第二章 魔王の宴 2
物語もやっと中盤に入ってきました。
そろそろヒロインのフェイ・ザルドスの本来の名前を使わないといけないですね。
と言っても明確に意味とか決めてた名前が無いので、
よき理解者でもあり、大事な人でもある人のHNを使わせてもらおうと思ってます。
事後承諾というか事後連絡ですな(ーー;)
いやいや、きっと笑って許してくれると思います・・・・多分ね。
シカとナノが戻って来たハンニバルに深刻な顔で話しかけてきた。
「あの、このギターってヴァイオレットローズですよね?しかもグラヌール工房の刻印がしてあるんですが・・・」
「私のはスタリューバラッドのビンテージ・・・・こんな希少なギターを貰うわけにはいきません。」
2人の言葉に意外そうな顔をしたハンニバルが笑い出した。
「価値が分かっているのなら尚更受け取ってもらいたい。どちらにしろ私はギターを弾いたりする趣味はないんで宝の持ち腐れなんだよ。」
サリティが肉を頬張りながら話に割り込んできた。
「なんだそのバイオとかバラッドってのは?」
「普通のギターってのは桜の木で作るんです。でも高価な物はバラの木で作ります。ギターを作れるだけの大きさに木が育つまで最低でも200年、その材料となるバラの木の中で数万本に1本の割で表皮に近い部分が紫色になっているのがあるんです。」
「なるほど、それがヴァイオレットローズか。」
「ええ、そしてグラヌール工房とスタリューバラッドと言うのは世界的に有名な芸術品と呼ばれる楽器を作る2大ブランドです。」
「なるほど。」
「しかもしかもスタリューバラッドは創始者1代限りの工房だったのでその死後は製作されていません。遺作になったギターが作られたのが今からおよそ50年前、このギターはそれ以上に古い事になります。」
シカとナノの説明にその場に居た一同が感心した。
「なぁおっちゃん、そのギターってどのぐらい価値が有るんだ?」
「ん?うむ、まぁ2本で王都の中心部に家を建てられるぐらいかな?」
「それってスゲェ値段って事じゃねぇか。」
「値段は問題じゃない。要はその2人にとって良い音が出るかどうか、それだけの問題だよ。」
ハンニバルはそう言ってシカとナノに向き合った。
「音が気に入ったのなら貰って欲しい。君達には本当に迷惑をかけて済まなかったね。」
宴もたけなわとなり、ナノとシカはひと稼ぎしてくると言ってハンニバルを通して契約したパブに出かけて行った。
意外な事にオーナーがこの2人、ツインリーフのファンだったらしく、さっそく今夜からでも歌いに来て欲しいと言って来たのだ。
2人の後ろ姿を見送っていたサリティが大きく伸びをして言った。
「さぁて、俺もソフィーが待ってるからそろそろ帰るぜ。」
「鉱山の連中と所長によろしく言っといてくれ。僕も改めて祭りの日に顔を出して今後の事を検討したいと思ってるよ。」
「何だ、お前この家を継ぐなり王都で王に仕えるなり、いくらでも何とでもなるだろう。無理に鉱山に戻る事ねぇよ。」
「それもどうなのかなぁと思ってねぇ・・・・」
「まぁ好きにするさ、おーいドルテさん。送ってくれよ」
「私の運転で良ければ送ってやるが小便を漏らすんじゃないよ坊や。」
見送りながらカルビがレントに声をかけた。
「ご主人様、私たちも部屋に戻りましょう。」
「あ、ああ。戻ろうか。」
部屋のベッドに腰掛けたレントにカルビが嬉しそうに言った。
「この世界は色んな素敵な香りで溢れてるんですね。アマイモモ様と一緒の時はコーヒーの香りしか楽しみがなかったからすごく嬉しいです。」
「そう言えばカルビ、こっちに来てから何も食べてないんじゃないか?スイカも食べなかっただろ?」
「あの、・・・・・食べてもいいんですか?」
一瞬嫌な予感に襲われたレントが言い直した。
「普通に人が食べてる物なら食べて構わない。それ以外はダメだ。」
「やったぁ!ありがとうございますご主人様。」
「さてと、で、精霊の騎士について話があるって言ってたけど、どんな話なんだい?」
「少し長くなります。成り立ちと歴史みたいなものですね。」
「ふむ、伺いましょうカルビさん。」
「まずはご主人様、龍を見た事はございますか?」
