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第六章 邂逅の獣 24

 轟天号は艦首をレントたちに向けたままだったがまるで動く気配が無い。

ルクレがふわりと轟天号へと飛んで行くとスッと溶けるように中へと消えた。

艦内の様子が遠目に見えるが、皆驚きと怒りとを顕わにしていた。分厚い強化ガラスや艦内の鉄壁を壊して脱出するなど彼らには、いや、エイボンにさえも恐らく不可能だろう。

気が進まぬ事ではあったがレントはティーワラー博士に耳打ちした。

一瞬険しい顔をしたティーワラーが至って穏やかにレントに告げた。


「ああなるほど、それは考えていなかったな。まぁ任せなさい」

「いったいどうするつもりですか?」

「うむ・・・秘密と言う物は知る者が少なければ少ないほど良いのだ。この意味はわかってもらえるね?」

「つまり、僕は知らない方が良いと・・・言う事ですね」

「すまない、君を信用してない訳では無いんだが国の大事に関わる事なのでね。とにかく君もそのひどい怪我を早く治療しなくてはな」


 轟天号が向きを変えて急速に飛び立つのを見送りながらティーワラーが通信機で何やら指示を出していた。やって来た治癒師が傷を塞ぎ、癒している中、急にレントの視界が暗くなった。

レントはやっと額の傷が塞がれた事によって再びエリクシアの中に戻ってしまった事に気付いた。


《これで終わったのかな?》

《我にもわからぬが、これで隷属の要求も無くなるだろうし、何よりも医療協力を要請出来る》

《これでアスタクリスの財宝病が治ってくれると良いがな》

《うむ。我にはこれ以上何も出来ないが、きっとグレイブの医者が治してくれるだろう。だが・・・》

《ん?だがどうした?》

《エイボンの処置だ。おそらくは死刑だろうが、奴がおとなしく刑に処されるとは思えんのだ》

《ああ、その事か。それは心配しなくて大丈夫だ》

《なぜそんな事がわかるのだ?》

《あいつはさっき飛んでいった搭乗型ミサイルの中で死ぬ。確実に死んだ事を確信出来るまでずーっとあの中に、それこそ骨になるまで居る事になるだろう。》

《まさか、そんなむごい事はせんだろう》

《するさ。想像も及ばぬ力を持った魔法使いの脅威ってのはそのぐらい人の心を脅かすんだよ》


 そこまで話した時、蒼黒い煙を纏った魔法陣が目の前に現れエリクシアを包み込んだ。

先ほどエイボンが生まれ変わっても詠唱魔法を使えないようにした呪いと同じ物だった。


《また何か呪いをかけたか。まぁどんな呪いか大体察しがつくがな》

《どんな呪いなんだ?》

《確信がある訳じゃないがひとつ言っておこう。今後は城壁の上に立つな》




 時を同じくしてエイボンは怒りに涙を流しながらエリクシアに呪いをかけていた。

偽の通信文によりクーデターが成功したとの報告を受けたグレイブ王妃が城壁の上でエイボンを迎えに出た。

その王妃を搭乗型ミサイルが城壁ごと粉々に打ち砕いたのだ。

もとよりエイボンはグレイブ王妃を愛している訳ではなく、ただの出世する為の足掛かりとしか思っていない。だが、この身の窮地にあって自分を助けてくれるだろう唯一の希望を目の前で失ってしまったのだ。

自爆スイッチのある司令室へのドアは固く閉ざされ、航行操作も脱出フロートの射出も出来ない。

これがどういう事なのかエイボンは理解した。すべての希望が絶たれたと言う事だ。

この艦には艦内に毒ガスを充満させたり海水で船室を満たすような設備は無い。

そんな中で自分たちを、艦内に居る者たちを殺す方法はひとつしかない。

供給を遮断する事。酸素を、水を、食料を、そして恐らくは光さえも。

さて我輩が死ぬ時の死因はいったい何であろうかと他人事のように考えた。

窒息死なのか渇死なのか餓死なのか、恐らく発狂して自殺する事だけは無いだろう・・・


「エイボン指令、我々はどうなるのでしょうか?」

「我々は断罪に処されるのでしょうか?」


 そんな良いもんじゃない、最低の殺され方をする。そう言おうとしたエイボンだったが口をついて出た言葉はまったく別だった。








「これより我輩たちは海底にて暫し潜伏する。何も心配はいらない。きっとうまく行く」

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