生活の基礎知識? 前編
「お~い雫陰!そろそろ中に入ったらどうだ?」
「ん、あぁ」
…懐かしい思い出を振り返ってみると結構時間が経つのが早いんだな。
これからは気をつけよう。
あまりぼ~っともしていられないからな。
☆★☆★☆
「さて、雫陰よ。雫陰は昨日のマナの抽出が成功したことにより、魔法使いの基礎カリキュラムが終了したことになる。これで晴れて見習いではあるが魔法使いとして名乗ってもよいぞ」
「魔法使い…」
これもまたファンタジーの世界じゃ同じみの設定だな。
ただ…
いつの間にか魔法使いのカリキュラムを組まれてたんだな。
「…どうした?」
「いや、何でもない!」
「そうか。それで物は試しなんだが…1つ[ギルド]へ行って依頼を受けてみないか?」
……はい来ましたお決まりの組織。
あるかなとは思ってたけど。
やっぱりあったか。
「どんな依頼なんだ?」
「魔法を主に使う簡単な依頼だ。魔法の修練は実際に行う方が遥かに学習率がいいからな」
「なるほど。それじゃちょっと行ってみようかな」
「それじゃ私について来てくれ」
☆★☆★☆
~アインハルトギルド第三支部~
「ここがギルド…」
僕は室内に入ってみて驚いた。
外からは想像もつかないような広いロビー。
奥に進むとまるで西部劇にあるような造りのラウンジが広がっていた。
それに人もそれなり多い。
見た感じ悪魔族以外の者もいるみたいだ。
「ここがアインハルトギルド第三支部だ。本部はトリアロイドにある」
ふむ。
僕の想像が間違っていなければ他にもこんなギルドは沢山あるのだろう。
それでどこか1つの大きなギルドがアクルカンに広がるギルド全てを統治しているはず。
そこから各ギルドへ様々な依頼を発注していると考えられる。
「そうなのか」
「それじゃまずはこっちへ来てくれ。やらなければいけない事がある」
「?」
☆★☆★☆
~アクルカン住人登録受付窓口~
「…誰も居ない」
僕は今先程のラウンジから離れた場所の部屋にいるのだが…言葉通り誰も居ない。
窓口にすら係り員が居ないのだ。
「…キルメス?」
「全く…お~いエイン!仕事だ仕事!早く出てきてくれ!」
キルメスがそう言うが否や突然奥が騒がしくなったと思ったら、何やら可愛い女の子が出てきた。
「仕事が無くても受付にはいてくれよ?」
「はわわわ…ご、ごめんなさい…」
「ま、いいさ。それで今日登録してもらいたいのはこの雫陰…人間だ」
「その人は…?」
「あぁ紹介しよう。これから私の所で厄介になる霧原雫陰だ。良くしてやってくれ」
おいキルメス。
自己紹介くらい自分でさせてくれ。
「よろしくお願いします」
「は、はわ!よ、よろしくお願いします」
なんだか落ち着きがない娘だな。
でも可愛いから良しとしよう。
「それじゃ悪いが雫陰、ここからは雫陰1人でやってくれ。私は少し用事があるのでな」
「え?ちょ、最後までやってくれるんじゃ…」
「登録が終わったらラウンジに行って出来そうな依頼を受けてくれ。説明はちゃんとしてもらえるから。それじゃまた後で!」
「ま、待て…」
僕の呼びかけは虚しくキルメスはさっさと部屋の外へ出て行ってしまった。
どうすればいいんだよこれから…
「あ、あの…」
「ん?」
「キルメス様にはこれから何をすればいいのか事前に聞いておりますのでお困りでしたら此方の方で進行させてもらっても…?」
「それは願ってもないことです。是非お願いします」
「わ、分かりました。それではまず住人登録の事なのですが、これは身分証明と解釈して頂いて結構です」
「身分証明?」
「はい。これはアクルカンの住人のほぼ全てが所有している物で、自らの立場や記録を保存するものになります」
「これで何が出来るんです?」
「主に、他国への入国や通行許可証として使われます。その他としては所有者の能力値の確認とかが出来ます」
入国や通行許可は分かるけど…
能力値の確認?
「あの…能力値の確認ってなんの事なんでしょうか?」
「それは…説明するより見てもらった方が早いです。それではまず…氏名を」
「霧原雫陰です」
「それでは…この紙に血を一滴垂らしてください」
そう言ってエインと呼ばれていた娘は僕に一枚の紙と針を差し出してきた。
痛いのは嫌なんだけどなぁ…
そんなことを考えつつも雫陰は指先に針を刺して差し出された紙に血を垂らした。
「少々お待ちください」
そう言って部屋の奥に行ったかと思うとすぐに戻ってきた。
「それでは此方が霧原様の身分証明書となります。そして先程の能力値の解説ですが…」
見た感じさっきの紙と彩色ない。
文字も何も書かれてないし。
「身分証明書を起動してください」
「起動?」
「はい。開けと念じるだけでいいです」
それじゃ…
開け。
するとどうだろうか。
何も書かれていなかった紙に何やら文字がびっしり書き込まれていった。
これも魔法の一種なのだろうか?
「身分証明書の裏に書かれている数値が霧原様の能力値となります」
そう言われて身分証明書を受け取って裏面を見てみると…
「*℃←&##
€@→-↑↓
$¤×-+≦≦ーーーーーーー…」
読めない。
忘れていた。
僕はこの世界の文字を何一つとして理解していないんだった…
「あの…すいません。僕文字が読めないんですけど……」
「え…?で、でもアクルカンの生まれの方なんですよね?それなら基礎知識くらい…」
生憎だが僕はアクルカンの出身じゃないし殆どの基礎知識もない。
せいぜい言葉が分かるのと魔法に関する簡単な知識があるくらいだ。
「言いにくいんですけど…僕はアクルカンの出身じゃないんです。だから少しここの知識に疎くて…」
「あ、あの、そうだったんですか…失礼しました…」
そこまでしょんぼりとされるとなんか僕が責めてるみたいじゃないか。
「いえ、その…謝らないでください」
「すいません…あの、お詫びに文字の事も含めて私の方から教えさせては頂けないでしょうか…?」
こんな可愛い娘にそう言われて断る男は居ないと思う。
「是非お願いします」
「はい!」
その時の笑顔はこれまでに見てきたどんな笑顔よりも可愛いなって思ったのはここだけの話だ。