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ゼロから学ぶ魔王の世界征服論  作者: 國白龍智
第二章 無知=学習意欲
13/21

初めての依頼は暖かかった

~ログリモの村~


「さて…と。確かここら辺のはずなんだが…」


僕が依頼を受けた老人の家はアインハルトギルドから歩いて数分の場所。

一応地図は貰ったが何分この村へ来てから日が浅いのでどこへどう行けばいいのか分からない始末。

唯一分かっていることは、その老人の家がとても大きな豪邸だということ。

ただ…

現状それらしき豪邸は今のところ確認できていない。


「どうしたものやら……ん?」


あれ…かな?


雫陰が見た先には他の家とは少し違った雰囲気を出している館。

豪邸とまでは言わなくても十分に大きな家だと確認できた。


行くだけ行ってみよう。


☆★☆★☆


~館•玄関前~


依頼主の名前は…[コロウィリウス]

名前を呼べば出てくるのかな?


「すいませ~ん!コロウィリウスさんの依頼を受けた霧原雫陰と申しますけど~!ご在宅ですか~~!」


……………………


ふむ。

誰も出てこない。

これだけ大きな家なんだ。

一人くらい使用人が居ても可笑しくないと思うのに。

一応もう一度呼びかけてみるか。


「すいませ~……」


雫陰が呼びかけようとした矢先に、ふいに背後から話かけられた。


「そんなに大きな声を出さなくても聞こえてるよ。君が私の依頼を受けてくれた方だね?」


「は、はい!霧原雫陰と申します!」


「そうかい。元気な方が来てくれて嬉しいよ。私が依頼主のコロウィリウスだ。ここで立ち話もなんだ。部屋の中へ入ってくれ」


「はい!」


☆★☆★☆


~館内~


「悪いがこんなものしか出せない。勘弁してくれな」


そう言って僕の前に出されたのはとても美味しそうなお菓子に紅茶。

これまで僕が見たこともないような豪華なものだった。


「こんなものって…とても美味しそうですよ?」


「ありがとう。実はこれ、私の手作りなんだ。趣味の一貫でねぇ…さぁ。

召し上がってくれ」


「はい。頂きます。はむ……」


「!!!」


「ど、どうしたのかね?口に合わなかったか?」


違う。

全くの逆だ。

僕はこれまで食べてきたどの料理よりもこの一口のお菓子の方が美味しいと判断した。

それが故にその衝撃に驚いてしまったようだ。


「いえ…そんなことはないんですけど…ただ」


「ただ?」


「これまでに食べてきた料理の中でもこのお菓子がその料理をとても凌駕していてそれに驚いてしまったんです」


「そんなにも美味しかったのかね?」


「はい。コロウィリウスさんはお菓子作りの才能があるんですね。これならお店を構えても繁盛すると思いますよ」


「そうか…ありがとう。私の作ったお菓子をそこまで誉めてくれたのは君が初めてだよ」


「そんな大袈裟な…でもお菓子ばかり食べて時間を潰してはいけませんからね。速く仕事を済まさないと」


「あぁ…仕事の方は後でもいいよ。私としてはお菓子をじっくり味わって食べてもらえる方が嬉しい」


「そう…ですか。それではお言葉に甘えて味わって食べさせてもらいます」


☆★☆★☆


~数十分後~


「御馳走様でした。とても美味しかったです」


「ありがとうよ…それじゃ仕事の方の説明をしようかね」


「はい」


「まず、これから裏庭にある落ち葉をかき集めて、焼却炉に放り込んで燃やして欲しい。次に夜に備えて敷地内にある立灯に火を灯して欲しい。それが終わったら館内の火を灯すことのできる物全てに火を灯してくれ。最後に裏庭にある薪を割って風呂を沸かしてくれ」


内容は多いだけで全部簡単なものだ。

これならすぐに終わるだろう。


「少々多いが…やってくれるか?」


「はい!お任せください!」


「そう…か。それじゃ私は先程の部屋に居る。終わったら呼んでくれ」


「分かりました」


よ~し!

頑張って終わらすぞ!


