成田さん高校進学
私、成田涼子は喧嘩が強い。
そんな一文だけを見れば、「なんだこのナルシシズム女は」と思うかもしれない。だが、弁解させてほしい。
私は、そんな一文を自慢など一切に含まず、むしろ、ある種のコンプレックスを告白するような意図を含ませて記している。
私は、圧倒的に喧嘩が強かった。子供の頃から男の子にも負けたことはない、とか、ちょっと男勝りなお転婆、なんて次元ではなく、物心ついたときから今まで、大人の男性にすら負けたことがなかった。
ちょっとした武勇伝を披露するならば、小学生のころ、近所で変質者が出ると噂になった。それは噂などではなく事実として変質者が出現しており、私はそれに遭遇してしまった。ニヤニヤと笑いながら近づく変質者に私は恐怖しパニックに陥った。気づいたときには、その変質者は地面に伏し、私の拳には肉を殴った嫌な感覚が残っていた。
私は変質者をのしていたのだった。そして、その変質者は無事に(とは変質者視点では言いにくいが)捕まえることができたのだった。
それ以来、私の強さが付近に知れてしまい、たびたび生じる男子と女子のいざこざにことごとく召喚されることになった。
そういったことを繰り返していると、強さを一時的感情の高ぶりだけでなく、コントロールできるようになってしまう。
なおさら都合が悪かった。不安定な強さ、が、確実な実力に変わっていったのだ。
不安定な強さの女の子、ならまだ可愛いげがあるが、普通に強い女の子、には可愛いげがない。
キチンとした強さを持った私は不安定な時期である学生たちの中で次第に浮いていった。
孤立を深めた私は、強さを隠すことを心に決めた。