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第三章 戦場の楽園(後編)

 勝利者がいれば、当然ながら敗者もいる。聖教連合の一角、『秋津皇国』の海軍司令部は騒然となっていた。

 戦功も名高い皇国軍の戦艦が2隻、一方的に撃破されたのだから、当然と言えば当然である。

「〔周防〕〔愛宕〕大火災。我、敵艦隊ニ降伏ス。あまてらす聖下万歳」

 巡洋艦〔手取〕からの通信を最後に宇宙来訪者の捜索隊は音信不通となった。

 そして数日後、帝国側より戦艦〔美作〕、〔周防〕の撃沈が報道されると、皇国国民はみすみす戦艦を失った皇国海軍を批判し、上層部の中でも今回の作戦を決定した司令部への追及が行われた。

 あの作戦はああすればよかった。

 あの作戦はあいつが作ったのだから、責任はあいつにある。

 そもそも、もっと戦力を備えてから行動すべきだった……。

 自己保身と責任転嫁の応酬が各所で叫ばれ、根本的な解決――帝国軍通商破壊部隊へと対処はどこかに忘れ去られてしまっている。

「一将功成りて万骨枯るなんていうが、功にすらならってねぇなぁ。やだやだ、またアマちゃんが悲しむねぇ……」

「アマテラス聖下に対しその呼び方は不謹慎だぞ、イツボシ」

 皇国の支配神、アマテラスが住まう御殿『蒼天宮』。その一角で、酒を交わす男が2人。

 一人は五星大和といい、秋津皇国海軍作戦本部に所属する作戦参謀である。

 服装こそ皇国軍人のそれだが髪は長くボサボサで、顎には無精髭を伸ばしている。

 唯一彼を軍人であることを示す制服すらも、あまり手入れができているとはいえず、ところどころに皺ができてしまっている。

「ウチはオタクらとちがって魔族討伐にそれほど熱心じゃないからな。さっさと20年前みたいに休戦にしてもらえれば、アマちゃ…… アマテラス聖下も心休まるんだがなぁ。臣下として心苦しいぜまったく」

「良く言う。上司にも神にも敬愛など欠片も持っていないくせに」

 一方で彼に相対する男は、五星とは違い模範的な軍人の恰好をしていた。金髪は短く切りそろえられており、皇国のそれとは違う、真っ白な軍服も十分に手入れされている。

「そうだ、昇進おめでとう。敵潜水艦隊を一網打尽とは、やるじゃないか。中佐殿」

「面倒事が増えるだけだがな……。ま、給金が増えるんだ。次に帰った時には、桜に、なにか旨い肉でも買っていってやるさ」

「相変わらず愛妻家だな。その妻への真面目さを、少しは神への信仰心へと向ければ、俺は心の底からお前を尊敬できるのだがな……」

「俺は聖剣サマみてぇな、義務感やら責任感ってのは嫌いなんでな」

「嫌味か?」

「生き方の違いさ。俺は神も人も、信用していないんでね……」

 五星に『聖剣』と呼ばれた男――クロード・ジル・フェフナーは複雑な表情で五星を見た。

 彼は背中に生えた白い翼と頭部のリングが示す通り、天使の一族であり、教国主神であるユピテルに忠誠を誓う断罪者だ。それ故に神に忠誠を誓うこともなく、さらには魔族との戦争を軽視する発言に、背中を引っ掻かれるような不愉快を覚えるのも当然だった。

 だが内心はどうであれ、その仕事は徹底的かつ容赦のないことも、クロードはよく知っていた。そうでなければこのような自己中心的な男と、十年以上にわたってつきあっているはずがない。

