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いじめの本質

ある日―――

学校で事件が起こった。


ある生徒の教科書がビリビリに破られ、ゴミ箱に捨てられていたのだ



「あ~。こういうことするんだ」

とゼロの手は怒りで震えていた。

さっそくゼロはその教科書の持ち主を調べ、そのクラスメイトに聞き取り、

犯人の特定をした。


教科書の持ち主は、普段から目立たず、静かな女子生徒だった。何も言わずに涙をこぼしたあの横顔が、ずっと脳裏に焼きついている。


ただ犯人の断罪も、両親の呼び出しもしなかった。

証拠がなかったからだ。



教員たちに声をかけ、

『学校でとんでもない事件が起きた』

と生徒たちの親を体育館に集めさせた。



壇上から生徒たちの親を見るゼロ。


「この学校で器物破損の事件が起きました。どうぞ見てください」

と壇上から降り、ビリビリに破られた教科書を、生徒の親たちに見せた。


生徒の親たちは驚く。


「これはヒドイ」

「だれがこんな事を」

「うちの娘はだいじょうぶなのか」


そんな声が聞こえる。


「学校はなにをしてた」

と怒鳴り声が聞こえる。



「はぁ。バカかお前は、今俺がやってる事が見えねえのか」

とゼロは言い返した。


「これから皆さんに質問をします。

この体育館の半分を線として、右側をYes。左側をNoとします。

これから民主的に今後の方針を決めたいと思います」

とゼロは辺りを見渡しながら言った。


「もし。あなたの子供がいじめにあっている本人ならどう思いますか?

①許せますか?許せる人は右側でYes。許せない人は左側でNo。

に行ってください」

とゼロは言った。


親たちはぶつくさ言いながら、許せない左側に向かう。

誰一人許せるを選ぶものはいなかった。


「え~。許せる人はいないですか?本当に?」

とゼロは少し煽る


「許せるわけねぇだろ」

「そうだ。そうだ」

親たちの怒りの温度は上がっていく。


ゼロはニヤニヤしている。

こういう性格の悪さが、最近僕は少し好きになってきた。


「では……

この加害者、教科書をビリビリにやぶった者はどうします?

ボコボコにする?退学?それともなにか別の方法」


そういうと、親たちの様子が明らかに変わった。

自分が刑を与える事を意識したことがなかったからだ。


「ではボコボコにするのがいいと思う人は右側でYes。

それはと思う人は左側でNo。

どちらでもない人は強制的にYesとカウントします」


結果は半々だった。

やはり自らが刑を与える。

そしてそれが年端も行かない少年少女だと思うと躊躇があるのだろう。


ほんの1時間程前まで、傍観者だった大人たちは、

ゼロの思考に冷徹にしかも完全に抜け道を防がれた中で、追い詰められていく。



「では……。

退学にしたほうが良いと思う人は、右側でYes。

それはと思う人は左側でNo。

どちらでもない人は強制的にYesとカウントします」


とゼロは言った。


「あっ一応言っておくと、この最底辺校ですら、退学になったとしたら、

あとはロクな仕事ないからね~。そこも踏まえてね」


と笑顔で再びゼロは言った。

僕もさすがに性格が悪いと思ったけど、

ゼロの目は笑っていなかった。

静かに、孤独に泣いていた。


「もうやめてくれ」

一人の男が叫んだ。


「いったい、俺たちがなにをしたというんだ」

男はゼロに向かってそういった。


「なにもしてないよ。だって君たち無関心だもの」

そうゼロは言った。


「はい。みんな選んだ?」


親たちは、選択をしたが、その目は虚ろだった。

まるで魂を取られたように……



「では……

次その親はどう処分すべき?

ボコボコにしたほうが良いと思う人は、右側でYes。

それはと思う人は左側でNo。

どちらでもない人は強制的にYesとカウントします」


もう親たちは、選択をすることすらできなかった。

あまりにも重い十字架を突然背負わされ、身動きが取れなくなったのだ。


「え~。もうダウンですか?だらしがない」

とゼロ。


「そんなこと。こんな重いこと選べるかよ」

と声が上がる。


ドーン!!!


ゼロは壁を叩く。

ただでさえ、静寂に包まれた体育館の空気はさらに張り詰める。


「お前らが、重いという選択を、ここにいる教員、生徒たちは、ずっと黙って背負ってるんだ」


そうゼロは言った。


教員たちは、静かに泣いていた。


そうこれが教育現場の罪の重みだったのだ。


ゼロは教員たちが無言で引き受ける苦しみを少し解放させた。


「いじめはねぇ。なんで起こるかわかりますか?」

とゼロは再び問いだした。


「ねぇわかります?」

そう親たち目をあわせ問う。


なんどもなんども繰り返した。

みんな首をふる。


「いじめはねぇ。親のしつけが過剰だと起きやすいんですよ。

たとえば、親に殴られた。叩かれた。怒鳴られた。

そういうことで溜まった心のモヤモヤを、

表に出す行為の一環として、いじめることが多いのですよ」


とゼロは親たちの顔を覗きながら言った。


悲しそうに、でもニヤニヤしながら。

こいつ。ニヤニヤしながら、泣いてる。

僕は、辛くて逃げだしたくなった。

ゼロ、君はどこまで闇を見たんだ。

なんでそこまで優しくなれるんだ。

僕はゼロという存在が恐ろしくなり、

そしてこの存在を残さないといけない。

そう思った。

不思議な安ど感だった。


「でもねぇ。その過剰になったしつけが……

なぜ起こったか、わかりますか?

その親も親で、社会に不適合。

社会にスーッと入れない苦しさ、辛さを持って、

そうなっているわけです」


ゼロはそういい、壇上に再び上がった。


「だからね。もう少し優しい世界にしませんか?我々の手で」

ゼロはそういい、この集会は終わった。


何も決定していない。

モヤモヤとした感じが全体を支配する中。

親たちの目は虚ろだった。

無理もない。

もしかして加害者かもしれないという、

重い荷物を背負ってしまったのだから



◆ ◆ ◆


後日、別の生徒の証言で、犯人が特定された。


ゼロはその生徒の親に会いに行く。


「そんなこと。こんな重いこと選べるかよ」

そういった男の家だった。


「いじめたのは、あんたの子だ。

でも、いじめる子になったのは――

家庭と、学校と、社会の“つなぎ目”が壊れてたからだ。

……あんた一人の責任じゃない。だが、誰の責任でもないとは言わせねぇ」



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