第三章 少年時代 3
広間の中央にある大きなテーブルの奥に指揮官と思われるヒゲの男が、そして参謀や補佐官と思われる者たちが周りの席に着いていた。
ハイネルドを先頭にレント、そして引率の兵士が広間に入るとどよめきが起こった。
事も無げにハイネルドはテーブルに着くと近くにいる兵士、これもかなり階級の高そうな兵士に紅茶を持ってくるように伝えた。
「ど、どういう事だ。なぜ手枷を付けていない?なぜ跪かない?」
声を荒げる参謀に引率の兵士たちが困ったようにうつむいた。
どの顔も腫れ上がり、鎧が歪んでいる者、立っているのがやっとという者も居た。
ハイネルドはじろりと参謀を見、そして中央のヒゲの男を見て言った。
「俺はファウンランドの王子ハイネルドだ。虜囚の辱めを受けるつもりは無い。」
「思い通りに行かないのが人生なのさ。お前たち、この2人を押さえつけろ。」
参謀の言葉に兵士たちは動こうとしなかった。
「そこのヒゲの偉そうな人。あんたもこのおっさんと同じ意見か?俺たちを虜囚として扱う気か?」
指揮官がからかうようにハイネルドに答える。
「・・・・だったらどうだと言うんだね?我が国の国王に苦情でも訴えるか?」
その言葉に場に居た取り巻きたちがゲラゲラと笑い出した。
終始黙っていたレントがつまらなそうに言った。
「なぁハイネルド、面倒だからここの偉そうな奴らを全員始末して帰ろうぜ。」
「バカ言うなよ。そんな事出来るわけないだろう。」
そうだ、出来るわけがない。誰もがそう思った時、ハイネルドが更に続けた。
「2人で片を付けるのは簡単だけど俺はあくまでも戦略で勝ちたいんだよ。サンテックス先生の鼻を明かすのが目的なんだ。こんな部隊2人で潰したからって自慢にもならねぇよ。」
「誰がそんなもん自慢するか!俺はただ面倒くさいって言ってんだよ!」
2人のやり取りを聞いて耐えかねた武将の1人がレントの襟首を掴んだ。
「一端の口を利いてんじゃねぇよ、このガキどもが!首をへし折るぞ!」
「邪魔すんじゃねぇよこのザコが!」
言うと同時にレントは手首を掴んで握り潰した。
骨の砕ける音が広間に響いた。
悲鳴を上げるのも構わずに、そのまま片手で振り回して壁に叩きつけた。
うめき声をあげて崩れ落ちた武将を蹴り飛ばすと、入口の頑丈そうな木製のドアをぶち破った。
入口の陰からハットンが恐怖で引きつった顔をのぞかせた。
一同が黙りこんだのを見てハイネルドが指揮官に聞いた。
「そもそもお前ら俺を殺してファウンランドと全面戦争になる覚悟があるのか?つまらん脅しやハッタリは必要ない。目的を言え。」
聞かれた指揮官が苦しそうに声を絞り出した。
「目的は交渉だ。この地を身柄と引き換えに渡してもらう。さっきその為の使者を出した。」
「なるほど、下策だが無能な者がいつまで経っても国土を占領出来ないのも哀れだな。いいだろう、その交渉の材料になってやるよ。」
そう言ってハイネルドが出された紅茶を口につけたその時、大慌てに駆けつけた兵士が告げた。
「申し上げます。交渉は決裂、使者は首を打ち取られました。」
ハイネルドは紅茶を吹き出してむせて咳き込んだ。
運び込まれた首を見てハットンが駆け寄った。
「このバカヤローが、戦場じゃ阿呆はすぐに死ぬ。お前らも肝に銘じておけって言ったばっかりじゃねーかよぉ。」
その背後に立っていた兵士がいきなり剣を抜いてハットンの喉元に当てる。
同時にハットンの剣を引き抜いてレントに放り投げた。
「レンちゃん、ついでにハイネルド、切り抜けて逃げるわよ。」
何が起きたのか分からずに呆然とする幹部たちと呆れ顔のレントを見て兵士が兜を脱いだ。
「私がわからないの?リンダよリンダ!さあ、早く剣を取って!」
「えーと・・・・うん。知ってる。でも僕もハイネルドも逃げる気はないんだよ。」
「何でよ?せっかく私が単身乗り込んできたのに!!」