「で、聖剣様はどうやって宇宙のお客様を奪還するつもりなんだ?」

「何の話だ?」

「とぼけなさんな。聖剣――教国最強の称号を与えられた天使サマが、物見遊山でこんな所に来たわけじゃないだろう?」

「……ちっ」

 五星は懐から葉巻を取り出して吸い口をカットし始めた。それを見て、彼は苦々しい表情をしながら愛剣――レーヴァテインに手をかけた。

 太古の昔、魔王の一角をその炎で焼き殺したと言われる伝説を持つ、クロードの『聖剣』という二つ名を象徴する武具。

 その切っ先に炎が灯ったのを見て、五星は葉巻をそこへと向ける。香しい煙が立ったのを認めると、それを咥えて大きく息を吸い、ゆっくりと上質な味を堪能した。

「ふぅ……聖剣の火をもらった葉巻は、やっぱり味が違うな」

「クソ……! これだから貴様に頭を下げるのは嫌だったんだ!」

「ははは、そう言うなよ。この俺が、葉巻の火一つで動いてやるのはお前くらいなんだからな。……それでお前の目的は、やはり世界樹海峡の魔王サマと、宇宙人の可愛い嬢ちゃんか?」

 クロードが頷くのを見て、五星は笑みを消し、目を細めた。

「密航者の回収ねぇ……。ルール違反をやっておいて、バレそうになったら下の人間にケツを拭かせるか。皇国も教国も、権力者ってのはどうしてこうも厚顔無恥になるのかね」

「……それに対しては、自分も思う所がある。だが、あの少女にはそんなことは関係ないはずだ。同胞である人間を、魔族の手から救い出すのは、神族として当然の役割ではないか!」

「やれやれ、相変わらず人間至上主義だな、お前は……」

 ふざけた物言いをしながらも、五星はじっくりと紫煙の味をかみしめながら、灰褐色の脳髄の中で思考を巡らせる。

 そして数秒後、五星ははっきりとした口調で答えた。

「……無理だな」

 自分が利用可能な権力とコネクション、そして現在の戦況を勘案した結果、五星はそう判断した。

 不満そうな表情を見せるクロードに対し、五星は自由型記述型多目的携帯術符ケータイを取り出して、地図を投影する。

 映し出されたのは、大小2つと、周囲の軍刀からなる弧状列島だった。

「いうまでもないが、帝国領ユグドラシル藩王国の地図だ。別名、ソード・ラグーン。デカい方の島がブレード・アイランド、南側の小さい島がグリップ・アイランドと呼ばれている」

 五星は魔力を操作し、地図に色をつける。

 大きな2島の中央、海峡となっている部分が赤く明滅した。

「赤い部分が例の世界樹海峡、ユグドラシル港だ。我らが怨敵、魔王パラトリアがおわす魔王城だな」

 言葉に合わせてさらに映像が動き、世界樹海峡の周辺がクローズアップされた。

「現在この基地には、損傷艦も含めると、戦艦1、巡洋艦3ないし4、駆逐艦10隻程度の艦隊を停泊させている。また陸軍部隊も1万~2万程度、騎龍兵分隊も200程と駐留している。海底にはソナー網、東側の連合軍側の山岳地帯には陸上砲台やミサイル陣地が構築されている。まさに難攻不落のってやつだ」

 五星はここで1息つくと映像を切り替える。今度は、グリップ・アイランドの南東部分が、青く明滅した後、拡大される。

「一方こちらが、半年前、我々が確保した前線基地、ナタークだ。海軍戦力は無いが、兵力は2万を超える。地対艦兵装も充実していて、戦艦1隻程度ならば追い返せるだけの戦力だ」

「ほう? 倍とは言わないが、1・5倍以上の戦力差か。加えて敵の海上支援にも対処可能であるならば、一気に占領できるのではないか?」

「……災獣だよ」

 五星の言葉を聞いて、クロードは息をのむ。

 ――災獣。

 それは一度活動を始めると、災害のように手の付けられない被害をもたらす生物のことだ。

 街一つ、軍団一つが全滅することも珍しくなく、これらが目覚めた場合は帝国と連合が休戦し、協力して対処をすることも珍しくない。

「一体どんな奴だ?」

「〔ロカ・ロカ〕と呼ばれている全長1cmほどの昆虫種だ。危険度は1、教国でも時折発生して被害をばら撒いくことがある」

 五星が投影した画像には、散弾で打たれたかのような、小さな穴のあけられた無数の缶詰や、レトルトパックが映っていた。

「こいつら生物やその死体に幼虫を産み付けるのだが、その産卵管は缶詰も軽く貫通する。おかげで補給の糧食や、グリースなどの油脂類の過半を食われたらしい。兵士も死者は少ないが、体に穴を開けられて死傷者が多数発生した」

