第七章 天空のエデン 1
ファウンランドの王都ではハイネルドの招集により臨時のヘルプラネット対策本部が設立され、各国の有力者が集い会議が開催された。ただしその中には大国のキュプの人間は1人も招かれてはいない。
両国による停戦の調印式に出席した国の人間ならば誰しもその理由がわかろうと言うものだが、1人ドゥディー国の代表が異議を唱えた。
「ハイネルド王、この未曾有の危機に際して最も頼るべき国の代表が呼ばれていないと言うのはいったいどう言う事なのですか?」
「さて?エルフ族国と有翅族国は来てもらえませんでしたがドワーフ族国の代表には来て頂けましたし、頼りになる国々の代表にはすべて来て頂いているつもりですが?」
「8支族の中の2族長から請願があったからな、ワシも来たくはなかったが仕方あるまい」
ドワーフの代表が吐き捨てるように言うのを不快そうに横目で見ながら、ドゥディー国の代表がハイネルドに詰め寄った。
「とぼけないでもらおう。なぜキュプ王国の代表が呼ばれていないのですか?」
「ああ、あそこは頼りになるどころか機を見て攻め込んでくる野蛮な餓狼の国です。とても共に道を歩む事など出来ません」
「両国のいがみ合いは知ってはいるが、だからと言ってあの国の協力無くしては強大な古代兵器とは戦えますまい」
「むろん協力はしていただきます。すべての古代兵器の供出と物資のみの協力ですがね。この件に関しては指図無用に願います」
「私からもいいかね?」
「もちろんですヂキール国王」
「なぜここにネスカリカの教皇が同席しているのか説明していただきたい。我が国はこの者たちの軽率な行動によって多大な被害を被ったのに、なぜこの者は平然と座っていられるのか!」
ヂキール国代表がネスカリカのガブリエルを指差して糾弾した。
うなだれて釈明しようとするガブリエルを手で制してハイネルドが口を開いた。
「今までネスカリカからの古代遺物の恩恵を受けておきながらよくそんな言葉が出てくるものだ。何より元凶となったピサロは死んでいるのだ。それ以上の追及が必要とは思えんな」
「いや、それはまぁ・・・しかし・・・」
「この際だからはっきり言っておこう。ヘルプラネットの主であるアスタクリスは我がファウンランドを攻撃する意思はないそうだ。だが彼女がどこを攻撃するにしろ目標にされた国は為す術なく崩壊する。それだけは間違いない。なんとか持ちこたえられるのはロングスピア号を所有するネスカリカぐらいのものだろうが、それとてせいぜい時間稼ぎぐらいの役にしか立たんだろう」
「それでは我々は何の為にここに呼ばれたのだ?」
「ヘルプラネットからの要求に対する無条件の譲歩と、ファウンランドへの全面的な協力と不可侵条約の締結」
「それで?それでヘルプラネットからの侵略攻撃が回避出来る保証でもあるのか?」
「そんな物はない。だが世界を統べるほどの古代兵器を所有する我が国が矢面に立って戦う以上、疲弊したと見るや襲いかかって来られては話にならないと言っているのだ」
その言葉に各国の代表が同意を示した。
「それは道理ですな」
「うむ、そもそも我々の代理で戦う義理など無いですからな」
「確かにファウンランドへの全面的な協力と不可侵条約の締結。これ無くしては1歩も前に進めませんね」
分が悪くなってうろたえるヂキールの代表に向かってハイネルドが追い打ちをかけた。
「先ほどあなたはネスカリカ代表のガブリエルを非難したが、ヂキール国の領土をおよそ5千年ほど前に治めていた王がヘルプラネットの主であるアスタクリスの恨みを買っている。あなたの先祖かも知れない」
「そんな!例えそれが仮に私の先祖だとしても5千年も前の事など私に何の責任があるというのだ?」
「ほう?あなたには開き直るのではなくガブリエルのように責任を感じて欲しかったですな」
さしものヂキールの代表もハイネルドのこの言葉に恥じ入った。
ヒドゥン国の代表が間に入って取りなすようにハイネルドに尋ねた。
「ところでハイネルド王、あなたはヘルプラネットが出現するよりもずっと前に古代兵器を手に入れたと聞いていますが、なぜそれを使って近隣各国を侵略しなかったのですか?」
「ああ、私は征服したり虐げたりするのを好まない、それだけです。仁政を敷き民を教化して国を治めたい。戦争で国が荒廃し、1杯の粥の為に人を殺したり体を売ったりするような光景は絶対に見たくないのです」
「ですが現に戦争は各地で起こっており、ハイネルド王の言ったような光景を目にする事も少なくないのが現実です。だったら征服したのちに仁政を施せば良いのではありませんか?」
「もっと良い方法があります。私の気が向けばいつでも近隣国を滅ぼせると思わせるのです」
「滅ぼすのではなく・・・ですか?」
