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不思議探偵事務所  作者: いろはす
高校生殺害事件
4/9

高校生殺害事件③

「でも、俺が犯人じゃないなんて、どうやって証明するんですか?」


 記憶でも消さない限り、既に俺が犯人だということはみんなの記憶に刻み込まれている。

 操られていることを解除したって、俺が犯人でないことにはならないかもしれない。


「それは大丈夫。今回は精神操作を解除すれば、操られていた時のことは忘れちゃうから」


「……根拠はあるんですか」


「探偵さんを疑うの?」


「そういうわけじゃないんですけど、一応……」


「……キミは確認しようもないけど、ハートのマークが浮かぶって言ったよね。そのハートが、黒く塗りつぶされてなかったら、能力を解除したら操られていた時の記憶は忘れるの。精神系の能力痕の特徴のひとつだね」


 確かに、俺にはその能力痕を見ることはできない。

 聞くだけ無駄な質問だったと感じるが、俺は超能力という異次元のものに興味を示さずにはいられなかった。


「黒く、塗りつぶされていたら?」


「その時は能力が解除されたとしても、操られてた記憶がそのまま自分のものって思い込んじゃう。こっちのパターンだったら、間違いなく詰みだったね!」


「あと、もうひとつ聞きたいんですけど」


「ん? なんでも聞いてね。依頼人の不安を解消するのも、探偵のお仕事だから」


「どうして犯人は、俺を操らなかったんですか? 俺を操って、自白させれば探偵さんに絡まれることも無かったのに」


 探偵さんいわく、俺には能力痕がないと言っている。しかしそれを俺自身が確認することはできないし、なにより探偵さん自身も操られているという可能性もある。その可能性はあまり高くないと自分でも思うが、期待してハイ駄目でしたなんて、そんな惨めな気持ちは味わいたくない。


「んーと、私の考えになるんだけど。……まずはキミだけを操るっていうのは、証拠品と目撃者の存在から有り得ないことはわかるよね」


 凶器の刃物にはおそらく真犯人の指紋が着いている。そんな状況で、俺が犯人ですなんて言っても、こいつ何言ってんだ状態だろう。俺でもそう思う。


「そうすると、周りの人間も全員操って、キミにも自白させるっていうのが一番犯人としては都合が良い」


「手っ取り早く、俺を犯人にできたはずです」


「そうしなかった理由はなにか。私の答えは、犯人が自己顕示欲の強い人間だったから」


 自己顕示欲。確か、自分を主張したい欲、みたいなものだっただろうか。


「自分が一番強い、とか人の上に立ちたいって思ってるんだろうね。ストレス溜まってるのかな」


 立っているのが疲れたのか、探偵さんは一番近くにあった椅子を引いてそこに腰を下ろした。

 机の上に肘をついて、手の甲で顔を支える。


「キミまで操っちゃうと、自分が完全犯罪をやってのけたっていうことが誰にも伝わらないじゃない? だから、キミのことは操らなかったんじゃないのかな。キミが訳も分からず逮捕されて悔しがってるのを傍目に見て、ニタニタ笑ってそうだよね」


