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大体の主要キャラは出ましたね。忘れてなければ……。
先に後ろに振り向いたのは玲治だった。背に理麻を隠すように若干前に進み出た彼は、帰ってきたらしいその男を睨む。
「邪魔ってなんだ。用があるから立ってんだろうがよ」
「用?お前が俺の部屋に何の用だって言うんだよ。喧嘩はだるいから、別にやつに売れよ」
「そんな暇ないっつの。それに今日からここは、お前だけの部屋じゃなくなったんだからな」
「あ?……そーいや、そんな話聞いたな。ちっ、せっかく一人部屋だったのに」
そう言うと、玲治にそれ以上言われぬうちにすっと横を通り過ぎ、学生証を機械に通す。開錠したところでドアノブに手をかけた。その時ちらりと理麻の方に目を向ける。
玲治の後ろに隠れるように縮こまっていた理麻は、その行動にびくりと肩を揺らす。ほんの一瞬の出来事だったのだが、それでも体に穴があくような視線を感じたと理麻は思った。視線なんて、とても合わせられない。
背後でドアが閉まり、理麻はようやく知らぬうちにこわばっていた体から力を抜いた。その様子を見て、玲治が困ったように笑う。
「大丈夫か?やっぱり……」
「ううん……だい、じょうぶだから。わがまま、言ってもダメだし、僕がこんなんだから……これは、僕の問題だから。頑張ってみる」
「いや……でも、現に今しどろもどろになってるだろ?辛いなら我慢するなよ、体に良くないし」
「どうしてもダメなら、ちゃんと言うから。玲治、心配しすぎ」
「当たり前だろ。俺は幼馴染だし、理麻の性格もわかってる。それにあいつはほんとに危ないんだよ。誰だって心配するだろ」
それでも、理麻の気持ちは変わらないようで、再び「大丈夫」だと言われてしまう。こうなれば玲治はそれ以上、強くは言えなくなる。理麻はこう見えて頑固だ。特に自分のことに対しては、人一番譲らない。
「なら、何かあったらすぐに俺に連絡しろよ。すぐにだからな!!そしたらすぐに助けに行くから」
「僕、携帯使うの苦手なんだけど……」
「この機械音痴め。じゃあ喚いて叫んで暴れろ。そんで隙を見て逃げること!わかったか?」
「それも難しいけど……頑張ってみる……」
「んじゃ、荷物片付いたら夕飯食いに行くか。片付け終わったら、俺の部屋来て。一緒に食いに行くぞ」
「うん、隣の隣だよね。わかった」
じゃあな、と言いながら理麻の頭をぽんぽんと撫で玲治は自分の部屋へと戻っていく。それを見送ってから、理麻はドアに向きあった。制服のポケットから学生証を取り出す。そしてそれを握り締めたまま、数回ゆっくりと深呼吸をした。
「よし……突入、だ!」
ドアの鍵を開け、理麻は今日から暮らす部屋へと足を踏み入れた。
しかし、すぐに入ったことを後悔する。ドアが締まり、理麻はそこに背が触れるまで後ずさった。なぜならそのすぐ前に、先ほど帰ってきた同室生――――仙道彰が立っていたからである。
真っ直ぐに理麻を見つめてくるその視線は、何かを疑い見透かそうとしているように鋭く、理麻が恐怖を覚えるのも無理はない。腕を組み、やや壁にもたれかかるようにしてたっていた仙道は、淡々と口を開いた。
「2、3質問がある。全部答えろ」
「っえ……」
「お前の名前は?」
いきなりの質問に、理麻はさらにうろたえる。内心パニックに陥りながらも、理麻は懸命にこの危機を乗り切ろうとする。
「し、篠宮、理麻……」
「俺に見覚えは?」
「きょ……うが、はじめて」
「最後……『閃夜』は、お前か?」
「?」
『閃夜』という言葉に理麻は聞き覚えこそ、食堂の出来事であったものの、それが誰なのか理麻に覚えはない。理麻は必死に否定を示すように、首を勢いよく横に振った。その行動を見た仙道は、面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「まぁいいか。俺には関係ないし。せいぜい無事に過ごしたかったら、生徒会には近づかないほうがいい。まぁ、あのうるせぇ番犬がいるなら、心配することもねーか」
後半はほぼつぶやき声で、余裕のない理麻には聞こえることはなかった。