「そうです。騎士は平民に対して剣を振り下ろしたりはしない、だからこそ平民は騎士が剣を抜く時は首と胴が離れる時だと言う事を知っているし畏れ敬うのです。つまり・・・」
「古代兵器を使わない事で戦争を回避し、その上で友好国、属国に・・・」
「正解です」
「なるほど、では我が国が保有する古代兵器を総て供出致します。経緯は知りませんがこうして見ると古代兵器を手に入れたのがほかならぬファウンランドで良かった。我が国は喜んで全面協力させていただきます」
その言葉につられるようにドワーフ族国以外のそれぞれの代表が自国の古代兵器の供出と不可侵の誓いを申し出た。憮然として腕を組んだドワーフ族国代表にヂキール国の代表が声をかけた。
「代表殿、遺物の供出はともかく不可侵の条約は結ぶが宜しかろうと思います」
「何を言うか!我々は今まで他国を侵略した事など1度もないわ!条約を結ぶまでもなく今まで通り生きて行くだけの事だろうが!」
ドワーフの怒声によって険悪な雰囲気になりそうになったその時、ハイネルドが割って入った。
「ドワーフ族国代表の言葉はごもっともです」
「な、何がもっともなのですか。このような思い上がった物言いに・・・」
「黙れ!」
ハイネルドのこの言葉にはヂキール国王以上にドワーフが驚いた。
「正直私はこの会合にドワーフ族国の代表に来て頂けるとは思ってもみなかった」
「このような者が参加したからどうだと言うんですか?何の役にも立ちはしないでしょう。そんな事よりも私を侮辱した事に対して謝罪を要求します」
「思い上がるな!いい加減にしねえとブッ殺すぞヂキール国王!!」
「ひ、ひぃぃぃ・・・!」
「いいか、よく聞け。ドワーフ族を始めここに来ていないエルフ族、有翅族、竜人族、獣人族などを下等な生き物のように扱う奴らが、困った時にだけ助け合おうなどと虫のいい話をして来たら腹が立つのが当然だ」
ハイネルドの剣幕にヂキール国王が震え上がった。もはや謝罪を求めるとか戦争も辞さないなどと言う気概さえ吹き飛んでしまった。また、己の至らなさを思いドワーフの代表が恥じ入った。
「私の知る限り自国を守るために武器を手にする事はあっても彼らが今まで他国を侵略した事など1度もない。平和を愛し穏やかに暮らす彼らをこれ以上侮辱すると言うのなら立ち去るが良い」
「いや・・・その・・・私が悪かった。貴国に見放されたら我が国は滅んでしまう」
誰からともなく暫し休憩を入れようと言う声が上がり、ハイネルドの合図で軽食とワインが振る舞われた。
各国代表と歓談する中でシャルムと言う小国の代表がハイネルドに話しかけた。
「こんな事を話しても信じては貰えないと思いますが・・・」
「何かこの件に関して知っている事でも?」
「いえ、まぁ・・・私の国には予言の書と呼ばれる石版がありまして、これから先数千年分もの予言が書かれているのですが、その中に今回のヘルプラネットを指すような記述があるのです」
「それは興味深い。ぜひお聞かせ願いたいですね」
「では・・・人の造りし太古の星が降臨する刻、王宮の間は金色に割れて神の遣われし救世の士現る。神の徴を体に受け、聖なる獣を従えて・・・」
「・・・?・・・どうしました?」
言葉が途切れたのを不審に思って尋ねると、シャルムの代表がハイネルドの後ろを指差してワナワナと震えている。振り返って代表の指し示す方を見やると金色に輝く点が浮かんでいる。
その点が伸びて線になり、やがて縦長の四角形となった。
「これはいったい・・・!」
周囲に居た者たちもざわつき始めた時、その金色に光り輝く四角形が大きく動き、中からアマイモモが、次いでレントが姿を現した。あたりを見回して高貴な服装の集団が蒼褪めた顔をして自分を見ているのに気付いたレントがバツが悪そうに言った。
「アマイモモ、出る所を間違えてないか?」
「うーん、どうでしょう?レントさんが具体的にどこに行きたいと言わなかったので無作為に来てしまったのですが・・・」
「とりあえず他の場所に行こう」
再び扉の中に戻ろうとしたレントの手をシャルムの代表が掴んだ。
目に涙を浮かべて大きな声で叫びだす。
「おお神よ!私は今大いなる奇跡に立ち合いました。あなた様こそ神が遣わした救国の士にございます」
「へ?救国の士?違う違う。アマイモモ、あなたからもなんとか言ってください」
「うん、なるほど。私はこれで失礼するよ」
「なるほどじゃなくて、あ、ちょっと!アマイモモー!」
レントの言葉など意にも介さずにアマイモモはかき消すように居なくなってしまった。
戸惑うレントと感激して叫ぶシャルム代表、驚愕する各国の代表を見てハイネルドが呆れ顔でつぶやいた。
「あれが救国の士なら遣わした神は破壊神だろうよ」




