容姿だけが取り柄だと思っていた男に根をあげ結婚した話
溺れる様な恋は、本当に危険なのだと身をもって実感した。
「ほんと、容姿だけは合格だわ」
彼は社内の女性全てを虜にする容姿をしていた。ハーフらしく色素の薄い髪に透き通る様な白い肌。
創業者一族で次期社長となれば、誰もが彼を欲しがっただろう。
私も例に漏れず彼の肩書きと顔に心打たれてしまった。
「でも頭はすっからかん。何も考えてはしないわ。本当に脳ミソが入っているのかしら」
そう。彼は少々どころではなく、頭がかなり弱かった。
放浪癖があってふと気が付くと席に居なく、社内をふらふらしていたり、お昼の弁当を忘れ財布を忘れ女性陣から貢がれていたり、疲れたと言って床で寝そべっていたりととにかく酷い。
母性本能をくすぐられ放っておけないのが、なんとも憎い。
世話をする度にお礼を言われ、その笑顔を見たいが為にまた世話をする。
私はどんどん彼に溺れていった。
「あれ、南さん?お化粧、変えたんですね……」
「えぇ、こちらの方が自分にあっていると思ったので」
彼の好みは綺麗より可愛い。どうしてもその視界に入ろうと、綺麗系な化粧を止め可愛い系の化粧をしていた。
だがやはり綺麗と言われる私には綺麗系な化粧が似合う。両親は有名デザイナーで私も幼い頃から告白され、数は数えようと思っても数えきれない程。元彼氏だって両手じゃ収まりきれない程いる。
当然ながらプライドもある。
あんな顔だけの男に溺れていた私を救ったのは、その高いプライドだった。
実はそろそろお見合いを考えていたりするので、お見合いパーティーなどに出ようと考えている。
「うん、南さんとっても綺麗。あの良かったら今夜一緒にお食事でも……」
「ごめんなさい、今夜はお恥ずかしながら、お見合いパーティーに出ようかと思っていますの」
「え、お見合い……?」
「私も良い年齢だし、結婚を考えたお付き合いをしようかと思いまして」
「じゃぁ、僕は?僕と結婚しませんか?」
正直とても気分が良い。だが容姿が取り柄の男と付き合う、ましてや結婚だなんてありえない。私の頭がお花畑だった高校生の頃ならまだしも。
「考えられそうにもありませんね。お引き取りください」
「僕、南さんと離れたくない。これからもずっと一緒に居てほしい!」
「だから考えられないと」
「うん。今はそれでも良いよ。でも僕は南さんを僕以外の人と付き合わせるつもりはないから、徹底的に南さんが結婚したいって言うまで邪魔するね」
勝手にほざいてろ、と思いその場を流したのが悪かった。
(一回目)
「さて、私に釣り合う様な男性は居るかしら」
「あ、南さん。偶然ですね、一緒にお話ししませんか?」
「は?いy……「あ、この料理美味しい。今度中華のお店、行きませんか?美味しい所知ってるんです」
「き、機会がありましたら」
(二回目)
「今度こそ、私に相応しい男性を見つけなくては」
「あ、南さん。また偶然お会いしましたね~」
「えぇ、そうでs……「今度中華のお店行くって約束したじゃないですか。いつ行きます?あ、今からでもどうです?」
「こ、今度いつか連絡するわ」
(三回目)
「今日こそ、今日こそはお相手を見つけるわ‼」
「あ、南さーん。中華のお店行くって約束したのに、連絡はまだですか?僕待ちきれなくて」
「最近何かと忙しいんですの」
その後何度お見合いパーティーに参加しても彼が現れ、撒こうと思っても撒けずに他の男性と話せない。
出会いを求め色々なものに参加しても全てに彼がいる。
「ねぇ、神田さんと付き合ってるんだってー?」
「そんなのデマです、デマ」
「またまたぁ、本当に?」
「本当に!」
そのうち会社でも私と彼が付き合っていると噂になり、とうとう私は根をあげた。
「分かったわよ!あんたと結婚すれば良いんでしょ?結婚すれば!」
「うん、一生大切にするね」
それから五年後。私の腕には赤ん坊がおり、背中には彼が居て、右膝には四歳の娘がおり、左膝には二歳の息子がいる。
「五年で大家族になったね。今、南さんは幸せ?」
「何だかんだで幸せです。でも今はもう南じゃなくて神田ですよ」
「ふふ、良かった。僕も幸せ」
容姿だけだとばかり南さんには思われていたけど、実は悪友達には腹黒って言われているんだ。
離婚なんて認めないからね。
2015/06/21 一部追加しました。