あーにゃちゃんねる 6月1日
心配のコメント、ありがとう!
2週間近く更新を止めてたけど、アナスタシア・キュイ、ただいま帰還しました。
いやー、まさか私が宇宙船事故に出会うなんて思いもよらなかったね。
しかも落ちた先が、魔法世界ですよ魔法世界。
とりあえず不幸中の幸いって奴で、いつも撮影に使ってるイアホンマイクが生きてたから、音はばっちり取れてたんだんだけど……残念ながら事故った時にコンタクトカメラは目から外れてたみたい。
そんなわけで今回――というより、これからしばらくは廃墟探索動画じゃなくて、この救出された異世界の実況動画にしていこうと思います。一応カメラを借りることはできたから、次回からは動画になるけど、今回は音だけの動画になっちゃうけど、ごめんねー。
流石に真っ暗な中で声と物音だけ流してもアレなんで、所々に朗読っぽいナレーションを入れてみた。好評だったらこの形式で続けていくし、ダメだったらまた別の編集方法考える。
そんなわけで、これから異世界実況動画の始まり始まりー
「だいジョブ?」
この時の私は、まだ意識が覚醒してなかったから、自分が誰だとか何があったとか、そんなこともわからなくて。
その言葉に反応することなく目を開けて、自分が普段と違う場所にいることに気付いたの。
「ナマエ、わ、カル?」
また声が聞こえた。どこから聞こえてきたのかはわからなかったけど、その声に導かれながら、頭を必死に動かして、声の質問に答えた。
私の名前…… アナスタシア・キュイ。
「年齢は?」
14歳。
「出身地は?」
銀河区画E‐110。惑星『シード・ヒル』。
「気を失う前、どうだった?」
外交官のパパの所に行こうとして、お姉ちゃんからチケットをもらった。宇宙船に乗って大気圏突入に入る直前に、いきなり船が揺れて墜落した――。
それを思い出して、私はやっと、自分が事故にあったことを思い出して、さて、ここはどこかなと目をあけた。
とりあえず上半身を起こして、さっきから声をかけてくれてる人を探そうとした。
その人は、すぐに見つかった。見つかったんだけど――
「ん、ヲ目覚メ?」
喋っていたんですよ、布団が。
「うわああああああああ!!!」
「ぷぎゃ!」
ぶん投げました。それもすごい勢いで。
だって、だってよ?
自分の上に青い半透明の、液体だか固体だかわからない物体がぶっかけられてて、しかもインクでベタ塗りしたような目と口が、にたーって笑うんだよ?
もう完璧ホラー映画の1コマですよ。
「って痛ったぁぁぁ!!」
そして次の瞬間、激痛ですよ。見たら左腕が包帯でぐるぐる巻き+ギブス状態。
はい、骨折してました。
そりゃ腕振ったら痛いわ。
「ヒドい。折角看病シてたノニ」
そして私がぶん投げた布団らしき物体の方は、そのまま壁にぶち当たってべチャリ。
でもさっきから聞こえてきた声がまた聞こえると、その弾けた破片が1つ1つ蠢いて、1箇所まとまって。
「な。ななな……」
「デモ、それだけ元気ならダイじょうぶカナ」
目の前で一人の女の子に変身した。
余りにも常識離れした光景に、もう骨折の痛みなんて頭からすっ飛んでました。
薄い青色で半透明の状態はそのままで、大体10歳ぐらいの身長。髪も液体で、何というか、柔らかい棒とかヒダがニョキニョキ生えてるように見える。見た目が小さい女の子っぽくなくなったからか、明らかに人じゃないけどグロテスクさはほとんどない。むしろ、ちょっと可愛いとすら思えた。
「えっと……」
「私、メディ。メディ・トラファール。ノイエ帝国海軍、第四艦隊所属の曹長。見ての通リ、スライム属。ヨロしく」
いや、見ての通りとか言われても…… って思っていると、ぷるん、としたゼリーみたいな腕が出された。
えっと、これ…… 握手、だよね?
