表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼岸花  作者: 収音機
2/2

波の向こうへ

前回の二話があんまり出来が良くなかったので加筆修正を加えました。


 

 Ⅹ-3

「はぁ………」

 俺は今、とても機嫌が悪い。コーヒーカップを揺らしながら、今朝あった事を思い返してひとりごちた。



「…………ってば」

「……と…でってば」

「ちょっと!!聞いてんの?」

「後15分寝かして…」

「イヤ、無理だから!!」

 ついに布団を引き剥がされてしまった……

 寒くて再び楽園に入ろうと思い布団をつかもうとしたのだが…………

(無い……だと…)

 薄目を開けて布団を探すとジト目のナナねぇの後ろに目標を視認する。

「さっさと自分で起きなさいよね…もうとっくに朝なのよ!」

 もうすでに布団は遥か彼方へと投げ捨てられていた。

「ちょっと、あんたねぇ……」

(取りに行くのめんどくせぇからこのまま寝るか……)

「おーい!だいじょぶー?もう私きがえなきゃなんだけどー?」

「んー…(ふとんー)」

「だめだこりゃ、目ぇ開いてんのに起きちゃいない…ったく…どこ見てんだか」

 何言ってるかわからなかったが、何か布を取ろうとして白い布に手をかけた。

「ん………ふとn………」

「え?あっ……ちょっっ………あ、あ、あんたね………人のバスタオル取ってんじゃないわよ!へんたいっっっっ!」

 いきなり大声で言われ驚いた俺は起き上がったものの訳も分からず辺りを見回す。

 すると客室にあった風呂から出たばっかりでバスタオル一枚のナナねぇが顔を真っ赤にして立っていた。

「ん?どったの、ナナねぇ?………ぐはっ…」

 俺がそう挨拶すると次の瞬間、俺は壁にめり込んでいた。

 そして壁とキスしながら再び意識を手放すのであった。



 そういう訳で非常に寝起きが悪いのに嫌いなほうれん草が朝食に出てきたりして、散々な朝だった。

 朝食を終えた俺はどんよりした気分のままぼんやりと少しはっきりしてきた俺らの向かう先、「狐島」を眺めていた。

 狐島はその昔、船乗り達が浜で見つけた「助けてくれたらどんなことでもする」と言う女を助けた時にその女に頼まれ向かった先がこの島で、その女は狐島につくとその男を騙し船乗りの一人を食ってしまったと言う逸話がある。そんな島だ。その島には俺の祖父とその長女家族が住んでいる。

 ちなみに俺は長男一家の息子で、本家とのつながりであったオヤジの死んだ今、あまり本家とのつながりはない。

 飲み終わったコーヒーカップを片付けて気分転換に外気に当たりに行ったらちょうど知佳が立っていた。

 潮風に髪をなびかせた少女の横顔は朝日が水面で反射しているのがその瞳をかがやかせ、その佇まいの落ち着いた雰囲気と相まってとても美しく思えた。寧ろ、余りの美しさに息をのみ、そっと触れなければ壊れてしまうかのような美しい芸術品かのようにさえ思えた。

「綺麗だ……」

 気づいたら言葉は口をついて出てきた。自分は昨日会った少女に対してこんなにも愛おしさを感じていたのかと自分でも驚き、自分自身に驚きが隠せなかった。

 自分はこの美しい芸術品に触れてみたいとさえ思ってしまった。

 そして、俺の手がその肩に軽く触れた。




「ひうっ……びびびっくりしたぁ~」

 とまぁ先ほどの思考とは裏腹にアホぽく大袈裟に反応するもんだから緊張感もまるでなくなってしまい、腹を抱えて笑ってしまった

 ひとしきり笑い、再び彼女のほうを向くと、頬を膨らませてむくれていた。

「ヒデ君ひどいよぉ……女の子をからかうなんて……」

「悪い悪い、なんか絵になるからさ、つい声かけちまった」

「ふぇ……?えぇ………?えぇぇぇぇ!?」

「どした?」

「だ、だって……あうあうぁぅぁぅ……」

「ん???」

 声をかけると途端にゆでだこになってしまった知佳に「?」をうけべた。俺、何か言ったっけ………?

