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出撃(1)

 新天歴0年。

 光と炎の7年間と呼ばれる戦乱の月日が終わり、神、魔、人の三つ巴の大戦は終焉を迎えた。

 神にも魔にも組せず、人類単一での惑星支配を目指した覇権国家〔インデペンデンス〕は、その拠点である母艦を失い短い歴史に幕を下ろした。

 一方で神族と魔族、およびそれらとの共存を目指した人類の傷も大きく、これ以上の戦いは自滅であると気付かされる。

 紆余曲折の後に神と魔は生まれてより初めて、条約を結び、戦争を終結させる。

 その和平の証として、激戦によって崩壊した山岳後の海峡に、神と魔は共に手を取り合い、この惑星で一番巨大に育つとされる種を落した――


 これが、世界樹海峡の歴史である。

 その和平の誓いは200年ほどで破られるが、海峡自体は戦略的な価値が乏しいため戦火に晒されることなく、世界樹は誰にも邪魔されず枝葉を広げていった……。


 その世界樹が再び脚光を浴びるのはここ150年ほどのことである。

 エーテル技術の工業利用が実用化されると同時に、世界樹自体が周囲の海水から高品質のエーテルを吸収していることが判明した。

 帝国は世界樹海峡に帝国技術研究所を設置し、潤沢なエーテルを元に様々な新兵器や新技術の開発を行っている……。


 〔フランドール〕がグリーフ・ホーネットとの戦闘を行う数日前。

 パラトリアはメディやアナスタシアもつれず、技術研究所の所長室を訪れていた。

 彼としては貴重な休日を、会いたくもない人間と会うために潰すのは不本意の極みであったが、大事な話があると言われれば、出向かざるを得ない。

 何の芸術性も無い、合理性の極みのような廊下の奥で、これまた無味乾燥な1枚板の扉ノックをする。

 ……部屋の中からは、うんともすんとも返事がなかった。

「あの野郎……」

 パラトリアは躊躇なく扉を開くと、資料やら食料の梱包やらが転がる部屋を横断し、人を呼び出しておいて眠りこけている人物を蹴り起こした。

「むにゃにゃ……なんだ、キミか。今日は愛しの宇宙人とは一緒じゃないのかい?」

「ったく。呼び出しておいて、謝罪の一言も無しか」

 それこそが、技術研究所の主、グレイラ・メルクロウ技術少将であり、パラトリアが苦手とする人物の筆頭格であった。

 というよりも、彼を苦手とする人物は少なくとも彼の記憶の中には存在しない。それほどの変人だ。

 ――一名ほど大喜びしそうな宇宙人は知っているが。

「ここは軍機の塊だ、取材できるわけねぇだろ」

「そいつは残念だねぇ。メディの地位を脅かす、新しいファーストレディの候補。ぜひとも会ってみたかったんだが……」

 小さくため息を漏らすパラトリアの視線の先には、全長が2mほどはある、巨大なナメクジが横たわっていた。

 その上には布団のように白衣が乗せられており、その下からはいくつかの触手が書類やら端末やらを触っている。

 非常にシュールな光景だが、これこそがグレイラの正体である。

「相変わらずの亜人化嫌いだな。だったら、別に白衣は必要無いんじゃねーか?」

「ボクもこの姿のまま研究室で引きこもりやりたいけど……。仕事上、歩いたりしなきゃいかないからねぇ。ほら、社交辞令とか?」

「……魔王の俺に社交辞令はねーのか」

「大学で同じ飯を食った仲間じゃないか。それにキミも、今日は軍務じゃないからその喋り方なんだろう?」

 グレイラが小さく笑うと、その扁平だった体が淡く光り出し、その姿を変える。

 ブヨブヨとしていた肉体が変形、再構築されて、一般的な人間の姿へと変貌していく。

「ま、キミが見たい物が何かはもう理解しているよ。ささ、ついてくるがいいさ」

 程なくして中性的な、柔和な男、もしくはボーイッシュな女性の姿となったグレイラは、背に乗っていた白衣に袖を通し、2本の脚で立ち上がる。

「何度も言うが、白衣の服を着ろ。もうお前も少将だろうが……」

 ただし、白衣の下は裸である。

「ファル。服というのは、元々性器を隠すための物だよ?ボクには必要のないものさ」

「お前には必要なくとも、社会の大多数が必要としているマナーだ」

 彼以外はほとんど使わない愛称呼ばれて、パラトリアは辟易とした顔で彼の裸体へと目を向ける。

 そこにあるのはマネキン人形を思わせる、凹も凸もないスラリとした肉体。

 ナメクジ、つまりは雌雄同体の亜人特有の肉体だ。

「ふふん。ファーストレディにしてくれるなら、ボクも女の子として可愛い下着とシャツで聞かざるのも、やぶさかじゃあないけどね」

「断る! 非常識な女はメディだけで十分だ」

「ああ、そうだったね。キミはロリコンだもんねぇ。ボクの身長だと射程県外だったね。にししし……」

 身長190cm。

 50センチほど高い位置から悔しそうに見返す魔王の姿を楽しんだグレイラは白衣のボタンを閉じると「それじゃ、お目当ての場所に行こうか」と、裸白衣のまま廊下へと歩み出した。