「一度も観た事無いけど、それと精霊の騎士とどう関係があるんだい?」
「それは聞いていれば分かります。さて、亜種も含めて龍には色んな種類がありますが大別すると2種類に分けられます。」
「良い龍と悪い龍?」
「ではなくて、爬虫類の一種としての龍と、人間その他が変質した龍の2種類になります。」
目を丸くして驚いているレントを見ながらカルビは話を続けた。
「人が闇の従魂を取り入れてもそれが融合する事はありません。だから能力や武器として扱えますし、それこそが精霊の騎士な訳です。」
「なるほど。」
「従魂は人の腰のあたりから体に入り、肩のあたりから出てくると言う風に循環しています。しかしこの世に存在するある物質が腰の吸い込み口を塞ぐと、媒体としてのその物質が従魂と体とを融合させるのです。」
「融合した人間が龍に姿を変えると言う訳か。」
「そうです。だからこそ従魂の呼び水として、儀式で人の言葉を話す元人間の龍の牙を用いて居たのです。もっとも龍以外の姿になる場合の方が多いですけどね。」
「で、その物質ってのはなんだい?」
「ミスリル銀です。」
「ミスリルか・・・・・確かにありそうな話だな。」
「ご主人様、人の体の寿命ってどのぐらいが限界だと思いますか?」
「普通は50とか60ぐらいまで生きるし長生きな人は80ぐらいまで生きるだろう?まぁ限界と言ったら100歳ぐらいじゃないのか?」
「成長が止まる年齢の約10倍、180歳から220歳ぐらいまでが限界です。そして精神の寿命はその倍、300から500ぐらいが普通の人間の限界です。」
「カルビ、一体何を言いたいんだ?」
「龍その他に変質すれば肉体寿命は遥かに伸びますが精神寿命は変わらないという話です。」
「ふむ。」
「土台となる話は以上です。」
一旦言葉をとぎらせ、カルビはまた口を開いた。
「それでは私の古い友人の話をさせていただきます。彼女の名前はブルースカイ、元人間です。」
カルビは昔の懐かしい記憶を呼び戻しながら語り始めた。
「彼女は武具一般を製造する職人でした・・・・
世界中から集められた希少金属、秘技、秘法が彼女の工房に溢れかえってました。そしてその中に闇の従魂があったのです。
従魂が魔法属性である事に着目した彼女はどうにかして武具に組み込んでみようと思いました。
もちろん効用などは全く知らなかった為、とにかく合成してその後で検証しようと思ったんです。
しかしどんな金属にも石材にも合成する事は出来ませんでした。
液体にも馴染まず、動物に飲ませてもすぐに口から戻ってしまいます。
唯一反応を示したのは骨でした。
骨の見た目は変わらないのに従魂が容器の中で減っていたのです。
不審に思ったブルースカイは骨の重さを測ってみました。
結果重さに変化は無いものの、その骨にはとてつもない強度が付加されていた事が判明したのです。
硬すぎて割って中を確認する事も出来なかった為、あらかじめ刃物のように研磨した骨を漬け込んだり、細切りにした骨を漬け込んだ時間毎に折ったり曲げたりしながら強度を調べたりしたのです。
その実験の日々の中で事故は起こりました。
扱っていた骨の断片が指先に刺さったのです。それと同時に石瓶の中にあった従魂が、骨の断片を通してブルースカイの中に入り込んだのです。
つまり彼女は精霊の騎士と同じ状態になってしまったのです。
息を止めるようにして聞いていたレントが太いため息をついた。
「ご主人様、驚きましたか?」
「ああ、少し・・・・驚いた。」
「続き、聞けますか?」
「ああ、大丈夫だ。続けてくれ。」
彼女はその後、長い時間をかけて自分の体と動物を使い、実験と検証を続けました。
従魂の染み込んだ骨と牙を通して生き物の体の中に従魂が入り込むこと。
ブルー自身の歯で相手を傷付けても従魂は反応しない事。
個体差によって従魂を引き寄せる者とそうでない者が居る事。
身体と従魂は完全には融合せず、循環する事。
自然、彼女は残り少なくなった従魂を見込みのある戦士に注ぎ込みました。
感謝される一方で妬みややっかみも買いました。
そんなある日、彼女は従魂を纏ったマウスにミスリルが異常に反応するのに気が付いて、一番反応の大きな腰の部分にミスリルの欠片を刺しました。