「しかし、なんで俺の名前をしってんだ?しかもいきなりあだ名だし……昨日俺も名乗ろうと思ったら先船乗っちゃったからさ、まだ名乗れてないんだけど………?」

「たはは……、いきなりごめんね…気にしたかな?お母さんから聞いてたんだ、私に春貴さん以外にもう一人従兄弟がいるってこと。だから早く会ってみたくって………」

 とはにかんできたものだから思わず「別に」と言いながら思わず顔をそらしてしまった。

「でもよかったなぁ…ヒデ君が優しい人で……」

「んあ?俺なんかしたっけ?」

「うーん………別に?」

「おいおい……」

 ふと視線を遠くに投げると海の碧さが目に入る。その綺麗な碧をみていると自然と出てくる言葉などきまっていた。

「「きれいだな……」」

 思わずハモってしまった。

 しばらく眺めていると突然知佳が

「ねぇ…海ってさ……自由だよね……」

 といいだす。なんの話かわからず、だまっていると、

「だってさ、なんにも縛られずに、ずっと気ままにこうやって揺れ動いてるって……はぁ…自由だなぁ…」

 と言う。

「……………?」

 おれはその言葉に妙な既視感、もとい既聴感ならぬものを感じていた。

 それを意識したとたん、急に脳裏で映像が流れ出す。

 山や、鬱蒼と茂った森、大きな洋館、洞穴、海、夕焼け、、、、

 様々なものがフラッシュバックする。

 俺にはそう、病気がある。両親が死んだ時のストレスのようだ。

 俺は現場に遭遇して直接両親の死体を見てしまっていたのだ。その頃の記憶はほとんど消えたはずなのに両親の死だけは鮮明に記憶されている。なにか死をイメージさせたり、昔を思い出すような事をしてしまうと今のようにフラッシュバックし、吐き気を催してしまう。

 しかしどうだろう、今日はいつものフラッシュバックとは少し違う感じがした。

「はぁ……はぁ……はぁ………」

 遠くで知佳が声をかけてくれているのは感じられる。そして俺は知佳に抱き止められると、すっかり身をゆだねていた。



 すっかり落ち着いた俺は「ありがとう」と一言いい立ち上がろうとした。

 ふと顔を上げると不安げに見つめる彼女の顔が目に入り、しばらく見つめ合う形になった。その瞳を見て俺は今まで見ていた海の碧を思い浮かべ俺の思考回路は一時停止していた。

「ね、ねぇ…ヒデくん…あのぉ……そんなに見つめられると…」

「あ、わりぃ…」

 お互い思わずそっぽを向いてしまい、まともに顔も見れなかったが、お互い紅くなってたのは間違いなかった。



 気まずいながらも打ち解けあってきたころ、見計らったかの様に奈々姉がやって来て

「もう着くわよ!早くしなさい!」

 と声をかけて来たので、彼女と別れ、散らかった部屋を片付けに部屋に戻る事にした。別れ際に、気になっていた事を打ち明けた。

 ほっぺにケチャップが付いてるよ

 と…



 島に着いた俺達は、荷物を置きに一度祖父の家(というより城)に向かった。

 その後俺と奈々姉と知佳ちゃんともう既にこの島に着いていた従兄弟の百花ちゃん(14歳)と春貴兄さん(20歳)と海に遊びに行った。

 実はこの兄妹とは何度かあったことのある間柄で、特に百花ちゃんには

「おにぃーちゃーん!」

 と呼ばれている。百花ちゃんは俺によくなついてくれてるのだ。

「ちょっとヒデー?あんた随分とたらしこんでんじゃない」

「別にんなんじゃねぇよ…大体百花ちゃんのはもともとからだろ?」

「いやいやいや、あんたさっき船でだいぶいい感じだったじゃない?」

 俺はあの一件を見られていたと分かり急に暑くなり、そっぽを向いてしまった。

 ケタケタと笑いながら百花ちゃんや知佳ちゃんの元へと行く奈々姉ぇの後ろを見送るとおれはそれを遠巻きに見ながら百花ちゃんと知佳ちゃんが似てるなとかわけのわからないことを思いつつパラソルに戻った。



