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第六章 邂逅の獣 27

 海を横目に見ながら歩くレントの胸に様々な思いが去来した。

なぜトリトンはわざわざ自分の名前の話を、しかも断食と言う言葉を伝えて来たのか。

もしかしたらこれはある種の予言のような物かも知れない。同じような出来事を別の人生でなぞるように経験している以上、自分はいずれ断食にて自らの命を絶つ事になるのではないか?

少なくともその可能性は考慮し、避ける努力をすべきではないのか?トリトンはその事を暗に伝えて来たのかも知れない。

ふと気が付くとレントの横にスミスが歩調を合わせて並んできた。

多分そう言う事になるだろうと思っていたレントは別に驚きもしなかったが、スミスはそれがちょっと不満そうだった。 


「あれ?驚かないんですね?」

「そろそろ来る頃だと思ってましたから」

「そうですか。ともあれ為すべきを成し、戻る時が来ましたね」

「結局何もしなかったんですけどね。むしろ僕がここに来た事で何か変わったのかな?」

「うーん・・・そうですね。もうここを立ち去るレントさんには言っても構わないでしょう」

「と言うと僕が来た影響で何かが変わったんですか?」

「ええ。死なないハズだったブライが死に、逆に死ぬハズだったフレンダー王とティーワラー博士が生き延びましたね」

「ブライ?ああ、あの王子か。しかし博士が死ぬハズだったとはね」

「もっともフレンダー王はともかく年齢的に言って博士の方は生きてもせいぜいあと5年ほどでしょうが」

「そのせいで未来が少し変わるかな?」

「時間は歴史を修復しますから、そんなに変化するって事はありません。本当にほんの少し、ですね」

「そっか・・・、ところでエイボンはどうなったんですか?」

「ああ、彼は生きています。今のところはですがね」


 スミスの言葉を聞いたレントの背筋に冷たいものが走った。

まるで悪霊に出会ったかのようにまじまじとスミスの顔を見ると慎重に探りを入れた。


「エイボンは・・・本来はどういう運命をたどる事になっていたのですか?」

「彼はクーデターを成功させ、ブライを傀儡の王として擁立して20年ほどグレイブを統治します。もちろんミクラを属国としてね」

「・・・なるほど、・・・ところで」


 レントは殺気や不安を気取られないようにスミスにカマをかけた。


「エイボンが言ってたんだがスミスさん、あなたはエイボンと契約を結んでいたそうですね」

「はははは、あの男も案外と口が軽いですね」

「これから奴を助けに行くつもりですか?」

「それも悪くはないですが海底で狂人となった男を救い出すよりももっと良い手があります」

「良い手・・・ですか」

「ええ、ヒントはあなたがくれました」

「ヒント?」

「ええ、財宝病の治療法です」

「言っている意味がよく分からないですね。王女が死んだ後に治療法が分かっても仕方ないでしょう」

「だからこそレントさん、あなたが来る前の世界にもういちど遡るんですよ」

「遡る?それで今度はどうするつもりなんですか?」

「聞かなくても察しはついているんじゃないですか?」

「ああ、だがスミスさん、僕はあなたの口から直接聞きたいんですよ」

「くだらない。聞けばどうにかなるんですか?」

「少なくとも阻止する大義名分はできます。その過程であなたを死なせてしまったとしてもね」


 剣の柄に手をかけたレントを見てスミスが嘲るように笑った。


「意気は認めますがあなたには私を倒すなんて事は出来ませんよ。・・・ところでレントさん、あなたは結局最後まで気が付きませんでしたね」

「何が・・・ですか?」

「アスタクリス王女が生まれ変わる前のサンドラさんだって事ですよ。知っていたらそんなに冷静じゃ居られないですよね」

「・・・あ!!」

「ちょっと考えれば分かりそうな物ですがね。むしろ気付きたくなかったんですかね?」


 スミスが言い終わるのと同時にレントが剣を抜き放った。

雷光が走るほどの速さにも関わらず、スミスは薄笑いを浮かべて軽々と避けた。


「むりむり、ただの人間のあなたが私に傷を負わそうだなんて思い上がっちゃいけません」

「確かに手応えは感じられなかったが・・・血が出ているぞ」

「え?」

「胸のところに血が付いている」

「ああ、これはあなたの斬撃とは無関係です。・・・実はちょっとアマイモモを怒らせてしまいましてね。危うく心臓を握り潰される所でした」

「なんだ、あんたアマイモモより弱いのか。案外と大した事ないんだな」

「幼稚な事を。別に私が彼より弱いと言う訳ではない。我々の世界には序列と言うものが・・・」


 話している2人の横をアマイモモが通った。その後ろから真っ黒な影が数体、テーブルや椅子を持って踊りながら付いてくる。アマイモモがパチンと指を鳴らすと影たちがテーブルを設置して紅茶と菓子を用意した。

恭々しく影が下げたイスに座ると紅茶をひとくち啜った。


「ああ、お2人とも私に構わず続けて下さい。それにしてもスミス、たった今初めて知ったよ。お前は私よりも強いのか」

「いえ、決して、決してそのような事はありません」

「だがお前は私より弱い訳ではないと言ったな」

「それは本心ではありません。あくまでもこの人間に対して言っただけで・・・」

「お前はレントに対しての私の評価を下げた。つまり私とレントとの信頼に傷を付けたのだぞ」

「そんな、大げさな・・・」




「大げさか、ずいぶんと偉くなったものだな。・・・私の怒りに触れた自覚すら無いのか!!」

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