マウスは倒れ、体を痙攣させますが死ぬ事はありませんでした。
それから約2週間後、マウスは全く別の異形の生物となって再び元気に活動を再開しました。
ミスリルを媒体としてマウスと従魂が融合する事を発見したのです。
しかも本来の寿命を過ぎても全く弱った様子も死ぬ様子もありません。
何よりもブルーが驚いたのは異形のマウスに噛み付かれたマウスに従魂が入り込んだ事でした。
彼女は自分の研究がとてつもなく罪深い物だと思い知らされたのです。
即座にすべてのマウスを処分しました。
それ以来ブルースカイは研究をやめ、従魂を人に使う事もやめました。
しかし隠遁生活に入ったブルースカイを待っていたのは嫉妬と恐怖から怒りに取り憑かれた人々からの襲撃でした。
2度3度と戦い、最後に軍隊が出撃してきた時、ブルースカイは絶望を感じて地中深く穴を掘って・・・・その穴の底で自らの腰にミスリルを突き刺したのです。
それから約半年の後、私は気の触れた龍を始末するために地上へと呼び出されました。
半年の間にブルースカイは文明を3つ滅ぼしていました。
私が彼女に会ったのはそれが最初でした。
「なんだかすごい話だな・・・・」
「気が滅入る話ですよね。」
「ともあれ、そのブルースカイって人が精霊の騎士の始祖になるのか。」
「そうです。全ての始まりは彼女から起こったのです。」
私が彼女の翼を折った時、彼女は魔獣になってから初めて正気を取り戻しました。そして3つの文明を自分が滅ぼしてしまったと知ってひどく傷ついていました。
結局私は、今後街を襲ったりしない事を条件に彼女を生かすことにしました。何よりも戦っている最中に見た彼女の半生の記憶に衝撃を受けたのです。私にはブルーを殺すことは出来ませんでした。
それに、私が手を下さなくてもいずれ彼女は死にます。
人間の精神の寿命は長くても500年。
せめてその間は穏やかに暮らして欲しいと思ったんです。
不意に口をつぐんだカルビにレントは察した。
「穏やかには暮らせなかったのか。」
「はい。龍を倒して名を上げようとする者が後を立ちませんでした。」
「あー・・・・そうだよなぁ。そうなるよなぁ・・・・」
私が最後に彼女を訪れたすぐ後に彼女は死にました。
龍退治に来た騎士が連れて来ていた少年に恋をしてしまったのです。
精神寿命も尽きる頃ではあったのです。
彼女は少年に龍退治の栄誉と精霊の騎士の強さの両方を授けたいと思い、それを実行したのです。
彼女は少年の体を牙で切り裂くと同時に自らの首を掻き斬ったのです。
少年は倒した龍の血を浴びて不死身の体を手に入れたと噂されるようになりました。
私はブルースカイの亡骸を確かめてすぐに魔界に戻ったので、その後少年がどうなったのかまでは分かりませんが・・・・・
ブルーは、彼女は最後に幸せだったと思いたいです。
「・・・・なぁカルビ、その少年の名前は何と言ったんだ?」
「名前は確か・・・・ジークフリードでした。」
レントの様子がおかしい事に気が付いたカルビが問いただした。
「ご主人様?その名前に何か覚えがあるんですか?」
「伝説と言うか民間伝承で有名な話なんだよそれ」
「ブルースカイがですか?」
「いや、龍の名前は知らない。でもジークフリードは知ってるよ。」
レントの言葉に目を輝かせて、カルビは話をせがんだ。
「はやくはやく、その話を教えて下さいご主人様」
「えーと、とにかくそいつが龍退治に行って首尾よく倒すんだが、その時に龍の血を浴びて、剣で切られても刺されても傷を負わない不死身の体を手に入れるんだ。でも血を浴びた時に体に木の葉っぱがくっついていて、そのせいでそこだけが弱点になってしまうんだよ。」
「それってやっぱり腰のあたりですか?」
「あー・・・よく覚えてないけどそんな気がする。」
「うんうん。それからそれから?」
「確かその弱点を恋人だったか奥さんに教えるんだよ。んでその人はその人で敵に通じている裏切り者にまんまと弱点を教えちゃう。」
「それってダメダメじゃないですか。」
「うん。最悪に頭が悪いと思うよ。しかもその人わざわざ弱点の部分に印まで付けたんだよ。まんまと騙されてね・・・・」
