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第六章 邂逅の獣 28

 スミスがレントに背を向け、黒い翼を広げて舞い上がった。

だがそのまま飛び去ろうとしたスミスは見えない壁にでも当たったように体勢を崩して墜落した。

無様に這いつくばるさまを冷たい目で見下ろすアマイモモが、その視線をレントに移した。


「さっきの剣さばきは見事でした。並の人間なら、いや、相当な場数を踏んでいる猛者でも上位に在る者にあれほどの剣は奮えない。むしろ剣を向ける事さえ出来ない者がほとんどです」

「それでも軽く躱された。あまり褒めないでくれ」

「加護を使ってましたからね。対等な戦いならオルトロスのように潰されていたかも知れない」

「・・・オルトロス?」

「忘れたんですか?あなたが殴り殺したカルビの弟ですよ」

「ああ、あいつか。だがスミスはあいつほど弱くはない」

「あなたよりも強い?」

「それはわからない」

「そうですか。実は私にもどちらが強いのかわからないのですよ」


 アマイモモがそう言って再びスミスを見下ろした。


「スミス、加護を使えなくしたらお前とレント、どっちが強いと思う?」

「私が負ける訳などありません。でもあなたは彼に勝とうが負けようが私を消滅させるのでしょう?」

「ふむ、自信があるのか。だったらレントを殺してみろ。そうすれば見逃してやろう」

「本当ですか?じゃあ私のその後の行動も見逃してくれますか?」

「当然そうなるな。うむ、いいだろう。だが負けた時は相応の覚悟はしてもらう」

「ええ、それで結構です」


 狡猾そうにレントをちらりと見たスミスがゆっくりと体を起こすと口元に笑みを浮かべた。まるでこれからどういたぶってやろうかと野盗が行商人を見るような目だ。

それに合わせて踏み出そうとするレントの両肩をアマイモモが掴んで止めた。


「レント、上位者が姿を現し対象者と共に在る場合、その対象者は人同士の争いの理からは隔絶される。つまり今この瞬間、この世界の人間は誰1人として君に危害を加える事は出来ない」

「なるほど・・・続けてくれ」

「だが上位者は違う。私も含めてオルトロスも彼も君を殺す事が出来る。それは君も同様だ。我々を殺す事が出来る。だが違うのは我々は生き返る事ができるが君は死んだら終わりだと言う事だ」

「そうですか。・・・だがそれは僕にとっては当たり前の事でしかない。死んだら終わり、やり直しなどきかない」

「確かにそうだ、そこが人間の魅力だったな。では君の意思で戦う事に命を懸けることになるが良いかな?」

「問題ありません。コイツは危険だ。絶対に生かしていると碌な事がない」

「決まりだな。ではスミスの加護を外し・・・」

「その必要はありません。そのままで結構です」

「圧倒的に不利な戦いになるが?」

「だから余計に必要ないんです。負けた言い訳にされかねないですからね」

 言いながらレントが双剣を床に放った。驚いたアマイモモがレントの顔をまじまじと見つめた。

2人のやりとりと放り投げた剣を見てスミスがこれ以上ないと言うほどの邪悪な笑顔を見せ、上着を脱ぎ捨てて構えると嘲るようにレントに囁いた。


「私はアマイモモ様のように甘くはない。後悔しても後戻りは出来ませんよ」

「どうかな?お前に俺が倒せるのか?」

「あなたは本当にわかってない。私の本質は悪魔の中でも最も他者の苦痛を至上の歓びとする邪悪なのですよ」

「へぇ、そうかい。だがそれは大した事じゃないな」

「やはり理解できないようですね」


 言うと同時にスミスがレントの視界から消え、その直後レントの左脇腹に痛みが走った。

血に濡れた手を誇らしげに前に突き出してスミスが嬉しそうに笑った。


「まずは脇腹の骨を1本折らせていただきました。何が起こったのかも理解出来ないでしょう?これが私とあなたの実力の差なのですよ」

「いや、わかったよ。確かに早いがその程度ならやはり大した事はない」

「負け惜しみですか?ではこれならどうです?」


 スミスが再び瞬時にレントの左横に移動して、折ったばかりの肋骨の下に指を差し込んだ。枯れ木の折れるような音と感触がスミスの手に伝わる。だがその手を強い力で掴まれた。

慌てて振りほどく間も無く両手で指を抑えられる。スミスが何が起こったのかも分からないままにレントが力任せに薬指と小指を手から引き裂いた。

スミスが堪らずに叫び声をあげたがレントは手を離さない。スミスはダンスでリードされるようにレントに体を回され、倒されて肩を外された。更に腕を鈎の形に曲げられて手首は両手で掴まれ、脇の下に足を絡められている。


「ははは、やりますねぇレントさん。しかし肋骨2本に対して指2本では足りずに肩の骨まで外すのはいかがなもんですかねぇ?」

「骨か・・・」

 誰にともなく呟くとレントは腕を掴んだまま縦に回った。

骨の外れた肩が絞った雑巾のように捻れ、筋肉繊維の切れる音と軋みがスミスの頭の中に響いた。

更にもう1回転、更にもう1回転。






「やめてくれ!腕が、腕が千切れてしまう!!」


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