さすがにさっきの布団の怪物よりは難易度下がったけど、正体不明の液体生物に触れるのはちょっと……。
でも、一応私を助けて看病してくれたわけだし、このまま引き下がるのも失礼だし……
「ど、どうも。よろしく……」
意を決して掴むと……、むにゅ、って感じ。
見た目に反してベタベタ感は全くなかった。触り心地はちょっと冷たくてプルプルしてる感じは、まさにゼリー。
ふと、食べたらおいしいのかな、なんて思っちゃったりして。
「えっと、私は――」
どうしちゃったんでしょうか。
と聞こうとした時だった。
『エシュディーナ・プラッセ・ヘディル。ユークティ――』
意味不明な言語がスピーカーから流れてきた。そういえばここは異界の星だっけ……。ああ、だからメディちゃんはカタコトっぽい喋りなのか、と今更納得。
「コッチ」
放送を聞いたメディちゃんは一瞬顔をこわばらせて、私の手を引っ張ってこの部屋を出た。
理由は後で話すことになると思うけど、今にして思えば、これはメディちゃんなりの私への気遣いだったのかもしれない。
「ちょ、ちょっとメディちゃん!?」
「良イから、ついテキテ」
あんなゼリー状の手足でどこからそんな力が出るのかわからないけど、とにかくメディちゃんは私を引っ張って、私を部屋から連れ出した。
窓の無い狭い通路に、必要以上に頑丈な扉。そしてすれ違う人全員が真っ黒な制服を着ていた。メディちゃんが自分は軍人だって言ってたから、自分が軍艦の中にいるってことは大体わかってきた。
宇宙船自体乗ったことが数えるほどしかない私が、軍艦に乗ったことなんて当然ない。ひょんなことから生まれた初体験にドキドキしたけど、それ以上に私の好奇心をくすぐったのが、通り過ぎていく人たちの姿だった。
ネコミミや鳥の羽を生やした兵士さん。背中に蜘蛛の足をはやした人はエプロンをつけてたから、たぶんコックさん。途中前を通った売店に至っては、売店には下半身が木になってる女の子が自分の木の実を売っていた。
ごくまれに外見上は人間と区別がつかない人がいるけど、それは少ない。
メディちゃんを見た時から覚悟してたけど、どうやらここは星も違うけど、常識そのものが私たちの世界と違うみたい。
「うわぁ……」
その証拠とでも言うように、私が連れてこられた場所は、明らかに私たちの日常からかけ離れた場所だった。
そこは大人が7、8人は詰め込める筒状の空間で、床には煌々と青白い光で、私が知らない模様や文字が描かれている。
もう言わずもがな、王道中の王道のファンタジーガジェット――魔法陣ですよ。
「入っテ」
メディちゃんに促されるまま、その空間に入る。異世界にきて早々に魔法体験をさせてもらえるなんてラッキー。とか思ってたんだけど――
「リッテ・トゥリッタ」
メディちゃんが壁に描かれている小さい魔法陣に触れると、入り口部分に光の檻ができて、数秒後にそれが弾けた。
バチリ。
「出テ」
この間、わずかに5秒くらい。
複雑な呪文とか、詠唱とか、そんなのは全くなし。
後で聞いた話だと、この魔法は転送魔法で、あらかじめ用意しておいた空間と空間を入れ替えるモノ、らしい。
そしてこの時私がいたのは軍艦の内部。到着した場所もやっぱり船の中だから、外見が代わり映えするわけもなくて。本当に魔法使ったの?って思ったぐらいあっけなかった。
ただ一つ、それでも転移したってわかったことがあった。
転移の光が消えた先は、ちょっとした部屋になっていて、今までの通路と違って窓があった。
そこに広がっていたのはどこまでも広い海。果てしなく青い空。そして、轟々と燃えながら、大きく傾いている船。それも1隻、2隻じゃなくて――
あれ、まさか私、とんでもない所に拾われちゃった? と、この頃になってようやく、自分が異世界で一人ぼっちだという現実を認識しました。
「ゼク・ディーブラ。エーリア、ヴィジラ、レウ、ラティーニ」
そうして混乱している中で、メディちゃんが何かを言うと、部屋の中にいた男の人たちが振り返った。
「うっ……」
みんながみんな黒い服を着た男の人で、今まですれ違った人と違って、肩とか襟とかに金とか銀の模様が入っている。明らかに偉そうな人たち。
そんな人たちが一斉に私を、舐めるように見ている。
ロー・スクールの答辞をした時以上の緊張が、私の心臓をギュ、と握る。
さすがに履いたりおびえたりはしなかったけど、指一本すら動かせなかった。
というか、私。なんでここにいるんだろう。メディちゃんに引っ張られてきたのは確かだけど…… 何か私が喋れば良いのか。でも、何も言われてないし、というか、この世界の言葉知らないし……
「目覚めテくれたカ。申し訳ナイが、貴方以外ノ生存者は見つからなかった」
私の緊張を終わらせてくれたのは、メディちゃんよりもやや聞き取りにくい銀河共通語だった。
「初めましてダナ、宇宙からノ旅人。私は魔王、パラトリア・ファーバントル・メフィストフェレスだ」
ちょっとハスキーで高めの声。
美味しそうにすら思えるほど艶やかなチョコレート色の肌に、肩ほどで結んだ、腰まで伸ばした真っ黒な髪、そこから生えている角。
そして服も黒で、その上に真っ黒のマント。
「魔王様、なんですね……」
黒、黒、黒! そして頭の角!