「僕たちが自軍に戻ったら、この人達は恐らく報復も兼ねて全員殺されるよ。逆に言うと僕らがここに居ればほとんどの兵を生け捕りにする筈だ。」
「ふうん?」
「最終的には僕たちを差し出して全面降伏すれば命は保証するって取引に持ち込むつもりなのさ。そこはまず間違いない。」
「俺もそこは同意見だ。恐らく3日でケリが付くだろう。少なくともサンテックス先生は今の軍責任者の10倍は頭が切れるだろうからね。」
ハイネルドの言葉に幹部の1人が尋ねた。
「君たちの言うサンテックスってのは智将サンテックスの血縁者かね?」
「あ、多分それ本人です。でもまぁ、智将って言っても落とし穴ばっかり作りたがる変な人ですよ。」
レントの言葉に場が騒然とした。
「まだ生きてたのか?もう80歳ぐらいにはなるぞ。」
「落とし穴の天才職人が参戦してくるとは・・・・」
「ここは撤退した方が・・・・」
「いやいや、もはや過去の遺物であろう。」
等々といつまでも騒がしく話している。
「なぁレント、あの先生って有名人なんだなぁ。」
「そうみたいだねぇ。」
「先生と戦略で手柄争いがしたかったなぁ・・・・まぁ攫われた時点で終わってるんだけどな。」
「まぁ、次の機会に頑張ろうよ。」
レントの言葉に頷くとハイネルドが声を張り上げた。
「お前ら!!今日から俺たちはお前らが負けるまでここに居てやる。賓客として丁重にもてなさないとここを占領するか勝手に帰るかする。わかったか!」
突然のハイネルドの言葉に幹部たちが殺気立った。
「何をたわけたことを。」
「お前ら3人で占領だと?やってみよ。」
いきり立った幹部の前にボロボロになった兵士たちが駆け寄って哀願した。
「お願いです。挑発しないで下さい。本当に占領されてしまいます。」
「な、何を言うか。こんな若造にそんなことが・・・・」
「殺される前に口を慎んでください。この若者の力をあなたも見たでしょう。それにこの王子は目で捉えられぬ程の方術を使います。まして・・・・ああ・・・この赤い髪と耳の後ろにある羽、この娘はワルキューレです!!」
兵士の言葉に幹部たちが凍りついた。
「なんで・・・なんでこんな辺境の戦地にこの様な者達が来るのだ・・・・戦局を好転させる為に王子を攫うなどと言う進言に乗るのではなかったわ。」
そう言って司令官がハットンを睨みつけた。
ハットンが首をすくめたその時、金属のぶつかり合う音が近づいてきた。
居合わせたザモラ軍の全員が不安そうな顔になった。
やがて戸口に顔を出したのはハイネルド達と同じ馬車に乗っていた老婆だった。
だが小柄だったはずの老婆は筋骨隆々の巨漢となっていた。鎧を繋ぎ合わせて着込み、腰には無造作に10数本もの剣をたばさんでいた。
「待ちくたびれたのでお迎えに上がりました。ハイネルド王子、陣地に帰りましょう。」
「ふむ、お前は何者だ?」
「猟犬の総帥でセーラと申します。以後お見知りおきをお願い致します。」
老婆が名乗った瞬間に司令官を始めその場に居た幹部、兵士が部屋の隅に逃げ出した。
「おや、お前たち私の名前を知っておるのかえ?」
セーラの問いに司令官が震えながら泣きそうな声で叫んだ。
「戦場に身を置いてダイナマイトプリンセスを知らぬ者など居らぬわ。」
えーと、すみません。今回はかなり遊んでしまいました。
知っててニヤリとした人もたくさん居られると思いますが、ネタバレをしておきます^^;
サンテックスと言う名前は星の王子様の作者サンテグジュペリ氏のニックネームです。
大好きな作家さんなのでどこかで名前を使いたいなぁと思っていました。
ああ、だがそれなのに何となく智将と書いた時に北斗の拳に出てくる智将、海のリハクを思い浮かべてしまいました。落とし穴云々はそこから来ています。申し訳ない。
そしてこれはもうわからない人は居なかったと思いますが
小公女セイラ=ダイヤモンドプリンセスをもじって使ってしまいました^^;
大きく広い心で許してください^^;




