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圧縮悪役令嬢――婚約破棄から次の婚約まで三分でした

作者: 月白ふゆ
掲載日:2026/09/02

「ヴィオレーヌ・デュセル。君との婚約を、ここに破棄する!」


卒業夜会の大広間に、王太子エドガールの声が響いた。


その隣には男爵令嬢ミレイユ。


ヴィオレーヌは一度だけ瞬きをした。


「承知いたしました」

「……は?」

「婚約破棄を承知いたしました」

「いや、待て。理由を聞かないのか」

「ミレイユ様を虐げ、嫉妬し、陰湿な嫌がらせを繰り返したから――では?」

「そうだ!」

「証拠は?」

「……証拠?」


三十五秒。


エドガールがミレイユを見る。


「ミレイユ?」

「え、ええと……わたくし、冷たい目で見られましたわ!」

「それ以外は?」

「……」


五十秒。


ヴィオレーヌは父、デュセル公爵へ向き直った。


「お父様。殿下ご本人が公の場で婚約破棄を宣言されました。王家との婚約契約は終了したと考えてよろしいですね」

「ああ。陛下からも、本人が破棄を宣言した場合はその意思を尊重すると聞いている」

「では、わたくしの婚姻相手は自由に?」

「なる」


一分十秒。


ヴィオレーヌは壁際を見る。


そこにいたのは侯爵家嫡男、シリル・ラヴェル。


幼い頃からの友人。


そして、十年前からずっと好きだった男。


シリルも彼女を見ている。


ヴィオレーヌは迷わず歩み寄った。


「シリル様」

「なんだ」

「結婚してくださいます?」

「喜んで」

「待て!」


一分三十秒。


エドガールがようやく追いついた。


「なぜそうなる!」

「婚約がなくなりましたので」

「早すぎるだろう!」

「十年待ちました」

「十年!?」


シリルが肩をすくめる。


「殿下。私は十一歳の時に彼女へ求婚しております」

「聞いていないぞ!」

「断られましたから」

「王太子殿下との婚約がございましたので」

「では、ずっとこいつが好きだったのか?」

「はい」

「私と婚約していたのに?」

「殿下も今、別の女性をお選びになったところでは?」

「……」


二分。


そこで初めて、流れが止まった。


シリルが上着の内側へ手を入れる。


取り出したのは、小さな指輪だった。


ヴィオレーヌが目を見開く。


ほんの数秒。


それまで淀みなく進んでいた時間が、そこだけ妙に長く感じられた。


「……持っていらしたの?」

「十年前から」

「ずっと?」

「ああ」


ヴィオレーヌは指輪とシリルの顔を交互に見る。


「重いですわ」

「知っている」

「十年ですものね」

「だから捨てられなかった」


彼が差し出した手に、ヴィオレーヌは自分の左手を重ねた。


「ヴィオレーヌ」

「はい」

「十年待った。もういいだろう?」


彼女は笑った。


王太子の婚約者として過ごした十年間、一度も見せなかったほど自然な笑顔だった。


「ええ。お待たせしました」


二分三十五秒。


「ラヴェル侯爵」


デュセル公爵が壁際へ声をかける。


「息子殿と娘の婚約について、異存は?」

「あるものか。こちらは十年間待たされている」

「では成立ということで」

「ああ」


エドガールが口を開いた。


「いや、父親まで――」


二人の父親が同時に答えた。


「十年前から知っていたので」


二分五十五秒。


シリルが、十年間しまわれていた指輪をヴィオレーヌの指へ通す。


三分。


婚約破棄から、新たな婚約成立まで、きっかり三分だった。


結婚式は、その三か月後。


悪役令嬢の物語としては、たぶんかなり短い。


けれど彼女の恋だけは、十年前からずっと続いていた。

例のごとく、夜勤明けの夜に書いております。


明日は7:00から仕事なのですが、現在アヒージョをつまみにビールを飲んでおります。


三分で婚約破棄から結婚まで行くなら、書くほうも勢いで行こうということで。


お楽しみいただけましたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
ここまで空気扱いの男爵令嬢、見たことない! 王子、綿アメの空き袋が腕に引っかかってますぜ!(爆笑) パパたちが10年かけて「ウチの子たちの邪魔しやがって、わかってんだろな、あ"ぁ"ん?」と、王様を絞…
こまめに指輪のサイズを直しながら持ち歩いて時を待ってたのかと思うと微笑ましさすら感じるw
最近、QBBのプレミアムベビーチーズ(クリーミークリームとゴルゴンゾーラ入り)と安い生ハムで飲んでます。 早い安い(?)上手いお話し、ありがとうございます。
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