第七章 天空のエデン 11
ベイツ失踪の報告を受けてから5日、バルザーニ王は自国に戻り粛々とアスタクリス暗殺の計画を推し進めていた。
調印式の会場がそのまま発射口である為、巻き込まれない位置に新たに式台を新設した。
また、部下や作業員にはその事は一切教えなかった。顔や態度に出されて失敗でもしたら大事になる上に、疑われない為には必要最低限の犠牲も出さなければいけない。自国の兵士や高官が自ら進んで犠牲になる訳が無い。
「バルザーニ王、時にベイツ首席大臣の姿が見えないようですが?」
「おお、彼にはまた別の重要な任務で他国の訪問をしてもらっているのだ」
怖気づいて逃げたなどと口が曲がっても言うわけには行かない。
バルザーニは今更ながらにベイツのような小心者に国政の一翼を担わせていた事に憤りを感じた。
「3日後の調印式よりも重要な任務などあるとは思えませんが・・・呼び戻してはいかがですか?」
「考えがあってやっているのだ。それ以上の意見は必要ない」
「ハ、失礼いたしました」
バルザーニ王は頭を下げる高官をじろりと睨めつけながら、当日はこいつも発射口に立たせようと心に決めた。
一方でファウンランドでも進展があった。
リンダが3日3晩眠らせず尋問を続けた結果、頑なに口を閉ざしていたベイツがとうとう全てを白状したのだ。
辻褄の合わないところを何度も執拗に問い質し補完する中で、ベイツもまた進んで素直に答えるようになっていた。
「さてと、じゃあホワイトファングについて再度詳しく説明してちょうだい」
「ホワイトファングとは我が国の代々の王が名付けた罠の名前だ」
「その罠の形状と特徴は?」
「形状は我が国の円形競技場そのもので、特徴は言い伝えになるが・・・白い光を放って円形競技場の上にあるすべての物を遥か上空に至るまで焼き尽くす、らしい」
「なんだか言い方が曖昧ね」
「古代の遺物兵器だからな。詳しい事は分からんし動かしたと言う文献や情報も無い。そんな物が残らないように手はずを整えて大昔に発動させたようだ。少なくともヂキールの代々の王には語り継がれているらしい」
「他にホワイトファングについて知っている事はある?」
「恐らくは貴国の物と似た軍艦なのだと思う。なぜか艦首を上にして垂直に土中に埋没している」
「垂直に?ずいぶん妙な埋まり方ね」
「そうなんだ。理由はわからない。隠すために埋めたのか砲の威力を上げるために固定したのか、憶測になるがそのどちらかだろうと思う」
「その古代艦は飛べるの?」
「いや、推進装置が壊れているのか操作が複雑なのか・・・残念ながら本体自体はピクリとも動かない」
「ホワイトファングがその軍艦の装備兵器なら円形競技場がそのまま砲口って巨大過ぎない?それこそ全体的な大きさで見るとヘルプラネットぐらい大きくない?」
「そう思うのも道理だが違うんだ。軍艦に装備されている複数の砲のひとつではなく、巨大なひとつの大砲に推進装置が付いていると思えばいい」
「なるほどね」
聞き取りながらペンを走らせるバニラを横目で見ながらベイツはため息をついた。
「あら、どうしたの?ため息なんかついて」
「色々と、もう終わりなんだなぁと思うと寂しく感じるのだよ」
「そうね。あなたへの尋問、いえ、質問も終わりに近づいてきたわ」
「ところでここまで国の重要機密を話した私をこの後どうする気だ?やはり殺すのか?」
「死にたくない?生きたい?」
「死にたい奴など居ないだろう、と言いたいところだが君に殺されるならそれもいいかなって気になってる」
「へぇ、そんなこと言われたの初めてだわ」
「身元を調べただろうから知ってるとは思うが私は正妻を娶って居ない。心の底から愛した女も居ないし、逆に私を心底必要だと思って正面から真剣に向き合ってくれた女も居ない。君以外はな」
「全部の指を釘で打たれて爪を剥がされていた時にそんな事考えてたんだぁ。で、何?それが終わるのが寂しくてため息ついちゃってたの?」
「そうなんだ。もう少し頑張れば良かったなとも思うよ。ただ言っておくが私は拷問が苦しくて白状した訳ではない。君に好意を持ってしまったから進んで話すようになったのだ」
「それは私に惚れたって事?」
「それ以外の何だと思っているんだね?」
「それでも私はあなたを殺すわよ」
「ああ、むろんそれで構わない。ただ出来ればだが君のその腕に私も入れてもらえないだろうか?」
その言葉を聞いたバニラが嬉しそうに茶色い液体の入った瓶と肉削ぎ専用の特殊な形状のナイフを引き寄せた。
「それは何だい?」
「これは私とあなたを繋ぎ留めるヒルツゲソウと言う特殊な液体よ」
「じ、じゃあ・・・」
「いいわよ。その代わり知っている事はすべて教えてちょうだいね」




