高校生殺害事件⑥
『高校二年生が殺害されたこの事件、犯人は同じ高校の教員である早川義人であると警察は断定。凶器の刃物からは早川被告の指紋が検出され…… 』
リモコンの電源ボタンを押して、テレビを切る。
俺が巻き込まれた事件の概要は、よくある単純な殺人事件と同じだった。
町田が早川先生のことを怒らせた。先生はカッとなって、持っていた小型の刃物で刺した。それだけだ。
そこを次の授業の準備に来た野球部とその彼女に犯行を目撃されたらしい。
ここからは俺の推測になるが、先生は殺人を隠蔽するためにふたりを洗脳する。それから手当たり次第に洗脳して事実をねじ曲げていく。
それから自分で呼んだのか呼ばれたのか、やって来た警察官も洗脳。
これで完全犯罪モドキの成立だ。
俺が犯人にされた理由は分からないが、本当にたまたまだったのかもしれない。
早川先生は普段から刃物を持ち歩いていたらしい。
俺が思うに、やはり超能力者というのは常に命を狙われたりするからその護身用なのか。
まさかサイコパス的なアレだとは、あまり考えたくない。
「あー……、探偵さんの所に行かないと」
携帯のディスプレイに映る時刻は、正午を少し過ぎたところだ。
殺人事件があったのだからもちろん学校は休校。
特にすることがないので、探偵事務所には仕方なく行くだけだ。
俺はボンボンのお坊っちゃまでないことを伝えて、出来る限りの減額をしてもらわなければならない。
「遅くなるのも、悪いしな」
残り少ない今月のお小遣いが入った財布を持って家を出る。
学校からは外出を控えるように言われているが、まあ問題ないだろう。
親には参考書を買いに行くと言った。
自宅から徒歩十分。
その距離に探偵さんの‘’不思議探偵事務所‘’はあった。
見たところ、普通の二階建ての家だ。
看板も何も立てていない、これ間違えてたらどうしよう。
不安を抱えたまま、インターフォンを押す。
ピンポーンと鳴る音はどこでも聞ける、普通のものだ。
『はーい』
探偵さんの声だ。
「あ、綾瀬悠一、です」
『勝手に入って来ていいよー!』
「は、はいっ!」
そこでインターフォンは一方的に切られた。
いくらなんでも無用心すぎやしないだろうか。
躊躇いがちに門を通り、玄関の扉の前に立つ。
男は度胸だと言わんばかりに、思いきって扉を開けた。
「いらっしゃい」
「ど、どうも」
昨日と同じような、白のワイシャツに黒のスカーフリボン。黒のニーハイソックス。
違うところは、今日はスカートの色も黒だ。上のジャケットカーディガンは、灰色になっている。形は昨日のものと全く同じだ。
間違いなく上のジャケットカーディガンは、量産型服屋で購入したものだろう。
「報酬の話だよね」
「そのつもりで来たんですが」
「そのことなんだけど、私の助手でもやらない?」
「助手、……じょしゅ?」
「人手不足なの。って言っても、まだ事務所やってる訳じゃないけど」
「あの、助手って言うのは?」
「私のお手伝いさん」
店の食器を割った客が弁償できないからと、皿洗いをさせられる。似たようなものだろうか。
しかし俺はまだ、食器を弁償できないとは言っていない。
「あのっ、お金はちゃんと払います」
「お金は要らないから助手」
「だからっ、」
「……嫌?」
探偵さんは遮るように俺にたずねる。
嫌、と言われると違うかもしれない。
どちらかと言えば、むしろやってみたい気持ちが少しだけある。
「嫌って言うよりも、迷惑じゃないかなって」
「迷惑じゃないよ、むしろ大歓迎。それに」
「……?」
「これからもーっと、悠一くんは不思議な事件に巻き込まれることになると思うけど」
「そうそう、超能力者なんて居ないと思うんですけど」
探偵さんの言葉を否定しつつも、胸のうちには今まで体験してきたいくつもの出来事が蘇る。
そうそう居ないのなら、あんなに頻繁に遭遇するわけないのに。
「悠一くんは、やっぱりそうなんだね」
探偵さんは、俺を押し退けて背後のドアの鍵を閉めた。
あれ、これもしかして殺される?
「あ、あの」
生唾を飲み込む。息が浅くなる。
探偵さんはじりじりと、俺に詰め寄って来る。
「この世界はね、悠一くん以外みんな超能力なんだよ」
「へ?」
言われた言葉は予想も出来ないものだった。
しかし殺される心配はないと分かって、どっと体の力は抜けてしまいその場に座り込んだ。
「ちょ、え! 大丈夫!?」
俺以外が超能力者とか、この人はいったい何を言っているのか。
まずはその事について詳しく聞いてから、助手を引き受けるかどうか決めることにしよう。