 その後の顛末はクロードも知っていた。第一次の補給船団は敵の潜水艦隊により壊滅。対潜戦闘を重視した第二次船団は、敵の水上艦艇によって壊滅。そして第三次作戦でも潜水艦からの被害を受けて引き返えすことになるが、その際に五星が用意していた策によって一矢を報い、潜水戦艦部隊を壊滅させたのだ。

「災獣か……運に見放されているな……」

「と、言えるかどうか」

 苦々しい顔をする五星にクロードは首を傾げた。

「帝国軍は世界樹海峡を確保している。だが、ブレード・アイランド、グリップ・アイランドのどちらにも、大規模な部隊を展開させていない。所々に監視部隊を配備しているだけだ。だからこそ、最初の奇襲上陸作戦は成功した」

「……つまり、災獣の存在を知っていて、海峡以外には手を出していない。ロカ・ロカだけではなく、他にも災獣がいるかもしれない。それを知った上で、わざと上陸させた上で、輸送船狩りを実行していると?」

 クロードの問いかけに、五星は「あくまで予測だがな」と肩をすくめた。

「そういうわけで、海路ないしは空路は敵要塞と艦隊、陸路は災獣。魔王に連れ去られたお姫様は救うためには、どちらかは潰さなければならない」

「ううむ……」

 クロードは腕を組み、小さく唸る。

 聖剣と言われる実力者であったとしても、1個艦隊や災獣を相手にまわし、その上で宇宙の来訪者を探し出すのは困難を極める。

「だろ? 分かったなら、そっちのお偉いさんに、自分のケツは自分で拭けとでも――」

「いや、行こう。地上からのルートでだ」

 ……正気か? と尋ねようとして五星はやめた。

 この男は正直者が軍服を着ているようなもので、自分にも、他人にも嘘をつくことができない男だ。

 そして金剛石に負けず劣らず、意志も、頭も固い。

 一度決断した以上、てこでも動かないだろう。

「……ったく。仕方ないな」

 大きくため息をついて、五星は投影していた地図を消消去した。

「一週間後、引き返していた第三次輸送船団が、再度出撃する。そいつに乗り込めばナタークまでは送ってやる。あとはお前次第だ」

 五星が折れたことを確認し、クロードの顔が明るくなった。

「ほう、お前が護衛する船団で、か……。粋な計らいだな」

「ああ。大船で乗ったつもりでいてくれ、と言いたいところだが……」

「どうした? 顔が暗いな」

「護衛につけるはずだった戦艦〔播磨〕が座礁した。護衛は巡洋艦3隻と駆逐艦12隻」

 巡洋艦と言えば、戦艦に次ぐ戦力であり、それが3隻となればかなりの規模の襲撃にも対応できる。

 天敵ともいえる潜水艦隊は、すでに五星が壊滅させている。

 だが、敵には戦艦〔フランドール〕がいる。

 救援艦隊がどれだけ彼女に被害を与えたかは不明だが、情報から精査するに、輸送船団が出発する頃には、彼女も出撃可能になっていると思われる。

 戦艦1隻に対して巡洋艦3。敵の護衛艦艇の数によっては闘えなくはないが、厳しいものになるだろう。

 ――ただし、真正面から戦えばだ。

「ま、こちらでも手を打ってみるさ。空と地上ならお前は負け知らずだが、海のことに関しては任せてもらおうか」

 五星は最後に葉巻の煙を大きく吸うと、それを灰皿へと押し付けたのだった。

いよいよ敵側のキャラを書き始めましたですよ。

魅力的なキャラクターになるように、必死になって書いていくので、生暖かい目でじっくりと見まもってくれれば幸いです。



うーん、もっと文章能力が上手くなりたいorz

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