 その後2人は近況などを報告し合いつつ、研究所の屋上へとたどり着く。

 そこからは世界樹の幹を利用した埠頭と、そこに係留されている〔フランドール〕の姿がよく見えた。

「しかし……2週間でここまで改造するとはなぁ。相変わらず魔改造するのが好きだな、お前」

 パラトリアが呆れているのは、ほぼ原形を留めなくなった〔フランドール〕の姿についてである。

 特に大きく変化したのは艦の中央部だ。

 先日まではハリネズミのように対空砲火が並べられていたそこは、今は見る影もない、平坦な斜面が広がっている。

 難攻不落の楼閣を思わせた、雄々しかった姿は見る影もない。

 六角形の巨大なパネルが敷き詰められた形状は、豪雪地方に作られた役所のようで、「だっせぇ姿に成り果てたデスね!」と言い放つフランの言葉に、乗組員の面々も哀愁漂う表情で頷いたほどだ。

「あれが今回の改装の目玉〔ヘキサビット〕さ。とはいっても、奇抜なモノじゃない。基礎理論はすでに存在していた。今回はそれをド派手にしてみただけさ」

「ま、そっちの方はもう資料をもらっている。汎用性も発展性も十分。これに関しては礼を言わせてもらおう。だが――」

 パラトリアは複雑な表情で〔フランドール〕の後方に目をやった。

 その先にあるのは、先日の戦闘で鹵獲した巡洋艦〔手取〕だ。

 研究のためだろう。被害を免れていたはずの主砲塔や、艦橋周辺の機器などが撤去されており、もの寂しい姿を埠頭に晒している。

「今日の目的は、あっちだろ?」

 パラトリアが尋ねると、グレイラは小さく頷く。

「にししし……。そーだよ。あの〔手取〕って船はイイ感じだねー。皇国さんの船にしては発電装置も優秀だし、船体の大きさにも余裕がある。実に改造のし甲斐がある船。だからこそ――」

 グレイラはそこで一旦言葉を区切ると、視線を〔手取〕から眼前の魔王に向けた。

 「”クリスタル”設置と、”素体”の使用許可を取りたい。魔王、パラトリア様」

 今まで通り軽い口調で、しかし表情はしっかりと引き締めた旧友を、パラトリアはしばし無言で見つめていた。

 しばらくの間両者は無言を貫いていたが、やがてパラトリアは視線を研究所の方へと向けた。

「“素体”か……。アレを使う気か?」

「うん。ボクの見立てでは、半年ほど調整をすれば実戦投入が可能になると思うよ」

「……」

「にししし、相変わらずファルは真面目だねぇ……。キミは魔王。倫理や人道からは外れた存在。魔だろうが人だろうが神だろうが、実験動物のように使い捨ててしまえばいいのに」

「お前と一緒にすんな」

 パラトリアは目を閉じてしばし瞑目した後、諦めたように「いいだろう、許可する」とだけ呟いた。

 それに対して、グレイラは一言も発しない。

 しばらくの間研究室に視線を向けるパラトリアを観察していたが、やがて白衣から煙草を取り出して火をつけた。

「そーゆーセンチメンタリズムな所、嫌いじゃないけどねぇ。だったら、無理せず軍人とか魔王だなんて辞めればいいのに」

 グレイラは煙草を差し出したが、パラトリアは小さく首を振って辞退した。

「やれやれ、キミとニコチン漬けの日々はもう過ごせないのか……。時間というのは残酷なものだねぇ」

「100年も前の話だろう、今更懐かしくなるもんじゃねーよ」

 パラトリアは紫煙に絡みつかれたまま、研究室の方をずっと見つめ続けていた。


すまぬ! 1カ月近く更新しなかった!

いや、割とマジでリアル生活で色々あって、もー小説どころじゃなかったんですよ、はい。

とりあえず短めでしが、出来上がっている分投下しました。


今週からはまたコンスタントに上げていきたいと思うので、応援よろしくお願いします。


あと、感想を…… 酷評でも良いので感想が欲しいです……

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