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不思議探偵事務所  作者: いろはす
連続放火事件
9/9

連続放火事件①

「所長ー、起きてください。もう昼です」


「むり……、お客さん来てないんだからもうちょっと……」


「今日はいきなり来るかもしれませんから! 起きてください!」


「ううう……」


 俺が不思議(ふしぎ)探偵(たんてい)事務所(じむしょ)で助手を始めて早一週間。

 その間に依頼主など来るはずもなく、昼まで寝てる所長を起こすくらいしかすることがない。

 そりゃあ、看板も何もかかっておらず、webホームページすらない探偵事務所の存在を誰が知っているというのか。


 掛け布団を俺と所長で引っ張り合っている最中、所長がふと思い出したように呟いた。


「そんなに依頼が欲しいなら、チラシ配ってきてよ……。その辺にあるから。所長はねむい……」


 布団の中に全身を覆い隠して、指だけ外に出して壁の方向を指差している。


「所長、そこは壁です」


「適当に探して。悠一(ゆういち)くんが帰ってくる頃にはちゃんと起きてる。たぶんテーブルの下」


「……了解です」


 この前の殺人事件により学校は未だに休校だ。

 警察の現場検証などは既に済んでいるらしいが、親への説明会など学校側はそれに追われていた。

 それもそろそろ終わりに近付き、明後日あたりからようやく休校が終わる見込みだ。


 リビングにある白いテーブルの下に、収納ボックスが置かれていたのを思い出す。

 所長の言っていたチラシはあの中にあるのだろうか。


 色々な思考を思い付くままに巡らせながら、所長の寝室から出てリビングに来る。

 ベージュ色をした布製の箱が、記憶通りにテーブルの下に置かれていた。


「これか?」


 箱を開けるとそこにはA4用紙が束になって詰まっている。用紙には淡白に手書きで、”不思議な事で困っていたら、是非不思議探偵事務所に!”と書かれている。

 書かれているのはそれだけだ。地図も電話番号も、何も無い。


「……チラシっていうか」


 ペラリと一枚めくって、次の紙を確かめる。

 思った通りだ。手書きであるということから想像したそのまま、完成させているのは一番上の一枚だけだった。これを完成と言っていいのかはいささか不安ではあるが、とりあえずそういうことにしておこう。


「でもこれを配って来いっていうのもなあ……」


 一枚渡してハイ、終わりというのも味気ない。むしろ、その人が依頼するタイミングはチラシを渡した瞬間しかない。

 どうするべきなのか考えている中、寝室のドアが開きパジャマから着替えた所長が出てきた。

 すでに見慣れた格好ではあるが、髪の毛はいたるところに寝癖が見られる。


「所長、チラシってこれ一枚ですか?」


「ん? あー、えっと、一枚書いたら飽きちゃって」


「…………」


 だったらチラシを作ったとか言わないでください。

 そう言いたいのをグッと堪える。


「そうそう、悠一くんにプレゼントがあるんだ。あげる」


 所長はそう言い、黒いアンダーリムフレームのメガネを俺に差し出した。

 俺はそれを受け取らず、メガネと所長の顔を交互に見る。


「フレーム、ピンクにしようか迷ったんだけどピンクはやっぱり嫌だよねえ」


「いや、そうじゃなくって。俺、目はあんまり悪くないんですけど」


「これは視力矯正メガネじゃないよ。かけるとなんと! 能力(のうりょく)(こん)が見えるメガネ!」


 能力痕。いわゆる、超能力者が能力使ったら残る痕だそうだ。所長命名、言葉がそのままだ。

 操られている人はこめかみにハートのマークが浮かび上がり、操っている人は手の甲にハートのマークが浮かび上がるそうだ。


「そのメガネを使って、私の捜査に協力してもらおうかなって」


「これ、どうしたんですか?」


「私の能力で作ったんだ。世界にたぶんそれしかないレアものだよ」


 能力痕が見えるのが、自分の能力のひとつだと所長は言った。そして屋上でみた、氷を操っているのも所長の能力だそうだ。


「所長の能力って……?」


「え、知りたい?」


「知りたい、ですけど」


「仕方ないなー」


 俺の手に強引にメガネを握らせてから所長は自慢気に両手を前に出すと、手のひらの上に透明感のある六法全書のような分厚い本が現れる。

 きらきらと、光が舞っているのが見えた。

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