転生
「おい、聞こえるか。おい、君。おい、聞こえるか。おい」
「……うん。ここは… あなたは……」
そこにはただ暗闇の中に光の粒子があった。まばゆく、そしてどこか懐かしい。
「私かい? 私は神様だよ。これまた…ずいぶん不本意な最後だったようだね」
辺りを見渡しても一面の闇。静寂の中にただ光の粒子と、神様の声が響く。
あーそうか。僕は溺れて亡くなったのか…
「あの子猫は?」
そう聞くと
「あの子猫ちゃんね。あのあと、木の枝につかまって、だいじょうぶだったよ」
と神様は言った。
「それはよかった。あれ?僕が助けようとした意味なかったのでは?」
「いや……
厳密には間違っては、いないよ。
ただ助けるのが子猫じゃないだけだよ。
まぁじゃあ、そのノリでまた頑張ってよ」
と神様。
「でも……
もう僕」
「うーんとね君は……
転生するんだよ。
これから乱暴者の教師としてね」
「転生?乱暴者の教師?」
「あっ。そうだ。
君の身体の持ち主、
性格がキツメだから……
まっ、がんばって。
言っとくけど設定変更とかできないからな……
じゃ」
とそれだけ言って光は消えた。
◆ ◆ ◆
気が付くと、僕は知らないベッドに横たわっていた。
雰囲気からして、中世ヨーロッパっぽい。どうやら転生は本当にしたらしい。
ズキン……
頭が痛い。記憶が、流れ込んでくる。
これは依り代だったゼロという人物の記憶だ。
胃の底が捻じ切れるような吐き気。自分の中で、誰かの「怒り」や「悲しみ」や「絶望」が脈打っている。
あれ、頭に言葉が流れ込んでくる。
「お前が俺の身体を使う奴か?」
「あっ、そうみたいです。
なんかすみません」
「いや、謝る必要はない。
そういう運命だからな。
でも頼みがあるんだ」
「何ですか?」
「子供達を導いてくれ。
本当は俺がやりたいが、こうなってしまっては仕方がない」
「いや……
でも私は気が弱くって、
存在感が薄い先生って言われているのです」
「あ?それは笑えない冗談だな。
気合いでなんとかしろ」
「いやゼロさんのように、
強気な性格なら良いのですが、こればっかりはどうしようもなくって」
「じゃあ、俺の性格とかを一部引き継ぐか?」
「そんなことできるのですか?」
「俺が聞いたところによると、
基本的に引き継ぐのは身体や知識、立場や金。
性格は身体や体力や経験、知識と立場によって変わってくるから、
お前が俺の性格を受け入れさえすれば、多分引き継げるぞ」
「なるほど、私でもたしかにゼロさんのような体力とか経験があれば、自信満々で立ちふるまえるかもしれないね」
「そうだな」
「特に殴り合いの喧嘩をした経験は強いぞ」
「ちょっと怖いですね……」
「まぁな、でも慣れだぞ。
殴ったって、あんまり人生変わらないから」
「いや私の国では殴ったら傷害罪とかになりますから、人生変わりますって」
「でも今は俺の世界に来たわけだから、心配いらねぇだろ」
「たしかにそうですね」
「あと…お前の中に俺の知識は入ったよな」
「入りました」
「国の状況はわかるか」
「はい。貧しい国のようですね」
「そうだ。俺はこの国をどうにかしたい」
「僕のような教師にどうしろというのですか?」
「教育で国を変えてくれ」
「教育で……
いや無理でしょ」
「無理じゃないはずだ」
「なぜそう言い切れるのですか?」
「俺が教育で変わったからだ」
「ゼロさんも……」
「お前もか……」
「僕はホームレスのおじさんに勉強方法を教わって……
ずっと落ちこぼれだったのですが、それで学校でも上のほうに
行けて」
「俺も似たようなものだよ。
昔スラムに王宮から追放された男がやってきたんだ。
そいつは貴族育ちでスラムでの生き方を知らないから、
俺が教えた。
その代わりに勉強を教わった」
「お互いに似た境遇なのですね」
「そうだな」
「わかりました。
やるだけはやってみます。
でも策はあるのですか」
「ねぇよ。
俺もずっと考えている」
「じゃあ、ちょっとずつ考えていきましょう」
「あぁ頼むぜ!相棒」
「はい」