「ありゃー・・・・でもそれだと・・・・」
「うん。当然弱点を刺された挙句に八つ裂きにされた。」
「ですよねー」
「僕も腰の部分にミスリルを刺されないように気を付けないとな。」
「ああ、ご主人様は大丈夫です。その気になれば媒体無しで魔獣にも神獣にもなれますからミスリルも反応しません。」
「・・・・・・」
「どうしましたご主人様?」
「お前恐ろしい事をさらりと言ってのけるな。と言うか神獣になれるとか聞いてないんだがどういう事だ?」
「それは私が聞きたいぐらいなんですが、ご主人様の体には闇の従魂と同じぐらい膨大な量の輝きの従魂が既に入っています。」
「・・・・え?」
「何か思い当たる事ありませんか?」
「ないない、全く思い当たる事なんて無いよ。」
「ですよねー、ハンニバルさんと対峙した時に闇の従魂と共に初めて発動したぐらいですから、今まで気が付かなかったのも無理ないです。」
ふと思い出したようにカルビが言った。
「ところでご主人様、滅んだ文明の都市ですが聞いた事はありますか?」
「何て言う所?」
「えーと、ひとつはネスカリカって所です。」
「・・・それ、禁断の地だよ。来訪者の遺物って呼ばれる機械がゴロゴロしてるって噂の太古に滅んだ文明都市だ。」
「あらまぁ。」
「いや、噂だけじゃなかったな、シユケが顔に付けてるレンズはネスカリカから掘り起こして来た物らしいからな。で、あとは?」
「直接ブルーがトドメを刺した訳じゃないんですが、半島ごと海底に沈んだ都市でレムリアと言う所がありました。」
「それは聞いた事無いけど、大きな地震でもあったのか?」
「・・・まぁ、あまり詳しくは・・・でもまぁ、そんな感じです。」
「歯切れが悪いなぁ。まぁいい。最後の一つは?」
「ここです。」
「ここ?イリア村?」
「やっぱり今はイリア村って言うんですか。滅んだ当時はマグタスって名前の都市でした。」
「マグタスってのも聞いた事ないけど・・・・やっぱりってなんだ?」
「ああ、ブルーが言ってたんですよ。」
そう言ってカルビは窓際のイスに腰掛けて独り言のように語った。
「この地に手元に残った従魂を注ごう。それが希薄になった従魂を呼び寄せていつしか泉になるだろう。遥か彼方の時を経て年老いた預言者が役目を終えてここに来るだろう。その老人の名はイリア。老人はここに村を作り余生を送るだろう。そして時々従魂を人々に授けるだろう。」
レントはカルビの言葉に黙って聞き入っていた。
くるりとレントの方を向いてカルビが微笑んだ。
「ブルースカイはご主人様の事も言ってましたよ。」
「え?」
「あなたは罪を問われ、定められた主と共に泉の底で泥が石になるほどの刻を過ごすでしょう。その後にあなたの元に訪れる人間の若者を自ら選んだ主として仕えなさい。」
カルビがニッコリと笑った。
「ブルースカイが私にそう言ったのよ。」
「なんでそんな事を言ったのかな?」
「さぁ?所でご主人様、知ってて損は無いと思いますが神罰にはルールがあるんですよ。」
「ふむ?」
「神は『全てを許す存在』なので、どんな罰を申し付けるとしても最後には許さなくてはいけないんです。だから永遠に罰を受けると言う事は無いんです。それはルール違反になってしまいますから。」
「ふむふむ。」
「だから100年に一度、ひと雫の水が垂れてきて、それが湖になるまでとか気の遠くなる年月を罰として与えられる事はあっても、『永遠に』針山の針を磨けとか言う罰は無いんですよ。」
「いや、どっちも僕にとっては永遠に近いけどね。」
カルビはレントに話さなかった事があった。
ブルースカイの話の続きである。
なぜその人間に仕えなければいけないのかをカルビは尋ねた。
その時のブルースカイの言葉だけを励みにカルビは永遠に近い刻を耐えて来たといってもいい。
ブルースカイの答えは単純明快だった。
カルビは今でもその言葉を明確に覚えている。
―その人こそがあなたが唯一、自らの意思で仕えた方の主魂を宿して
生まれてくる人だからです。―
「ご主人様。」
「え?なに?どうした?」
「私はご主人様にお仕え出来てとても幸せです。」




