とある人物はラスボス級
「ん、ここ…は……?」
辺りを見回してみると、自分がベッドで寝ていたこと、窓も無く扉一枚しかない部屋に居ることが確認できる。
僕は何故こんな場所に……?
とりあえずさっきまでの状況を整理してみよう。
学校が終わったあと森の中で休んでて、茂みから狼が出てきて追いかけられて、咄嗟に隠れた場所に妙な石板があって、そこに刻まれていた文を読んでいたらその狼が群れをなして僕に襲いかかってきて……
あれ?
「僕…死ななかったっけ…」
あの土壇場で助かったのか?
いや、助かったからこそこうして生きている訳だし…
そもそもここはどこなんだ?
誰か居ないのかな…?
「すいませーん!誰か居ませんか?」
僕がそう呼びかけてから少ししたら、何やら扉の向こうでドタンバタンと騒がしい音が響いた。
そしてそ扉が開かれるとこの家の持ち主であろう人(?)が姿を現した。
ただ、その現れた人物を人と呼び習わすのが適切かどうかは不明だ。
何故なら
まず身長がとても高い。
目算ではあるが2mは軽く超えているのではないだろうか?
少なくとも僕の住んでいる街では見かけない身長だ。
次に耳が人間のそれに比べて尖っている。
例えるなら映画や漫画に出てくるエルフのようである。
勿論生まれつきこういう形状をしている、整形をした新手のファッションだと言われてしまえば何も言い返せないのだけど。
容姿からして男の人なのかな?
……まあ取りあえずそれは置いておこう。
そんなことよりももっと理解しがたいことがある。
この人のお尻から伸びている尻尾のようなものは一体何だ?
ひょこひょこと不規則に右へ左へと動いている。
尻尾のように作った精巧なマシンだろうか?
にしてはえらく自然だな……
これに関してもとりあえず置いておくことにしよう。
まずは僕自身の見に起きたことを把握する必要がある。
それにはこの人に色々尋ねなければならないのだが、
「√#@*פ€$℃!!!」
これが当然と言わんとばかりに何を言っているのかが分からない。
僕の頭にはある仮説が1つ浮かんでいた。
それはあまりにも現実離れしていて荒唐無稽な仮説。
しかしそれは考えれば考える程それが答えのように思えてくる。
僕はその現実を認めたくない。
だからその仮説を少しでも否定する為に、悪あがきをしてみることにする。
何を言っているのかが分からない?
そんなことはどうだって構わない。
僕を助けてくれた人がたまたま日本以外のどこか遠い国出身の人かもしれないじゃないか。
世界には国や言語なんて沢山存在する。
その中のうちの1人に助けられたと考えれば納得できる。
人種によって人間の容姿は全く違うのがほとんどなのだ。
とても背の低い人間がいるのだから、とても背の高い人がいてまなんら不自然じゃない。
だから僕がどのようにして助けられたのかは覚えていないけれど、こうやって無事でいる以上お礼は言っておかないといけない。
日本語が通じるかは分からないけど、僕が使える言語でお礼を言うのは最低限の礼儀だろう。
それが僕の仮説通りであったとしても、違ったとしても。
「あの…危ない所を助けてくださってありがとうございました」
「!!!!!!」
僕がお礼を言うと、僕の言葉が通じたのか、その人は入ってきた扉を急いで出ていった。
そして出ていったかと思うと、すぐにまた帰ってきてその手には淡い黄緑色をした果実のような物を持っていた。
イメージ的には梨に近い。
「あのこれは…?」
「@€¤*×#@€!」
ただしそれは僕のイメージであって、本当に果実かどうかは分からない。
少なくとも僕はこの果実のような物を初めてみる。
仮に果実だとしても、これは新種であると断言できる。
僕がこれまで読んできた図鑑の中にはこのような果実、そして野菜は存在しないのだから。
だから僕はこの果実のようなものに対して警戒をしていた。
僕がこうして生きているからといって、この人が僕のことを殺さないとは限らない。
もしかしたらこれに神経毒が入っているかもしれない。
現にこの人は僕に執拗なまでに果実のようなものを押し付けてくる。
言っていることは分からないが、これを食べろという意思表示としては十分過ぎた。
初めは抵抗したものの、中々この人も引き下がろうとしないので抵抗するのが面倒になり、終いには食べるはめになってしまった。
未知の場所で、未知の人に、未知の食べ物を食べさせられる。
正直何が起こるか分かったものじゃないが、何もしないでこのままここにいるよりはまだ安全を確保できる確率はある。
だから僕は勇気を出してそのか果実のようなものにおもいっきりかぶりつく。
以外にもかなり美味しい。
パイナップルに近い味だ。
「やあやあやあやあ!ようやく食べてくれたね!このまま食べて貰えなかったらどうしようかと思ったよ!」
……ん?
なんだ?
急に日本語で話し始めたぞ?
からかわれていた?
いや、違う……か?
信じられないけど、男が日本語を話し始めたのは僕がこの果物を食べてから。
この人が日本語を喋り始めたのではなく、僕がこの人の言語を理解できるようになった……?
いやでもそんなはずは……
「ふむ。どうやらこの果実についてはなんとなく理解。この果実は[リモの実]と言って、リモの実を食べた者同士であればお互いの言語で意志疎通を計れるというものだ」
心を読まれた!?
そんなにも僕は分かりやすかったのか!
でも、これは用は某有名猫型ロボットが出すコンニャクの果実版という解釈で問題ないのだろうか?
でもそんな便利な果実現実にあるわけがない。
こんな物が存在していたら世界共通語なんてあってないようなものだ。
「取りあえず君は自分の身に何が起こったか分からないだろうから私の方から1から説明させてもらう。質問は私の話が終わってからだ。いいね?」
なんとも強引な流れだけど今は何も言わないで大人しく話を聴いてみよう。
元々僕に選択肢なんてない。
徐々に僕の今の立場にも見当がついてきている。
「はい」
「まず今、私達が居る世界についてだが、ここは君が住んでいた世界とは全くの別物。君達で言う[異世界]だ。
そして私についてだが…」
やっぱり、か。
この時点で僕の仮説が正しかったことが証明されてしまった。
元の世界に帰れるか分からないという不安と恐怖があると同時に、僕は嬉しさも感じていた。
「私はかつてこの世界を支配していた
[元]魔王だ。再びこの世界を支配する為に私に力を貸して欲しい」
それはこの元魔王を名乗る人が僕に助けを求めてきたからだ。
もしも、この人のことが本当ならばそれは僕が子供の頃に思い描いた夢を実現できるかもしれないということだ。
勿論正直まだ全てを受け入れたわけではない。
まだまだ混乱している。
しかし、それでも少しずつ目の前に起こることを受け入れないことには何も始まらないと思う。
さぁ元魔王とやら。
僕に知りうる限りの知識を与えてくれ。