第一章 (4)猛将の進撃 其の7
たった1人だけですが評価を、それも最高点での評価を付けて下さいました。
もうやめようとも思ったのですがもう少しだけ頑張って書こうと思います。
取り残されてぽつねんとして居た2人はどちらからともなく
「じゃあ、帰るか。」と言う事になった。
病院を出て通りの先を曲がった所でレントが置いてある木箱に座り込んだ。
「さてとシユケ、悪いんだけど抜いてくれるかな。」
アイリスの魔法で飛んで来た刃物が、レントの背中に5本ほど刺さったままになっているのだ。
「レント、お前こんな物が刺さった状態でよく平気で動けたなぁ。」
「平気じゃないよ。マジで叫びたいぐらい痛いんだぞ。」
「だろうな、金串なんか肩を貫通してるぜ。」
そう言いながらシユケは刃物を抜いていった。
「ところでシユケ、ルネアやアイリスって何でフェイじゃないんだ?」
「あー、使用人と聖職者はフェイじゃないんだよ。」
「ふむ?」
「使用人は婢女って訳じゃないが本人が同意すれば夜の相手をする事もあるし、シスターは神の花嫁って扱いだからな。」
「はぁ・・・・なるほどね。」
「よおし、抜けたぞ。」
「サンキュー、じゃあフェイが気が付く前に急いで帰ろう。」
レントは小走りをしてシユケもあとに続いた。
「出掛けてる事に気が付いたら何かマズイのか?」
「また村の広場で暴れるかも知れないじゃん。5人死んだってアイリスが言ってたけど僕が殺したのは2人だけだよ。・・・・多分ね。」
「まぁ言えてるなぁ・・・・あいつキレると手がつけられないからなぁ。」
「まぁ、そう言う所もかわいいよね。」
「どんな感覚だよ、僕なら嫌だがなぁ。」
レントはちょっと恥ずかしそうに言った。
「だってさ、僕の為にあそこまでしてくれる女の人なんて居ないよきっと」
「それを言ったら君も相当だがね。」
ハンニバルの家の近くまで来て、2人は庭の戸口にフェイが立っているのを見た。レントは手を振りながらフェイのそばに駆け寄った。
「フェイ、ただいま。シユケとちょっと散歩に行ってました。」
「そう、それはよかったわね。」
そう言うといきなりレントに平手打ちをした。
レントは避けずに叩かれた。
フェイは何度も何度も平手打ちを叩き込んだ。
そのすべてを避けずに黙って受ける。
顔が腫れ上がり、鼻血の出ているレントに向かってフェイが押し殺した声で言った。
「レント、あなた私のかわいいアイリスの鼻に指を差し込んで泣かしたわね。一体どういうつもりなの!」
「え、えーと・・・僕はそんな事してませんよ。」
「とぼけるな!」
フェイは叫ぶと更に平手打ちを叩き込んだ。
「あ、はい。思い出しました。・・・ごめんなさい。」
次いでフェイはシユケを睨みつけた。
「シユケ、お前もお前だ。近くに居てなぜ止めなかった?」
「いや、僕はレントに危害を加えないと約束したから・・・止めるのはいいけどそれで揉めても・・・・ねえ?」
「屁理屈を言うなー!!」
シユケも同じように平手打ちを喰らって口から血を噴き出した。
「ゴフッ・・・・ブフ・・・・」
レントもシユケも血だらけである。
「2人ともそこに座りなさい。」
「はい」
「はい」
その後平手打ちを交えながら2人は怒られ続けた。
「レント!今日は一緒に夜の散歩をしようと思ってたのに!もう知らない!晩ご飯も自分で何とかしなさい。今夜はそこで寝なさい!」
最後にそう言うとフェイは怒って家の中に入ってしまった。
「巻き込んでごめんよシユケ」
「まぁ気にしなくていいよ。それに殺す気が無いから平手打ちだったんだろうし、死ななかったから大丈夫。」
その言葉を聞いてレントが嬉しそうに笑った。
「えへへ、そうなんだよね。フェイってば手加減してくれちゃってさ、ますます好きになっちゃった。」
「君ねぇ・・・・早死にするよマジで。」
「ところでシユケ、体は動くかい?」
笑いながら話すレントの目が笑っていない。
ふとシユケがレントの手元を見ると小石で地面に字が書いてある。
《このまま話を続けて》
《道の向こうでこっちの様子を見てる奴らが居る》
「取り敢えずなんだな、顔を洗いたいね。」
「確かそこに井戸があったハズだよ。」
《立ち上がったらそのまま突っ込むぞ》
「じゃあ顔洗おうよ。さあ、立って立って、行くよ。」
2人で立ち上がり井戸に向かって歩いて行く。その途中で向きを変えて茂みの方にダッシュし、そのまま飛び越える。
そこには体のあちこちに包帯を巻いた5人の若者がしゃがんで居た。
