛冶師にハイネルドが指示を出すのをセーラが見ていた。

地面に図を描いて指示する。

「そう、大きさは小指ぐらいで厚さは5ミリほど、両端に丸く穴を開けて・・・そう、そのぐらいの大きさでいい。真ん中を打って少し膨らませてくれ。」

見ていたセーラが口を挟んだ。

「それは拘束具ですね王子。でしたらプレートにひねりを入れると抜け出すのはほぼ不可能になります。」

ハイネルドが驚いた顔でセーラを見た。

「紐も通してない状態で良く分かりましたねセーラさん。」

「これは王子が考案されたのですか?」

「ああ、これだと使う鉄は通常の手枷の50分の1だし、通した紐を引くだけで誰でも使えるからね。」

今度はセーラが驚いた。

「猟犬部隊にも同じような拘束具があります。何世代もかけて考案した道具を王子が1人で思いつくなどとは・・・・驚きました。」

「いやいや、照れるなぁ。柄と鞘を繋げて簡易的な槍になる剣とか内側に押し込んでポケットに収まる服とか他にも色々考案したから落ち着いたら遊びに来てくれ。」

セーラは唖然として声も出なかった。

未だかつてこんな発想をして物を作る人を見たことがなかったのだ。

「おいハイネルド、あんまりそんな自慢してるとセーラさんの部下にされちゃうぞ。」

レントが声をかけて来た瞬間セーラの背筋が粟立った。

気配に全く気が付かなかったのだ。

気配を消していた訳ではなく空気のように周囲に馴染んで存在を感じさせない。

石に成りきろうとか木に擬すると言った作為的な物ではない。思っている時点でそれはまがい物である。

レントのそれは本物だった。瞬時に石にも木にもなれる究極の到達点といっていい。

セーラは恐怖を感じた。ファウンランドの王子とその従者であるにも関わらず、一瞬殺意を持った。3年後、5年後はわからないが発展途上の今なら殺すことも可能だ。

だが恐怖による殺意にまさる物があった。

惜しい、勿体無いと言う感情だった。それは宝石の細工師が天下の宝玉をハンマーで打ち砕くに等しい愚行である。この2人はセーラにとってそれほど価値のある逸材だったのである。

この瞬間にセーラの肚は決まった。

結果も状況も、利害も猟犬の存続も関係ない。

持てる力全てを注いでハイネルドを王にし、レントを最強の戦士にする。

セーラは指笛を鳴らすと猟犬部隊の全員を集結させた。

「子供たちよ、今この時を以てハイネルド様を我らの王として崇めよ。さぁ、全員作業を手伝うのじゃ。戦の刻は近いぞ。」

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