あ、久しぶり(えっと誰だっけ)
「即興小説トレーニング」のほうで書いてみたものです。あちらのサイトでは匿名になってます。
お題:今度の絵画
制限時間:30分
「お、佐崎じゃん、ひっさしぶりぃ」
いきなり背後から話しかけられて、私はかなりびっくりした。小さい頃からうしろから話しかけられるのは慣れていないのだ。三つ子の魂百までとかいうでしょう。小学校のときに砂場で遊んでいたら、後ろから犬に襲われたことがあるのだ。
いや、いまはそんなことはどうでもいい訳で。
振り返ると、突然話しかけてきて私を驚かせてくれたのは、高校のときの同級生で、名前は確か・・・・
「えっと・・・・あー、高島?」
「そうそう、よかったー覚えててくれたか!」
朗らかに笑いながら私の向かっていたテーブルから料理を摘む。
今日は高校の同窓会なのだ。
「で、元気にしてんの?大学どこいったんだっけ?」
「ああ、N大。今はそのままそこで働いてるよ。高島は?」
「俺か?俺はなあ」
なぜだか高島は照れ笑いをした。照れ笑うような要素が今までにあっただろうか?この十四行の中に。
「ほら、昔言ったことあんじゃんさ」
「え」
必死で思い出す。御免、無理。私は君の名前だって曖昧だったんだぞ。正直笠原か高島かでかなり迷ってたんだから。
「覚えてないか?ほら、部活で」
部活?私は美術部だった。でもこの人いたっけ?いや、いたんだろう。ぼんやりといた気がしてきた。いやいたんだろう!きっと!
「・・・・御免、覚えてないや。なんだっけ」
「あー、まあ仕方ないか。俺画家になりたいってさ。言ったことあったじゃん。あったんだよ」
佐崎にしか言ってなかったんだけどなーあの頃、と高島はちょっと残念そう。
いや待て。それはどういう意味だ。君は何を匂わせようとしているのかね。私は知らんからな。
「へえ。それで?」
興味なさそうに返すと、高島は見るからにがっくりと肩を落として、
「俺高校卒業してから美大に行ってさ。それなりにうまくいって、運よくある画商に拾われてさ。路上で似顔絵描きで日銭稼いでた俺が、とうとう個展を開くまでに至った!」
だんだん勢いを取り戻して、ついには拳まで握った。私は少し身を引いた。
「へえ、凄いじゃん。いつやってんの」
実際は全然興味ありませんけどネ。形式的に聞いておこう。すると高島はかなり嬉しそうに、
「二、三回開いてもらえたんだけど、なかなか好評らしくってさ。あ、写真一枚持ってるわ。見る?」
別にいい、とも言えずに突き出されたスマートフォンの画面を見る。へえ・・・・結構、
「結構うまいじゃん」
「え、マジで?よっしゃ、佐崎に言われるとスゲー嬉しいなあ。俺高校んとき佐崎が目標でさあ」
はて。私は高校の頃大した賞を取った記憶など・・・・皆無、ではないのもなんだかな。でも一度きりだ。次賞だったし。
つまり、高島が何を見て、何を思って私なんぞを目標にしていたと言うのかさっぱりわからない。
あ、そうか。社交辞令ってやつか?私と同じく。
「へえ・・・・そりゃどうも」
実際、高島の示した絵は上手だった。多分、高校当時の私よりはうまい。
絵のことは卒業以来すっかり忘れていた私だったけど、今まで続けていたとしてもどうだろうな。続ける気もなかったし、今からまた筆を持とうという気もさっぱりわかないけど。
中学んときからずっと美術部だったのにね。大学ではロッククライミングに夢中になってた。
「何なら今度来る?あ、N大っていうと少し遠いかな」
「こっちには結構よく来るよ。いろいろとあってさ」
嘘じゃないよ。でも別にそこまで高島の絵を見たいってわけでもないよ。
念のため。
「じゃあさじゃあさ。来月のどっかでまた個展開いてもらえるんだ。それ見に来てくれないかな」
「個展ねえ・・・・参考までに、どのくらいあるの?枚数は」
んー、と高島はうなりながら指を折った。
「俺、自慢じゃないけど描くペースは結構速くてさ。前にやったのが二十何枚で、あ、でもその前は十何枚かな。次のはまた二十ちょい。場所は総合ビルの一フロアを貸し切りでさ」
へえ。そんだけ場所もらえるんなら結構凄いみたいだね。
「暇があれば覗かせてもらうよ」
「是非来てくれよ。あ、じゃあ正確な日取りが決まったら連絡するから、アドレス交換しようぜ」
正直まだそこまで行くつもりでもないんだけど、私は高島と連絡先を交換した。
「んじゃあ、決まったら連絡するよ」
スゲー嬉しそう。そんなに嬉しいのかな。
「あ、そうそう、佐崎、彼氏いるの?」
何を藪から棒に。
「いや、いないよ」
「ん。そっか」
それを聞いてどうする。高島は少し考えた様子で、それからやおら私をびしっと指さすと、高らかに宣言した。
「まだ一枚描くから、今度の絵画は佐崎のために描く!だからきっと見に来てくれ!そしてそのときに、佐崎に聞いてもらいたいことがある!」
「・・・・はあ。別にいいけど」
絶対に行くってわけじゃないけどね、とは言わない。私は少し肩を落とした。
「んじゃあ、待ってるぞ!」
本当に心底嬉しそうに高島は去って行った。何がそんなに嬉しいんだか。
まあいいか、と私は入ったばかりの高島のアドレスに目を落とした。