 女子はどうしてこんなに打ち解けあうのが早いのか不思議な位早くも仲が良さそうに遊んでいる。それを横目で見ながら、春貴兄さんとパラソルの下で話していた。

「しっかしまぁ……広いよなこの島」

「そうか、秀樹はこっち来るのははじめてか……まぁな、しかも大体の物資はどっかから湧いて出るかのように存在すると来たもんだからこの島は不思議だ」

「湧いて出るわけねぇだろww」

「いや、湧いて出るって表現は意外と的を得ているのだよ」

「は?」

「いや、なんでも連絡船や飛行艇を見たものはいない上に爺様はこっからなかなか出てこないとくる。しかもこの海域はなぜか魚が全然釣れない。そんな状況でどうやって生活してるのかおれは不思議でたまらない。」

「え、どうやって生活してんのさ……泳いで買い出し行ってるわけじゃねぇだろ?」

「まぁ、それが爺様が化物だぁ言われる所以なんだけどな」

「でも、なんらかのからくりなきゃ辻褄合わねぇだろ?」

「むぅ……どうなってんだかな……まぁ、その化物も後がねぇらしいがな」

「?」

「おまえ、まさか知らねぇのか?」

「なんの話しさ?」

「いや、今までほとんど絶縁状態だったお前の家が呼ばれた理由もわかんねぇのか?………ってあぁ、、すまねぇ……」

 妙な沈黙が突き刺さる。そう、父が死んでから爺様の家に行ったことがないのだ。それを春樹兄さんは『絶縁状態』といったようだ。しかしそれは同時に俺に父の死を連想させるものだと思い当たったらしい。

 確かに辛い。しかしこの気遣いも逆に苦しい。

 俺は努めて、

「別に気にしちゃあいねぇよ………」

 と返す。それが精一杯の痩せ我慢だった。

「まぁ、率直に言うと、爺様の後が少ないから相続相手を決めようってはなしさ。まぁ、お前にとってはどうでもいいがな…」

「まぁ、な」

「今日の親族会議お前の所誰が出るんだ?」

 と聞いて来た。今日親族会議があるなんて今初めて聞いたし、まぁそういう小難しい話は奈々姉に任せるべきだろう。祖父の病状がそんなにも悪いなんて聞いたことがないと言うと、

「俺もついこの間聞いた」との事。



 長い沈黙に耐えかねていると、向こうで知佳ちゃんがこっちを向いているのに気づき、そんな事より泳ごうぜと声を掛けたら

「俺が金槌だって知ってて言ってんのか?」

 と怒られた。無論10年前のことなどあまり覚えてるわけもないので仕方ないのだがと一人ごち、パラソルをあとにした。



「そーれッ!!」

 高く高く上がったビーチボールを追いかけトスする。

「頼んだ、奈々姉ぇ!」

「はいよっ!」

 綺麗にスマッシュが決まるとガッツポーズをする奈々姉ぇの後ろにレシーブしようとしてこけた知佳ちゃんが地面に突っ伏していた。なので「知佳ちゃん、大丈夫?」と声をかけると、

 奈々ねぇに

「あんたね、そっち百花ちゃんよ」

 と笑われ、焦る。

 なるほどそういえば髪型も水着も違ったな

「あんた今どこで判断した?」

 と奈々ねぇに聞かれ咄嗟に

「え、だってビキニじゃん、知佳ちゃんビキニじゃないっっしょ?」

 と言ってしまったものだから奈々ねぇに叩かれ、女子勢から白い目で見られてしまった。

「どーせ私は百花よりもむねがないですよーだ」

 知佳ちゃんがなにか言ってるのが聞こえたが聞き取れず、

「ん?どうした?」

 と聞くも、

「もー知らないッ!」

 とか言ってあっかんべーされていじけてしまった。

 そうこうしているうちに雨がポツポツきはじめてしまったので俺らは海岸をあとにした。



振り返ると、とても、とても黒い雲が空を覆っていた。




まだ新歓が忙しくて投稿出来ない………


次は四月末に投稿できればいいな………

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