 話を聞く限り、すごく嫌な人物像だ。少なくとも、推理小説などででてくる賢そうな犯人とは似ても似つかない行動だと思う。

 その自己顕示欲を抑えて冷静になっていれば、完全犯罪が成立したであろうに。


「その犯人、なんかこう、あんまり頭良くなさそうですね」


「だから、私の安い挑発にも乗ったんでしょ」


「じゃあもしかして、警察官に言ってたことは犯人に向かって言ってたんですか」


「警察官にあんなこと言ってたら、私頭のおかしい人間みたいじゃん」


 俺は探偵さんに心の中で謝罪する。電波とか思ってごめんなさい。

 それと同時に、俺の中で探偵さん自身も犯人に操られているという可能性は完全に払拭されていた。


「探偵さん、もしかして犯人がそんなに賢くないって分かってたから飛び出して来てくれたんですか?」


「……えっと、犯人の性格は、今考えた」


「……そうですか」


 でも、即興で考えたにしては筋は通っている気がする。

 俺が真犯人なら、犯人の正体をバラすぞなんて言われると即探偵さんも操ってしまうと思う。それをしなかったのはそこまで頭が回らなかったのか、わざとそうしなかったのか。

 探偵さんの仮説を前提とするなら、そこまで頭が回らなかったが正解だろうか。


「さてと、証拠集めでもする?」


「俺が犯人じゃないっていう証拠ですか?」


「キミが犯人じゃない証拠なんて、犯人の目の前に行けばそれが証拠になっちゃうんだけどね」


 探偵さんのきっちりと揃えられていた足が遊び始めている。落ち着かないように足を組み替える回数が多くなってきた。

 じっと座っているのは苦手なタイプなのだろうか。


「その証拠って、無かったら俺が犯人にされたりします?」


「大丈夫だと思う。キミは本当に、やってないんでしょ?」


「やってないです。今日も寝不足で、お昼過ぎに学校に来たんですけどその時にお前が犯人だなって突然言われたんです。アリバイとか考えたら、滅茶苦茶じゃないですか!」


「目撃者はキミが刺したところを見たって言ってたんだから仕方ないんじゃない?」


「その目撃者はインチキですけどね」


「……話し込んでたら、もうすぐ一時間だね」


 探偵さんは申し訳なさそうに笑いながら、黒板の上に掲げられている時計を指差した。

 確かに、俺たちが教室に入ってからもうすぐ一時間が経過しようとしていた。


「証拠集めなんてやってる時間が無くなったので、犯人のところに突撃しようか。多分、あそこじゃないかな」


 そう言って探偵さんが指差したのは校舎の屋上だった。確かに屋上なら、死体発見現場の運動場を一面見渡すことが出来る。角度によっては運動場から屋上に居る人を見ることはできない。

 しかし屋上は施錠されていて無断で侵入することはできないはずだ。


「でも、屋上は無断で入ることはできませんよ?」


「無断で入ることが出来ないのは、生徒だけ?」


「生徒だけ、です」


 俺は、そんなに馬鹿じゃないと思う。

 さっきの聞き方は間違いなく外部の人を候補から排除した聞き方だし、そうなると考えられるのは。

 探偵さんが何を言いたいのかなんて、最後まで言われなくても分かる。


「先生の誰かが、犯人だってことですか」


「多分そうじゃないかなあって思うだけ。行けば分かるんだし、まあ行こうよ」


 先生が犯人。緊張から来る吐き気により、口内に生唾が溜まってきた。話すことにおいて邪魔なそれを、吐き気をこらえて飲み込む。


「どうやって、屋上に行くつもりなんですか?」


「無断で入るのは駄目なんでしょ? なら合法的に、キミが正式に申請すればいいんじゃないかな?」


 確かに正式に申請すれば入れないこともない。しかしそうするには何か最もな理由が必要になるわけで。

 今の俺が屋上に行くとしても、自殺するんじゃないかとか疑われて申請が却下されるかもしれない。

 それどころか、居場所を突き止められたと焦った犯人により、操られた先生たちに取り押さえられてゲームオーバーの可能性もある。


「俺には無理じゃないですかね」


「じゃあ強行突破かなあ。時間もないし。鍵をかけてないことを祈ろうか」


「屋上のドアって、そんなに柔な造りじゃないと思います」


「探偵さんに任せなさい。大丈夫だと思うから」


 その根拠のない自信はどこから来るのか。

 俺が知らないだけで実はしっかりとした根拠があるのか。いや、犯人像を即興で考えたことを念頭に置いて考えると、間違いなく根拠のない自信だろう。

 そんなことを考えながら俺たちは人目につかないように、静かに屋上への階段を上って行く。


「死んだ生徒とは、友達だった?」


「いえ、クラスメイトですけど、特別仲が良かったわけではないです」


「じゃあどうして犯人にされたんだろうね」


 ようやく、探偵さんから事情聴取なるものを受けた。

 やはり状況把握というものは重要なのだろうか。


「たまたま、とか?」


「それが私も一番ピンとくるんだけどなあ」


 町田太郎とは、本当にクラスメイトの関係しかない。

 親友というほど深い仲でもないし、顔見知りというだけの浅い仲でもない。

 俺が犯人にされた理由が、たまたま以外に思い付かない。


「さてと、これが屋上の入り口?」


「そうです。いつもは鍵がかかってるんですけど、今はかかっていないみたいですね」


「真犯人さんは、私のことを消し去りたいみたいだね」


 俺は犯人が探偵さんを操らなかったのは、そこまで頭が回らなかったからだと結論付けた。しかし探偵さんは、俺とは違うことを考えていたみたいだ。

 探偵さんを殺して、さらにその罪を俺に擦り付ける。犯人はとことん、自分を誇示したいタイプの人間のようだ。


「探偵さんのことも、殺すつもりなんでしょうか」


「たぶん、そうじゃないのかなあ」


「超能力のことバラされるのは、やっぱり困るんですかね」


「まあ、……そうなのかな。でも自己顕示欲が強い人って、案外臆病だったりするんだよ」


 犯人の性格が探偵さんの想像通りだと考えると、自分を超能力者だと知ってもらった方が自己顕示欲を満たせるのではないだろうか。バラされたくないのは、どこかの研究所にでも送られて薬漬けになったりすることを恐れているのだろうか。


 自己顕示欲が強くて臆病。その性格で考えると、どちらが犯人の真意なのか俺には分からないが、行動から考えると後者の方なのだろうか。

 悶々と考えている間に、探偵さんは無言で屋上のドアに手をかけた。そのまま向こう側へと押し出し、隙間から風が吹き込んでくる。


 風と同時に差し込んできた太陽の光に目を眩ませながら、屋上を見渡す。探偵さんの予想通り、ひとりの人が俺たちを出迎えてくれた。

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