第七章 天空のエデン 7
小型艇が牽引固定されてサンドラたちが下船する頃にはレントの意識も戻り、体も元通りになっていた。直径5キロの約3分の1、およそ2キロ弱の発着場にはレントたちの乗ってきた小型艇以外は係留されておらず、見渡す限りの地平が広がっていた。
鈍い金属音とともに上部のドームが閉まると昼間と同じぐらいの明るさの照明が点灯された。
皆が驚きと感嘆の声をあげる中、アスタクリスはアークを手招きし、小型艇の横に設置されているテーブルに付いている赤いボタンを指さして言った。
「帰る時は地面のこのライン上を通って行きなさい。艇の固定解除はこのスイッチ、出口は開けておくわ」
「あの、なぜ私に説明したのですか?・・・なぜ私が操縦していたと解ったのです?」
「もちろん操縦している姿が見えてたからよ」
「な!・・・15キロ以上も離れていたのに?それに誘引された時点で私は席を離れていたのに・・・」
「あなたたちの乗ってきた小型艇とは訳が違うもの」
驚愕するアークの肩に手を置いてレントが言った。
「よせよせアーク、何かある度に驚いてたら神経が保たないぞ。それよりも王女にここでの待遇の方を聞こうじゃないか」
「な、団長、そんな失礼な事を聞ける訳が無いじゃないですか!そもそも我々は招かれてもいない押しかけの客なんですよ」
アークの言葉にアスタクリスが笑い出した。
「確かにそうですね。でもそんなことは気にしないで気の済むまでここで過ごして頂戴」
「え、あ、ありがとうございます。ウチの大将がアレなモンで本当にすみません」
「こらアーク!アレってなんだよ!」
「おやめなさいエリクシア」
「す、すみませ・・・あ、僕の事をエリクシアと呼ばないで下さい。主従関係の名残りで体が反応してしまいますから」
「あらごめんなさい。うっかりしてたわ、気をつけるわね。でも本当にあなたってエリクシアね」
アスタクリスがそう言って指で合図すると召使いの服を着た機械人形がレントたちのそばに移動してきた。
「元々ここは10万人が暮らせるように設計されているから好きなだけ居なさい。あなたたちの世話はこの機械人形がしてくれるわ」
「アスタクリス王女のご好意、痛み入ります」
恭しくお辞儀をするレントに鋭い視線を向けてアスタクリスが釘を刺した。
「でもね、争い事の調停のつもりで来たのなら無駄よ。私は私のやりたいようにやるし邪魔をする者はためらいなく排除するわ」
「わかっています。僕はあくまでも中立的な立場です。何があろうと黙って見届けるつもりです・・・多分」
「多分・・・ね。あなたらしいわねエリクシア、あ!いけない、またエリクシアと呼んでしまったわ」
「王女さまぁ・・・」
「気をつけるわ、ごめんなさいね。あ、そうそう。例の割譲してもらう土地の候補を決めたわ。明日にでもハイネルド王の所に通達するわね」
「あ、僕たちが来てる事は伏せておいてもらえますか?」
「いいけど何?内緒で勝手に来ちゃったの?」
「そうなんですよ、あはははは。所で土地の候補ってどのへんなんです?」
「座標で言っても分からないわよね。場所で言うとヂキールと言う国のほぼ半分ぐらいよ」
「ヂキールですか・・・キュプ王国の次ぐらいに厄介な所ですね」
「あら、この私よりも厄介だと思う?」
この質問で一瞬言葉を失ったレントが笑い出し、アスタクリスもつられて笑った。
「ないない、今この時点で王女様よりも厄介で恐ろしい事などありませんでした」
「でしょう?さあさあ、夜中だからとりあえず今夜はみんなゆっくり休んで明日の朝にでもまたお話しましょう」
「はい、お話したい事がたくさんあります。羽衣蛙の事とか海神トリトンの事とか」
「まぁ、それは明日が楽しみだわ」
王女に促されてラントたちは機械人形に付き添われて居住エリアへと歩き出した。
道すがらレントがエリクシアに心の中で話しかけた。
《ところでエリクシア、お前いつから僕の中に入り込んで居たんだ?》
《お前が私の骸を見下ろしていた時、あの時だよ。私も一緒にお前の中で自分自身の骸を見下ろしていたのだ》
《あー、なるほど。でもこのまま僕が死ぬまで中に居るのも困りもんだなぁ》
《うーむ、まぁ、それもそれで良いかも知れぬな》
《いいのかよ!》




