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不思議探偵事務所  作者: いろはす
高校生殺害事件
3/9

高校生殺害事件②

 殺人事件があったのだから、当然ここには誰もいないし立ち入り禁止の黄色いテープも入口に貼られていた。しかし彼女はそれを潜り抜けて、教室の中へと入ってしまう。


 仕方がないので、俺も周りに人がいないのを確認して中へと入った。


「急に引っ張ってごめんね、あの場所じゃ聞かれると思ったから」


 少女は呼吸を整えて、さらに続ける。


「キミは漫画が好き?」


「まあ、好きですけど」


 助けてあげると言っておいて、初めに聞くことが漫画の好き嫌いとは。

 普通はその時間に何をしていたかなどの、アリバイの確認をするものではないのだろうか。


 期待が外れたせいで俺が深いため息を吐いたのを見てか違うか、こいつは再び話し始める。


「漫画に、人を操る超能力者がでてきたりするでしょ? 今回は、その超能力者の仕業なんだよ」


 超能力者。普段は信じようとしても信じなかったその存在を、目の前の人間は笑い出すわけでもない真面目な表情をして肯定した。

 その存在を肯定してしまえば、今までの不思議な出来事にも、俺に身に覚えのない殺人にもすべて説明がついてしまうかもしれない。

 アニメや漫画の、想像の世界の産物だと思っていたものが、本当にこの世界に存在するのだとしたら。


「その能力者に、周りの人は操られてるんだよ」


「……俺が操られて、あいつを殺しちゃった可能性は?」


 その可能性も否めなかったはずだ。現実、証拠は全て揃っていると言っても問題はない。考えたくないことだが、俺が操られていた時のことを覚えていないのならその可能性もある。

 なのにどうしてこいつは、俺を犯人じゃないと決めつけることができたのだろう。


「それは無いよ。その証拠としてキミには能力痕(のうりょくこん)がなかった。なのに目撃者や警察の人に能力痕があった。っていうか、確認できた限りでキミ以外の全員に能力痕があったよ」


能力痕(のうりょくこん)?」


 あまりピンと来ない単語に、話を思わず遮ってしまった。


 しかし彼女は嫌な顔ひとつせずに話し続ける。


「能力は使うと、ちゃーんと痕が残る。精神系の超能力だから、そんなイメージはないと思うけど」


「……?」


「えっと、グーで殴られると、殴られた人には痣が残るよね。超能力も同じ。操られると、痕が残るんだよ。で、私はそれを見ることができるの」


 彼女は左手の人差し指で自分の目を指差してそう言った。それから髪の毛をかき揚げて隠れていた耳を露出させ、ちょうどこめかみの辺りに手を置いた。


「精神系能力者に操られてるかなにかされてる人間は、ここにハートのマークが浮かび上がるの。何もされてない人間には、当然残らない。殴られてない人間は、怪我なんかしないもんね」


 言いたいことはなんとなく分かる。

 しかしこいつの言っていることが正しいかなんて、俺には到底信じることができない。


「でも、俺はそんなの見えなかった!」


 あの場所にいた人で、こめかみにハートのマークがあった人間はいなかった。

 俺を捕まえようとしていた警察にも、目撃者とされた野球部の奴にも、そんなものは見えなかった。

 彼女は髪の毛をもとに下ろし、今度は人差し指を顎に添えた。


「能力痕は私にしか見えないんだよ。それが、私の能力のひとつ」


「……お前の言ってることが、正しいって証明できんのかよ」


「今は出来ないかなあ。でも、キミはこのまま犯人でいいやって思ってるの?」


「そんなわけないだろ!」


 俺は、本当に町田を殺してない。なのに、犯人にされるなんて納得がいかない。

 もう、どうにでもなればいいと思った。言葉と感情が上手くまとまらない。


「……なんで俺が犯人にされたんだよ」


「たまたまじゃないの。それか真犯人に恨みでも買っちゃったか」


「お前はなんで、俺のこと助けてくれたの」


「私探偵だからね、困ってる人を助けるのは仕事の一環だよ」


 自称探偵を名乗る少女は、俺の前までゆっくりと歩いてくる。


「まあそういうわけで、キミのことは助けてあげる。多分、私しか助けられないよ」


 きっとこのまま、彼女が差し伸べてくれた手を拒めば俺は犯人にされてしまう。警察も、学校のやつらも、みんな俺が犯人だと知って疑っていない。

 それが超能力で操作させられたものだとしても、それを俺には証明することができない。これが超能力によるものだと知っているのは、目の前の探偵さんと真犯人だけ。

 答えは、ひとつしか残されていなかった。


「お願い、します。俺を、助けてください」


「いいよ、助けてあげる」


 下げた俺の頭の上に乱暴に手をおいて、髪の毛をくしゃくしゃにされた。視界に映る探偵さんの足は、懸命につま先立ちをしている。

 朝から必死に直した寝癖も意味ないくらいに、後頭部はぐしゃぐしゃになっているだろう。

 しかし触れられた手の温かさは、今の俺の不安を和らげるのには充分すぎるものだった。

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