0-3
管理塔から歩き、高等部の校舎へと向かう。数分後ようやくたどり着いたその校舎は、3棟ありそれぞれ学年ごとに分かれている。それぞれの校舎ごとに玄関があり、特別教室へ移動する以外で、ほかの学年の生徒とは会うことはない。校舎を見分けるには玄関脇にある校章の色で見る。これはネクタイの色ともリンクしていて、一年は緑、二年は青、三年は赤だ。
理麻は2年の校舎に入り、なんとか自分の下駄箱を見つけ、下足から履き替えた。そして職員室へと向かう。職員室や保健室はちょうど真ん中にある二年の校舎にあるようだった。
職員室に辿り着き、勇気を出してノックし中へとはいる。そろそろHRも近い時間で、先生の数はまばらだった。橘先生はどこだろうと、室内を見回すとこちらを向いて手招きしている先生がいた。理麻は急いでそちらへ向かう。
「篠宮、理麻くん、だね」
「はい」
「見かけない顔だから、そうかなって。僕が2-D担任、担当科目は数学、橘弥生です。うちは3年間担任が持ち上がりだから、よろしくね」
「篠宮です、よろしく、おねがい、します」
「うん。じゃあ、教室に行こうか」
そう言って、橘は出席簿やいくつかのプリントを手に持ち、職員室をでる。リマもそのあとに続いて、教室へと向かう。
(先生、僕と同じくらいの背の高さだ……)
「篠宮くん、頭いいんだねー。前の高校進学校でしょ?あそこレベル高いって言うし」
「そう、でもないです……」
「うちもそこそこだから、気は抜いちゃダメだよ。はい、ここが教室。基本2階に各教室があって、3回が化学室があるかな。ほかの特別教室は他の校舎にあるから、初めのうちは誰かと一緒に移動したほうがいいかもね」
「はい」
「じゃ、ちょっと待っててね。しばらくしたら呼ぶから、そしたら入ってきて。はーい、みんなおはようー」
扉を開けながら、教室内の生徒に挨拶をして入っていった。すぐにその扉は閉められる。中からわずかに先生の話す声が聞こえるが、すこしざわついているのがわかる。おそらく転校生が来るので、それで生徒のテンションも上がっているのだろう。
「大丈夫……だい、じょうぶ」
橘に呼びかけられるまで何度も深呼吸を繰り返す。「大丈夫」と自分に言い聞かせる。今日一番緊張している瞬間である。
「入ってきてー!」
「だい、じょうぶ……!!」
震える手で、ゆっくりと扉を開く。その瞬間から教室内の視線が全て理麻に向けられる。さっきまでざわついていた教室内が、今は驚く程静まり返っている。若干うつむきつつ、橘の立つ教壇の方へと歩く。ちらりと前方を伺えば、にこりと橘に微笑まれた。
(大丈夫、大丈夫。名前言う、だけ)
教壇の横に立ち、クラスメイトの方へと向く。そうしている間に、橘が黒板に理麻の名前を書いていく。書くなら別に、自己紹介は必要ないんじゃないかとも思うが、そうもいかないお約束というやつだろう。
「篠宮……理麻です。よろしく、お願いします」
理麻が言い終わるか終わらないかという瞬間、クラス中が再びざわめき渡った。
(可愛い、めっちゃ可愛い!!)
(来たっ!!転入生きたっ!!でも王道?王道なのかな?!姉貴に連絡せねば!!)
(何だあの小動物!!)
「はーい、静かにー。じゃあ、篠宮くんの席は、あの窓側の一番後ろね。後ろの席だけど、黒板見える?見えなかったら、代わってもらってね」
「はい」
カバンを胸の前で抱え、言われた席に着く。席に着く間も視線は外されないままだ。机の横にカバンをかけ、椅子に座る。
「よ、理麻。久しぶり」
「!玲……治」
前の席の生徒が振り向いたと思ったら、なんと幼馴染で、理事長の甥の一ノ瀬玲治だった。そういえば、同じクラスだと理事長が言っていたな、と思い出す。
「席近くてよかったな、わかんないことなんでも聞いてくれよ」
「うん、ありがと」
「ところでそのメガネって、理事ちょ……あだっ?!」
「はーい、一ノ瀬。まだHR終わってないから、篠宮くんに早速絡まないのー」
そういうのは、教壇でにこやかに立っている橘だ。ふと何かが床に落ちたのを、視線で追うと、そこには短くなった白いチョークが転がっている。
一方その話に出てきた玲治はというと、後頭部を抑え唸っている。
「ってーな。手加減しろよな、バカになったらどうしてくれる」
「ええー、1年最後のテスト、数学何点だっけー?平均いってたっけかなー?」
「うぐっ……」
「わかったら、前向く!じゃ、最後の連絡ねー……」
とりあえず、橘の言うことは聞こう――――と、理麻は密かに思った。
HRが終盤に差し掛かった頃、理麻は前に座る玲治を見た。
(それにしても……びっくりした)
というのも、理麻が覚えていた玲治の外見と、今の外見が異なっていたからである
黒髪だった髪の毛は茶色く染められている。中学の頃から若干長めではあったものの、今は肩に届くくらいになっている。それをワックスか何かで、かっこよく整えられている。さらにさっきちらりと見えたのだが、両耳に水色のピアスまでついていた。これが高校デビューというやつなんだろうか、と変なところで結論づけた。
しばらくしてチャイムが成り、橘は授業のために教室をあとにしていた。
(一時間目は、英語……)