アクルカン
だがその前にどうしても1つだけ確認しておかなければならないことがある。
僕が元の世界に帰れるのかどうかだ。
「1つ…正直に答えて欲しい」
「なんだろうか?」
「僕は…元の世界に帰ることはできるのだろうか?」
この手の物語は大概帰還することができずにそのままその世界で一生を過ごすというものが多い。
もし、僕もそれに当てはまっているのなら…
「…申し訳ないが、私には君を元の世界に帰す術を持ち合わせてはいない。でも、落胆はまだしないでほしい。君の世界から君を呼び寄せることができたんだ。その逆の方法があったとしても…いや、あるはずだ。だから…」
やっぱり…か。
僅かな希望を抱いてはいたが、キッパリとそう断言されると少々心に来るものがある。
だが……こうなってしまった以上は仕方がない。
キルメスもこう言っているんだ。
あちらから来ることができたのだからこちらから行くことだってできるはずだ。
当面は……それの模索も平行して行うことになりそうだな。
☆★☆★☆
僕はキルメスにこの世界において大体の一般常識を教えてもらった。
纏めるとこんな感じか?
世界の名前は「アクルカン」
アクルカンは4つの大陸で構成されていて大きいものから順に、
「クリアフェレス」
「トリアロイド」
「パーヴァル」
「アクリア」
となっている。
僕達が居るのはパーヴァル大陸の「ログリモの村」という場所らしい。
次に…やっぱりあったな。
アクルカンには魔法の素となる「魔力素/マナ」と呼ばれるエネルギー。
この世界では電気の代わりに魔法が生活をサポートする存在となっているようだ。
種族によって「魔力素/マナ」の呼び方が違うのもあるみたいだ。
一応雷や静電気といった電気としての概念は存在するが、それを実用化するだけの技術はまだ確立されていないらしい。
魔法については詳しく聞かないとな。
僕だって男だ。
魔法にはロマンを感じている。
次はキルメスに次ぐ王の座に居る者のことだが…これも定番か。
勇者とその仲間が元魔王城にてアクルカンを取り仕切っているらしい。
今はまだ深いところまでは聞くまい。
キルメスにとっては自分を討ってその座を奪った者達だからな。
そして僕が食べたリモの実の話だが、これは基本的にアクルカンでは一般的に食されているので大体の者とは会話をすることが出来るみたいだ。でもアクリア大陸に至ってはあまりリモの実の存在が知られてないみたいなのでそこに住んでいる種族とは会話が難しいかもしれないのこと。
機会があればアクルカンの言語でも勉強してみよう。
どうせ文字は読めないのだし。
…まぁこんなものか。
☆★☆★☆
「大体はこの世界について分かったか?」
「そう…だな。また細かいことはそのうち聞くよ」
「それじゃ少し外に出てくれ。早いとこやっとかないといけない事がある」
「?」
☆★☆★☆
「アクルカンにおいて魔法は日常生活でも戦闘でも必要不可欠な力だ。魔法には属性があり、それぞれ「火」「水」「風」「土」の4属性で構成されている。ただこれは大きく分けたものであってこれが全てではないがな」
「へぇ…それでこれから何をするんだ?」
「魔法は基本的にどの種族も扱うことは出来る。しかし、得意不得意が分かれている。私なら「火」と「土」が得意で「水」と「風」が不得意だ。コレによって何が違ってくるのかはまた後だ。これから雫陰には自分の得意不得意の属性の魔法を見極めてもらう」
「分かった。どうすればいい?」
「これだ」
そう言ってキルメスはどこからともなくえらく暴れている大きな壺を出現させた。
これも魔法の一種なのだろうか?
キルメスが片手で上から押さえつけているのにも関わらず、壺は左右にグルングルンと円を描くように暴れている。
少し耳を澄ますとグォォ!と、咆哮のようなものも聞こえる。
いったいこれはなんなんだ?
「これはカルポスの壺と言って使用者の潜在能力を読み取って体を変化させる魔物が封印されている」
「使用者の潜在能力を読み取る?」
「そうだ。それでその体の変化についてだが「火」が得意ならば体が燃え、「水」なら液体に変化し、「風」なら不透明になり、「土」なら金属になる」
「キルメスみたいに2つの属性が得意ならどうなるんだ?」
「私のときは金属体となって燃えていたよ。それと不得意な属性は変化はしない。カルポスが変化しなかったものが雫陰の不得意な属性となる」
「なるほど」
「それと魔法の得意不得意についてだがそれについては説明の仕方が悪かった。訂正しよう」
「どういうことだ?」
「説明するのが難しいが…それぞれの属性を適性している者は「火」であれば炎を自在に操り、「水」であれば空気中の水分を圧縮して水を生み出すことができ、「風」であれば空を飛ぶ事もできるし、「土」であれば体の細胞そのものを変化させることができる」
「へぇ…それで?」
「逆に適性のない属性であれば「火」は指先に小さな炎を灯すことくらいしかできないし、「水」であれば蝋燭の炎を消すくらいの水しか創れない。「風」はそよ風程度しかないし、「土」は論外。子供の泥遊びくらいにしかならない」
「成る程。それを修行で補うことは?」
「出来ないこともないが、そんな事をするのなら自分の適性のある属性を進歩させた方が遥かに効率がいい」
ふむ。
ここら辺はそこらのRPGと違っているな。
どうせなら全ての属性を扱いたいところだが……
そう上手くはいかないのがセオリーだ。
「まぁ何にせよ適性を調べなければ話にならない。雫陰、その壺の蓋を開けてみろ。それでカルポスが出てくるから」
カルポスという名前の魔物が入ってるからカルポスの壺か。
災難だなこいつも。
「よいっ…しょ!重!」
僕はこの後、後悔することになる。
魔法にばかり気をとられてないでもっと壺について聞いておけば良かったと。