残虐な巨人
「よけろー!」
私の祈りも虚しく、同胞が逝った。
踏みつぶされた彼の身体は、最早原型を留めていない。
何度見ても酷い死に方だ。だが、彼の死を悼んでばかりはいられない。集中して走らなければ、私も彼同様、あの残虐な巨人に踏みつぶされてしまうことだろう。
遥か上方にある、蒼穹へと届かんばかりの巨体。いつ見ても奴らは恐ろしい。
大きな個体と小さな個体が存在しているが、凶暴性は小さな個体の方が上。奴らは嬉々として、私達の命を奪おうとする。
「もう一体来るぞ。注意しろ!」
一体だけでも厄介なのに、小さな個体がもう一体出現した。
我々の任務は食料の調達。殉職率が高く、これまでに多くの同胞たちが散っていった危険な任務だが、誰かがやらなくてはいけない。
「くそっ――」
また一人散った。巨人が彼に気を取られている間に、他の者は距離を取ることに成功したが、追いつかれるは時間の問題だ。
誰かが巨人の注意を引き、時間を稼がねばならない。未来ある若者達を散らせるのは忍びない。ここは、老兵たる私が適任だろう。
「私が時間を稼ぐ。お前たちはその間に食料を届けるんだ!」
同胞たちの制止を振り切り。私は可能な限り巨人の注意を引くべく奴の足の周辺を駈け廻る。
私を踏みつぶそうと巨人は足を上げたが、私は潰される前に足の影の外まで逃れた。
仲間達の方を見ると十分な距離は取れたようだ。可能ならな私も退避し、同胞の元へ合流したいが……
「流石に厳しいな」
二体の巨人に囲まれた私にもう逃げ道は無かった。一体の巨人の足をかい潜ることは出来たが、もう一体の下ろした足から逃げ切るには、距離が足りない。
――仲間達は逃げることに成功した。これでいい……
私の意識は、そこで途絶えた。
●●●
「こら、蟻さんを潰しちゃ駄目だっていつも言ってるでしょう!」
「は~い」
一匹の蟻を踏みつぶした少年を、母親が叱り付けた。
一つの命を奪ったというのに、子供は実に無邪気だ。
了




