第六章 邂逅の獣 20
レントの剣に迷いやためらいは無い。
そもそもが剣とは相手を倒す為の最も有効な手段のひとつとしか思っていない。
当然のように投擲武器として扱いもするし踏み板にもする。
命を預ける以上当然剣は大切に扱いもするし手入れも怠らないが、必要とあれば捨て去る事に躊躇いは無い。
レントと対峙した瞬間エイボンはそれを理解する。そして同時に戦慄した。
野生の巨大な肉食獣、この男は人の思惑の埒外に住む、人とは相容れない異端なる者だ。
「わかる、わかるぞ。その目は数え切れないほど人を殺してる者の目だ」
「お前もな」
「吾輩はお前とは違う。目的の為ならば確かに人を屠る事に躊躇はしないがお前とは別物だ」
「いいから早く来いよ。王に逃げ切られてしまうぞ?」
「あんな男などどうでも良い。所詮は王位に就いていると言うだけのただの人間だ。いつでも殺れる」
「俺もただの人間だ。さぁ、やろうか」
レントの申し出に対してエイボンが剣を鞘に収める。じっとレントを見つめたまま口を開いた。
「惜しいな。吾輩の部下になる気は無いか?」
「答える前にひとつ聞こう。エイボン、お前は剣士か?それとも魔法使いか?」
「魔道士だ。それがどうかしたか?」
「魔導士が剣を身に付けてるのは男の機能を補助する為だと言うのは本当か?」
そこまで言った時、レントに衝撃が走った。既視感、いやもっと強い確信じみた感覚に心が震えた。
エリムン王太后、レサール王子、そして魔道士にして剣の使い手ガーラ公爵。
自分は今まさに、かつての体験と似通った場面に遭遇している。
その時レントの予感を裏付けるように管楽器の奏でる厳かなメロディーが周囲のあちらこちらから流れた。
〈緊急事態発令、緊急事態発令、国家転覆を目論む勢力により国王暗殺が企てられた。尚、国王は無事安全を確保された。国王は無事安全を確保された〉
〈すべての兵士に告ぐ、クーデターを鎮圧せよ、首謀者エイボンを捕えよ、クーデターの協力者は投降せよ〉
〈繰り返す。すべての兵士に告ぐ、クーデターを鎮圧せよ、首謀者エイボンを捕えよ、クーデターの協力者は投降せよ〉
「終わったなエイボン。お前の部下になる事は出来ない。さぁ、おとなしくその首を撥ねさせろ」
「面白い、やって見せろ!」
一足飛びに抜き放った剣を躱しながらレントが横に走り出した。
並走するエイボンと刃を交わしながらレントの脳裏に嫌な思い出が蘇った。
あの時と同じだとするとエイボンは周りを巻き込む大爆発を起こす可能性が高い。そしてもうひとつ、エリムン王太后の時と同じくエリクシアが濡れ衣を着せられて反逆者と目される可能性も高い。
自分の体験と今の現実との食い違いが果たしてどう作用するのか見当もつかない。
ハイネルドはかつてはフレンダー王だったかも知れない。だがブライだった可能性だってある。
どちらの生まれ変わりでもない可能性だってあるのだ。
そこまで考えが及んだ時、不意にトリトンの言葉が脳裏に蘇った。
―ほんの5年ほど前に宮廷に紛れ込んだと思ったら王妃に取り入って軍司令にまで出世している―
レントが太いため息をついてから小さくつぶやいた。
「ああ、なるほどそう言う事か」
「何がだ?」
「エイボン、お前グレイブの王妃と出来てるな」