☆★☆★☆


まずは落ち葉をかき集めて焼却炉の中で燃やす。

これは比較的早い時間で終わらす事が出来た。

燃やすのも焼却炉の中だから簡単に火がついた。

次は立灯に火を灯すこと。

立灯は敷地内に合計29個あったが数よりも困難だったのは魔法の大きさの調整だった。

さっきみたいに適当な大きさの火を出したのであれば立灯ごと燃やしてしまいそうだったからな。

この時だけは適性属性じゃない方が楽だと思った。

次の館内の火を灯すことのできる物全てに火を灯すと言うのも使い勝手が難しかった。

最後の風呂沸かしは…

日本古来より伝わる五右衛門風呂と仕組みは大差なかったので薪を割る作業以外は簡単に終わった。

ここまででようやくコロウィリウスさんに報告だ。


☆★☆★☆


~館内~


「コロウィリウスさん、全て終わりました」


「もう終わったのかね!?」


「はい。全て完璧にこなしたつもりです」


「そうか…それじゃもう君の仕事はないんだな?」


「……?はい」


「それじゃもう帰ってしまうのか…いや、なんでもない。ご苦労様だったな」


…………………


「あのぅ…1つ我が儘を言わせてもらって宜しいでしょうか?」


「なんだ?」


「僕、もう一度コロウィリウスさんのお菓子が食べたいんです。良ければまた作ってはもらえませんか?」


「いや、しかし、あれは材料等を準備するのに1日かかってだな」


「それなら僕、今日ここに泊まっては駄目でしょうか?」


「は…え?君は一体何を…」


「僕、どうしてもコロウィリウスさんのお菓子が食べたいんです。それに僕がここに泊まれば何か困った時に手伝えるかもしれませんし。あ、勿論これは依頼外なんで僕のボランティア。お金はとりませんよ?」


「どうして君はそこまでして…」


「だからさっきから言ってるじゃないですか。僕はコロウィリウスさんのお菓子がまた食べたいんです。それに…何か力になれることがあるなら手伝いたいですから」


「君は……いや、何も言うまい。今言ったこと、忘れるなよ?私は人使いが荒いぞ?」


「その覚悟の元、言いましたから」


「それじゃまずは……」


☆★☆★☆


僕はそれからコロウィリウスさんの申しつけを淡々とこなしていった。

庭の草むしりをしたり、部屋の中の片付けをしたり、館内全ての掃除をしたり、マッサージをしたり、とにかく思いつくままの指示を僕はこなしていた。

その時のコロウィリウスさんの顔は心なしか嬉しそうだった。

いや、きっと嬉しかったのだろう。

直感ではあるが僕はそう信じていた。


☆★☆★☆


「他には何かありませんか?」


「もう…本当にないよ。ありがとう。君のお陰で館が見違えるようになったよ」


「いえ、僕は言われたことをそのままこなしていっただけなので」


「そうか…私としてはこのまま労いとしてお菓子を振る舞ってやりたいんだが…」


「それは明日の楽しみにしておきます」


「すまないね。今日は君は本当によくやってくれた。もう夜も遅い。二階にある一番手前の部屋で休むといい。疲れただろう?あれだけの量の仕事を1人でやってくれたんだからな」


「そうですね…僕としても相当疲れましたけど…まだ元気はあります。そう、誰かの話を聞くくらいの元気は」


「ふふ、君は私のことをなんでも見透かしているような気がするよ」


「気のせいですよ?きっと」


「そうかね。それじゃ1つ老いぼれの話を聞いとくれ」


「是非」


☆★☆★☆


それから僕はコロウィリウスさんの身の上話を聞かせてもらった。

初めは貧乏で1日1日を生きるののも難しかったこと。

ありとあらゆる正攻法で現在のような金持ちになったこと。

それと同時に長年連れ添ってきた妻と両親を失ったこと。

自分に残ったのは使い道のない膨大なお金と必要のないほど広い館内。

コロウィリウスさんはいつもここで失ってしまった人達のことを想っていたと言う。

そしてこうも言ってくれた。


「私は生きることに苦痛を感じていた。幸せを分かち合う者も居ない。

ただただこの広い館の中で空虚な余生を送っていた。けれども君が来てくれてからの1日は素晴らしかった。私の言うことを何も嫌がらず、私のお菓子を誉めてくれた。本当の息子が居るようでとても嬉しかった」と。


コロウィリウスさんには子供が居なかったらしい。

だからもし息子か娘が居ればこんな感じだったのかもしれないとも言っていた。

そこで話は終わった。

流石にコロウィリウスさんも疲れたのであろう。

すやすやと寝息をたてながら座ったまま寝ていた。

僕はコロウィリウスさんを寝室へ運んだ後、用意された部屋で眠りについた。


明日の楽しみに胸を膨らましながら…ね?

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