2人は心底嬉しそうに若者たちを指差した。
「つげぐちつっくんみーーーつけたー」
「みーーーつーけたーーー」
すくみ上がった5人は怪我のせいで走って逃げる事すら出来なかった。
その若者たちを見ながらレントが言った。
「どうにもね、こいつらのせいでフェイとの夜のデートが出来なくなったかと思うとさ、殺意しか湧いてこないんだよ。」
「僕も後悔してるよ。君を止めなければ良かったってね。おかげで僕までフェイに打たれてお花畑が見えたからねぇ。」
「シユケ、君目が無いのに器用な事するね、」
「・・・・ごめん。傷つくからそこ突っ込まないでくれるかな?」
「あ・・・すまん。」
「まぁ意見が合ったところで、やっちゃいますか」
「賛成だ。」
言うなりレントは間近に居た若者の襟首を掴んで往復ビンタを喰らわせた。
倒れた若者はアゴが外れ鼻が折れ曲がったまま気絶した。
「こうして見ると分かるけどフェイはすごく手加減して叩いたんだね、何か愛されてるなーって実感しちゃうよ」
レントは自分で言って照れて笑い出したが、若者たちにとっては笑い事ではない。ここでこのまま殺されるかも知れないのだ。
「僕は君より全然非力だからこれで行かせてもらうよ。」
そう言うとシユケは体から腕の形にした精霊を出した。
そのまま若者を捕まえて精霊で往復ビンタを喰らわせた。
倒れた若者が痙攣したまま白目を向いている。
首が不自然な方向に折れ曲がっていた。
「シユケ、悪いけど残りの3人は僕にやらせてくれよ」
そう言ってレントは拳を握り締めた。
殴られたら恐らく若者は即死するだろう。
手を振りかぶったその時、シユケが止めた。
「レント、ちょっと待て、」
「ジャマしないでくれよ。こいつら殴らないと気が済まないんだよ」
「いや、だから・・・・レント、やめろってば・・・」
「しつこいな。僕は殴ると言ったら・・・・あれ?」
レントが振り向いたまま動けなくなった。
パンと包帯を詰めたバスケットを持ってフェイが立っていたのだ。
「ねぇレント、これは一体どういう事かしら?」
「え、えーと・・・泥棒を捕まえたところです。」
「見えすいた嘘をつくんじゃありません!」
「い、いやぁ、フェイって凄いね。全然気配を感じな・・・」
「関係のない事を言ってはぐらかさないで!」
2人は再び地面に座り、手をついてフェイに謝った。
「ごめんなさい。」
「すみませんでした。」
「で、どうなの?その2人まだ生きてる?」
2人が顔を見合わせて、シユケが諦めたように言った。
「1人、首の骨が折れて死にそうです。いや、もう死んだかも・・・」
「やったのはシユケでーす。手加減無しの往復拳骨でしたー」
「あ、きったねー!レントだって手加減無しだったじゃないか。」
「僕が往復ビンタした奴は生きてるもーん」
「やかましい!!」
フェイに一喝されて2人とも黙り込んだ。
「うん、まだ生きている。シユケ、家の者に病院に運ぶように伝えよ」
嫌そうな顔をしているシユケをフェイが怒鳴りつける。
「早くせぬか!この者たちも付き添わせよ。」
「は、はいいいいいい!」
慌ただしくシユケと若者たちが動き回ってるのを横目で見ながらフェイはレントに問い質した。
「ねぇレント、なぜこんな事をしたの?」
「・・・・・」
「黙ってたらわからないわ。ねぇ、どうして?」
「フェイとの夜散歩のデートがこいつらの告げ口のせいでフイになっちゃったんで・・・・八つ当たりです。」
横を向いて口を尖らせながらレントが呟いた。
フェイは困ったように少し笑ってレントの頬を両手で優しく挟んだ。
「痛かった?」
「少しだけ、でも僕が悪かったから叩かれて当然だよ。」
「私ね、少しづつレントの事が好きになってるの。」
「え?・・・えっと・・・ありがとう。」
「だから嫌いになるような事はしないでね。もうアイリスと争ったらダメよ、わかった?」
「うん、・・・・ごめんなさい」
フェイはレントの頭を引き寄せてギュッと抱きしめた。
「じゃあ私はしなくちゃいけない事が出来たから今夜は出かけないわ。」
「・・・・え?」
「だから今夜はやっぱりお散歩デートは無しよ。」
「・・・・うん、わかった。でもその代わりもう少しだけこのままで居てくれるかい?フェイ、お願い。」
「いいわよ」
気付かれないように若者たちを小突きながらシユケが呟いた。
「いいなぁ、青春してるなぁ。」
「お嬢様が女言葉を使ってるのを見るの、私初めてです。」
そばに居たルネアがシユケに言った。