これぞまさしく魔王!!……って感じなんだけど。
「どうした、女史?私ノ顔に、何かついているカ?」
ちっさい。
うん、身長は私未満メディちゃん以上、140センチぐらい?
まさか魔王様と自称する人を、見上げるんじゃなくてその逆に見下げることになるなんて、人生何があるかわからない。
どう見ても魔王様って見えないキャラだよね、これ。どちらかと言えば小悪魔とか妖精とか、そっちの可愛らしい種族に見える。
でもそれ以上に印象に残るのが――
「え、えっと。わ、私は、アナスタシア・キュイ、と、言います。どうぞ、よろしく……」
目。
そう、目。
小さい身長とか肌の色とか髪の長さとか、軍服とか剣とか。魔王様には外見的特徴は多いけど、その一番の特徴といえば、やっぱり目だ。顔は中性的だけど、目は女の人がしたくてもできないほどに鋭かった。でもそれは獣のようなそれじゃなくて―― うん、やっぱり私の貧相な表現力じゃ無理。
ただ、顔の表情はほとんど変化しないのに、その両目の動きに私は引き込まれた。私を見た瞬間に一瞬驚いた顔になって、それから少し呆れたような顔になってメディちゃんの方を見て。それからもう一度私の方を見た。
……そして、呆れてる。
えっと、私何かしたっけ。
そう思ってる私の元に、何を想ったのか魔王様は肩にかけているマントを外して、私に手渡した。
「とりあエず、これヲ着ておケ」
言われて私は、自分自身の姿に気づいちゃいました。
目が覚めてからずっと、私は服を着替えていない――。もちろん、濡れた服をずっと着せているわけでもなくて。
ええ、裸の上に薄っぺらい患者服だけでした。しかも下着なしで。
ギリギリ、本当にギリギリだけど、見せちゃいけない部分は見えてなかった。
もう「~~~っ!!」って奴ですよ。声にならない悲鳴で魔王様からマントを受け取って、自分の体を隠しました。ハイ。
……以上、今回の動画でしたー! というか、真っ黒画面にオーディオコメンタリー的な音声だけで、動画と称して良いのかどうか……
いつもは廃墟相手に歴史だとか、施設の説明ばっかやってるから、会話の中に会話を挟むのが予想以上に難しかった……。途中から物語風な朗読みたいにしてみたけどどうだった?
とりあえず、後でコメント読んで、このあたりは調整していくことになるかなー?
ああ、でも安心して。
動画は取れなかったけど、いつも通り静止写真は撮影できてから。
それじゃいつも通り、ベストショットで〆にしちゃうね!……話の流れで、半裸の患者服の私を想像した?
残念でした。今回は私の命の恩人、運命の魔王様。パラトリア・ファーバントル・メフィストフェレス魔王様とメディちゃんです!
舌を噛んじゃいそうな名前だけど、そこはまぁ異世界、もとい異星界だから発音が私たちと別物なのは仕方ないよね。
ちょっと見た感じ、軍人にあこがれる男の子って感じだけど、実際は数百年生きてるんだって。詳しくはまた今度の動画で言及するけど、ここ最近注目を集めてる軍人さんみたい。
見ての通り、折角の写真撮影だってのにニコッともしてくれませんでした。メディちゃんの方はこんなに可愛く笑ってくれたのに。
ちなみにこの写真は、メディちゃんの私物を拝借して撮影したんだー。デジカメじゃなくて、フィルム式カメラですよ。いやー、博物館とかでしか見たことなかったけど、この惑星だと普通に現役で使われてるみたい。もちろん、映像もマイクロフィルムの巻取り式……。しばらくは撮影、現像、スキャナーで取り込み、って手間をかけることになるから、更新は遅れるかもしれないかな。
とはいえ、こんな魔法の世界を見逃すには惜しいよね! このカメラでこの星を撮って撮って撮りまくるんで、これからもあーにゃちゃんねるをよろしく!
それじゃまた、次回お会いしましょう!
再生数:1989人 コメント:775件
感想が…… 一言でもいいので感想が欲しいです、先生……!
てなわけで、コメントとかがないけど、沢山の人が楽しんでくれているはず! と思いつつ第二話前半部分です。
基本的に前章としてアナスタシアの独白系動画風な回、その後に通常の小説という形で投稿していきたいと思ってます。とりあえず次回から、タイトル通りカメラマン的なことをやっていきますよ。