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あーにゃちゃんねる 7月5日

みんな、ごめんっ!

今日はちょっと、動画を用意してなくてねー。


いや、素材はあるんだけどさぁ。

帝国軍の人に怒られたんだよね。

俺たちの戦争を動画にして面白いか!? って。


ここしばらく、私は仕事以外はずっと部屋にこもっていた。

いや、軍の広報の仕事はしてるよ?

でもこっちの……ネットに上げる動画とか、写真の準備は、何もしなかった。

こんなの初めて。

一人きりになった部屋で、ずっと寝転んで、就寝前にお酒を呷って寝る。

 ……典型的な不良学生状態。


ってなことで、懺悔も混めて、今日はこれからずっと語っていこうと思う。

……ぶっちゃけ愚痴回。でもこのモヤモヤをどうにかしたくて、初めて生放送にしてみた。


……ふふっ。こうして慰めのコメントを見ると、結構心が楽になるね。


それはさておいて、軍人さんに怒られて色々と考えてみたんだけどね。私は心の底から本気になったことなんてなかったのかもしれない。

勉強なんて宿題以外やったことなかったし……。こうして動画を見てくれてる人の前でぶっちゃけるのは悪い気がするんだけどさぁ、こうしてアップしてる動画とか写真も、本気か? と言われれば胸はって言える自身がないんだよね。


 確かにノイエに降りてきて、敵の戦艦とか巨大昆虫とか相手に、命の危険を感じながらの撮影はしてるけど、命を賭けているかと言われると、ちょっと違う。

 どちらかというなら、その場のノリとヤケクソ、っていった方が正しいと思うんだよね


……実は、さ。

ここにアップはしてないんだけど、この前〔フランドール〕が敵の巡洋艦と闘ってね、私も艦橋でそれ撮影してたんだ。


見たい、って言ってもらえるのはありがたいんだけどさ。

そこで……私の傍にいた、見張りの人がね、死んじゃったんだ。


このぐらいの小さい、フェアリー種って人なんだけど。

被弾の衝撃で船が揺れて、その時に頭を打って、それっきり……


そりゃここに来た初日に自殺、その後で水死体とか見たけどさ。


さっきまで普通に喋ってた人が、いきなり動かなくなるのは、ショックだった。

でも、魔王様の下で戦争を撮影するってことは、こんなことがこれから何度もあるし、ちゃんと戦争を撮るためには、あの人たちの死も撮影しなきゃいけない、と思う……。


でも、私はフェアリーの人、撮れなかった。


もうここ1カ月で、ノイエ専用の動画チャンネルみたいになってるけど……、私はそれまで、廃墟探索の動画ばっかりアップしてたのは、皆知ってるよね?


私、昔から冒険好きでねー。

暇があれば山に潜り込んで生活しててさ、いつも包帯と絆創膏だらけだった。

雪山の遭難と、川でおぼれたのと……ああ、毒蛇に噛まれたので生死の境は3回彷徨ったし、雪崩に巻き込まれかけてあのもあったっけ。

もう骨折とか打撲なんて日常茶飯事。


だから自分が怪我とか、死んじゃうとか。そんなことは全然気にしてなくて、戦争の撮影も楽勝! って思ってた。


でも、実際に体験してみるとさ。

ダメだね。


怖い。

死にたくないとか、痛いのが嫌だ、じゃなくて……。

ただ本能的に怖くて逃げだしたくなる。

なんか、言葉で言い表せないけど……体が震えて、考えがまとまらなくて。

パニック……って奴なのかな。


戦争カメラマンをやるんだから、死んじゃうこともあるってのは考えてた。

でも、他の人――魔王様やフラン大佐、メディちゃんだって敵の攻撃で死んじゃうことがあるし、それを撮らなきゃいけないこともある、なんてこと、すっかり頭から抜け落ちてた。


だから、やっぱり百戦錬磨の軍人さんだと、見抜くんだろうね。

覚悟とか、想像力とか、そんなのが足りないってこと。

死ぬよりも生き残る方が辛い、そんな現実を何も知らない、小娘だって。


なんか、突きつけられた気分。

私なんかが、このまま、この星で、カメラマンなんてやってて良いのかなって……


……慰めコメント、ありがとう。

文字だけでも色々言葉をかけてくれると、心がほっとする……。


でも、慰められるだけじゃだめだよね。

どうすれば……違うね。

何を意識したら、私は軍人さんを見返せるのかな。

ってちょ、コメント多……っ!

