高校生殺害事件⑦
「ことの始まりは三年前。覚えてない? ニュースで、不可解な放火事件だの自殺だと流行ってたの」
「そんなことも、あったような……」
「みんなが超能力者になったのはここから。私も、そうだったし。でもみんな、自分以外に超能力者がいるなんて考えなかったと思う」
「俺もそう考えます、けど」
探偵さんは俺を家の中に招き入れ、リビングのソファーに座らせた。テーブルの上にはインスタントのミルクティーが用意されていた。
「超能力を手に入れたら、まずは使ってみたくなると思う。自分が凄い人って証明したかったり、特別な人間になったって勘違いしたりして」
「……俺も、多分遊び半分で使っちゃいそうな気がします」
「で、ニュースで問題になると、自分以外の超能力者がいる、って考えるよね?」
俺が超能力を突然手に入れたとする。火を発生させて操る能力ってことにしてみよう。
たぶん、俺の場合は誰にも言わない。奇異の目で見られるのも嫌だし、偏見だけど国の研究機関とかで薬漬けにされる危険性もある。
でも、バレない範囲で人に迷惑をかけないように、超能力を使って遊ぶかもしれない。
「自分に身に覚えがなかったら、そう考えます」
「そして同時期、殺人事件が大流行してたよね」
「それは覚えてます。学校でも、色々言われてたりしましたし」
「そこで問題。不可解な事件がニュースで取り上げられた後に、大流行した殺人事件。悠一くんが超能力者だったとして、考えることは?」
「誰かが超能力者を殺して回ってるかもしれない、ですかね」
「ぴんぽーん、大正解。そう考えて、みんな超能力を使うの自粛したんだろうね。だから、不可解な事件も一瞬で収束した」
特別なのは自分だけでいい。そう考えて殺し回るのだろうか。
でも、全員が超能力者だと知っているならそんなことする必要は無いはずだ。
しかしそれでは、探偵さんが言っていたことに矛盾が生じることになる。
「悠一くんが考えてることは、きちんと合ってるよ。みんな、自分以外が全員超能力者ってことを知らないの」
「でも、それだったら」
「私が、全員が超能力者って知ってるのも変って? 残念、私には能力痕が見えるんだよ。そのおかげで、人類全員が超能力者ってことを知ったの」
「俺は超能力者じゃないんですけど……」
「そこは、えーっと、どうしてだろうね?」
探偵さんはテーブルの上のカップを持って、ミルクティーを一口すする。
超能力者だと殺される。そういう思い込みや仮説が、おそらく超能力が世間に広まらなかった原因だろう。
しかし、急にどうして再び超能力を使い始める人が増えたのか。
この際、俺は自分が超能力者じゃないことに目を瞑ることにする。本音を言えば、俺も超能力者になりたかった。
「で、悠一くんは唯一超能力者じゃない人間。この先もきっと巻き込まれ続けて、大変な思いをするかもしれない」
「……みんなが自粛してるんだったら、そんなに巻き込まれないと思うんですけど」
「助手になってくれないなら、法外な依頼料金を請求しよう」
カップをテーブルに置いた音が、いやに大きかった。彼女なりの脅迫のつもりなのだろうか。
探偵さんは根本的な勘違いをしている。
俺はそうそう巻き込まれることはないと疑問を持っているだけで、助手にならないと言っているわけではない。
超能力なんて言う、俺には無関係な世界に関わることが出来るのなら、拒否するはずがないのだ。
「いやいや、大丈夫です。助手になります!」
「ほんと! やった、今日からよろしくね」
「えっと、よろしくお願いします。探偵さん……、名前はなんて言うんですか?」
「……名前は秘密! 私秘密主義者だから」
えっ、と声をあげそうになった。
驚きなのか何なのか。おそらく、驚きだろう。
まさか自分の名前を名乗りたくないと言われるとは予想できなかった。
「所長って呼んでくれたらいいから、ね?」
どうやら俺の雇い主は、思っているよりも変わった人なのかもしれない。
そう思えば、俺、探偵さんの年齢も知らないなあ。