信念、決意……。まぁ確かにそうだねぇ。

腕力、射撃スキルって……確かに戦争だけど、私はカメラマンだから――

ちょ、美貌……って! なっ! 胸とか書いた奴だれだ!


まったく……。でも……そうだね。

決意……か。

確かに廃墟の時も、今の戦争も、その場のノリで動画を撮ってた気がする。

明確な意思とか、信念とか、そんなの持ち合わせてなかったと思う。


でも、口で言うのは簡単だけど、どうやったら決意とか信念を持てるのかな。

持つぞー! って言って、簡単に持てるもんでもなし。


……他の人のは?


……そーだねぇ。フラン大佐とアンドレ大佐は、もうアレだよ。お互いの愛だよね。


メディちゃんは魔王様のためだね。あと、性欲。

……こら、コメントで期待しない。

今回は大真面目な回なんだから!


あとは魔王様だけど……そういえば魔王様の、戦争の動機って聞いたことないなぁ。王様、って言われるぐらいだから、別に態々最前線に立つ必要なんてないはずなのに……。


ああ。でもフラン大佐が、自分は魔王様に作られたホムンクルスだって、言ってたっけ。

じゃあフラン大佐が戦えるか調べるための、研究的な……?

にしちゃあ、そこまでフラン大佐に密着してるわけでもないような……。


やっぱアレかな。

私が気づいてないだけで、魔王らしく武勲と名声を上げて、金と女を手に入れたいから……とか?

考えてみれば、淫魔のメディちゃんを傍に置いてるわけだし……


ちょっと、そこでなんでベッドインコールが出てくるの!

セクハラだよそれ!

うっ。た、たしかにこっちだと、セクハラどころかボディタッチも日常茶飯事だけど、そういう問題じゃ――



『ディグニラ・デュラ、レディッケ――』


うわぁぁぁぁぁぁああああ!ま、ままま魔王様!?

ちょ、まっ! 撮影中、しかも生放送中――!!

メディシリ、ルデャ――って、そっか。

ちょい待って。今翻訳アプリ起動するから。


「――仕事中だったか。悪いことをしたな」


い、いえいえ。

魔王様こそ、私に何か用……ってメディちゃん。

いきなり何で、私に抱き付いているのかな?

って言うか、なんで触手生やして、縛り付けに来てるのかな。


「放送中、なんでしょ? だったら見てる人たちにサービスしてあげないと」


……一応、聞くね? 何する気?


「んー……。触手プレイ的な?」


あの、もうちょっとオブラートに包んで言ってくれない?

というかそれ、ここの法律でも思いっきり犯罪だよね。


「大丈夫。私は今まで、どんな堅物も最終的には合意になるようしてきたから!」


いや、そういう問題じゃないでしょ。


「安心して。私は液体生物。服の下にも潜り込めるから、裸が晒されることはない。アーニャがモザイク編集する手間は増えない」


いや、そっちじゃなくて!


「ほら、画面を見て。コメント欄も凄く賑やかなことになってる。さ、私に身を任せて……へぶぁっ!?」


ちょ、ちょっと魔王様! 生放送なだから! モザイクできないんだから!

メディちゃんぶっ飛ばすのはだめ! 



「だったら、こいつに凌辱される瞬間をこのまま放送されたほうがよかったか?」


い、いや。さすがにそれは……

まぁいいや。コメントのウケ、結構良い感じだし。

それで、いったい何の用なんです?


「ここ数日部屋に籠っていると聞いたから心配してきたが……、メディとイチャついてるのを見て、少し安心した」


イチゃつくって……。

でも、ありがとうございます。私なんかのために……


「部下が落ち込んでいれば悩みを聞いて、力になってやるのも上役の務めだ。それに、女史の撮る写真や映像は、兵たちの中でも評判が良いしな」


あ、ありがとうございます……。

毎回思うんですけど、魔王様って、本当に魔王なんですか?


「どういう意味だ?」


だって魔王のイメージって、極悪非道で高笑いしてる悪の親玉って感じですけど、魔王様、全然そんな感じしないですもん。

むしろ理想の上司って感じですし……


「そりゃ、王だからな……。ほら、女史。女史の大好きな酒だぞ。これでも飲んで、悩んでいることを全部吐き出せ」


ま、魔王様ぁ……

はい! いただきますっ!


** * * * * * * * * * * * * * * *


ごくっ、ごく……くぁぁぁああ!

んまいっ! もう一杯ください!


「良く飲むな……。こっちの年月で8歳だろう? そろそろ自重した方が良いんじゃないか?」


はっはっはー。伊達にスラヴの血は引いてないですよー。この程度余裕余裕!

まだまだ、どーんと来いですよ。あっはっはー!


でもぉ、私はもうダメなんですよぉ!ここにいる資格なんて無いです。

決意とか、信念とかっ。何もないし、考えたこともないしぃ……っ。

えうっ、ぐす……っ。


「かわいそうなアーニャ……。ほら、もう一杯飲もう?」


う、うぐっ。メディちゃぁぁぁん……

ごく、ごく……っ! ぷはぁ!


「何で悩んでいるのかと思えば、そんなことで落ち込んでいたのか」


むぅっ! そんなことってなんですか!

私は、真剣に悩んでるんですよ!


「軍に入る連中が、誰も彼もが強い動機のもとに行動しているわけじゃない。無論、国や家族を守るためという奴もいるが、食うに困ってだとか、成り行きでそうなった奴だって山のようにいる」


そうなんですか?でも……んぐっ、ごく、ぷはぁっ!

でも魔王様は、あの時――


「たかだが数か月体験しただけで本質が掴めるほど、戦争も人生も単純じゃない。部屋に引きこもって悩んで出るようなら、そいつの人生はその程度のものでしかない。本当に濃い人生を歩む人間の本質は、行動した先にしかない」


行動の先――ですか……。


「そうだ。よほどの天才でない限りは、誰だって最初は行動を叱られ、成果を酷評され、挫折を味わうものさ。だから気にするな――とは言わないが、歩みを止める必要もない」


そういうものなんですか?

でも、またあの艦長さんを怒らせちゃうんじゃ……


「今はな。だがいつか、ぐうの音もでないほどの動画や写真を撮って、見せつけてやればいい」


……そんな。簡単に言いますけど……


「簡単じゃないならば、練習すれば良いだけだ。練習するうちに信念や決意が芽生えて、その心情が作品に現れるようになるさ。まだ女史は若い、その余裕はあるはずだろう?」


うへぇ、練習……ですか。努力とか訓練って、苦手なんですけど……


「ならば、このまま三流カメラマンとしてここに居続けるか?」


むぅー意地が悪いですよ、魔王様。

そこまで言われたら、逃げれないじゃないですか!


んぐっ、ごく……ぷはぁっ!

わかりましたよ、やってやりますよ、練習!

今はまだ無理でも、あの艦長さんをぎゃふんって言わせてやります!!


「そうか、期待してるぞ」


にへへーっ。魔王様ぁ、ありがとうございますっ! んっ!


「ああーっ! あ、アーニャのキスッ!! 私が奪おうと思ってたのに……!」

「……酔ってるな、女史」


お礼ですよ、お礼。でも、ファーストじゃないですから……。

むぅ、もう少しくらい残念って表情、してくれても良いんじゃないですか?


「頬に口づけされたぐらいで舞い上がったりする歳じゃないからな」


あー、ちょっと怖い顔してる。

魔王様、押し倒しちゃいます? 私のこと。

今なら最後までイケちゃうかもしれませんよ。うへへへ……!


「……メディほどじゃないが、酔うと面倒くさいな。……だが本当に良いのか?」


何がです?


「カメラ」


カメラ……?


あっ!

あああああああああああああああ―――――っ!!

ちょっ! ストップ! 停止、停止!! てい


再生数:786733 コメント数:229342

最近投稿ペースが落ちてきてる……

頑張らないと!

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