国家の地図と羅針盤~教育は国をどこに導くのか?
僕達はふたたび王都に呼ばれた。
成果が認められ、改革委員会のメンバーに選ばれたからだ。
委員会に集められたメンバーはおよそ50人。
前回の10分の1だ。
成果の上昇幅や規律など、いろいろな項目で選ばれたようだ。
会場には、あのクロガーネもいた。
ゼロとケンカにならないとよいのだけど……
少し心配だ。
隣の席の会話が聞こえる。
「戦争が起こりそうって噂は本当か?」
「あぁ国境地帯が緊張化しているらしい」
「それが原因で予算を減らされるのか?」
「そうみたいだな」
「どこの学校の予算が減らされる。
ここのメンバーはだいじょうぶだろう。
その他はヤバイかもな」
「本気か。影響力は大きいぞ」
「どうなるかは、
この会議しだいかもしれないな」
ゼロは
「きな臭いな」
と一言いって黙り込んだ。
◆ ◆ ◆
中央の扉が開かれ、見るからに、上層部らしき人物が入ってきた。
「一同静粛に」
その一言にみな振り返り、
膝をついた。
中央の男が、手で合図をした。
「みな。席につけ」
その場にいる全員が着席する。
じゃあゼロ、任せたよ。と僕はいった。
OK相棒。ゼロはそう答えた。
「おい。あの真ん中の偉そうな兄ちゃんは何者なんだ」
と俺は隣の男に聞いた
「しっ声が大きいぞ。国王陛下だ。無礼だぞ」
と隣の男は答えた。
なるほど。そりゃ態度もでかいわけだ。
「諸君らも知っての通り、国境近くで軽い衝突があった。
これでだな。
困ったことが起きたのだよ」
そう国王は言った。
ざわつく会場
「しずかに」
国王の従者は言った。
「軍部から予算の増加を要請されてね。
困っているんだ。
なにせ削るところがない。
そこで……
教育予算を減らせないかと、陳情が来ておる。
前も言ったように、教育で国を良くしたいと、
私は考えている」
と国王は言った。
「つまり……
軍部を納得させるような、
教育の必要性をこの場で示せと、
王は仰せなのですか?」
とゼロは言った。
「貴様無礼だぞ」
と従者は言った。
「やめろ。委縮するではないか。それでは自由な意見が言えん。
そうだ。たしか君は……」
従者が耳打ちをする。
「あぁゼロ君だったね。クロガーネ君とやりやった」
と国王は言った。
俺もクロガーネもうなづいた。
「そうだ。ゼロ君の言う通り、教育の必要性を知りたいんだ」
と国王は言った。
「王よ。
では、ここで議論をはじめるのも、
皆緊張してなかなかスムーズに行かないと思われますので、
各自一度少し考える時間を与え、
その間に教育の必要性を箇条書きにし、提出する。
そして王が興味をお持ちの意見に対して、説明を求める。
必要があれば議論するというのではいかがでしょうか」
とクロガーネが言った。
さすが合理主義者だけあって、考えがスマートだ。
国王は従者に耳打ちをする。
「わかった。じゃあ1時間後」
と言って、国王は立ち去った。
会場にいた50名に紙とペンが配られた。
◆ ◆ ◆
僕とゼロは話し合った。
「しかし、教育の必要性ってなんだ」
「なかなかの難問ですよね」
「雨水よぉ。あの必要性って言うのは、誰に対しての説得なんだ」
「だれなんでしょうね。軍部かな」
「とりあえず聞いてくるわ」
とゼロは聞きに行った。
3分後
「あれ軍部だって」
と言った。
「では軍部が絶対に否定できない教育の必要性だったら、いいのではないですか」
「だよな。何がある?」
「僕は軍隊経験がないので、推測ですが。
・計算ができないと兵糧などの必要数が把握できない。
・行軍距離などが計算できない。
・弓矢などの数が計算できない。
・外国語がわからないと交渉事に不利。
・外国語がわからないと諜報活動が不可能。
・国語力がないと、上官の命令を正確に理解できない。
・国語力がないと、現場の報告を正確にできない。
・歴史の知識がないと、なぜ戦争が起きているかが理解できない。
ざっと上げてこれくらいはあるかと思います」
「これ致命的だな」
「そうですね。僕も驚きました」
「ではこれをまとめることにしよう」
そう言って、僕たちは軍隊における教育の必要性というタイトルでレポートをまとめた。
◆ ◆ ◆
1時間後、国王が部屋に戻ってきた。
レポートは集められ、国王と従者一同が確認していく。
「おい。ちょっとこっちに来てくれ。これどう思う」
と国王は言った。
「これは確かに」
「これはいけるかもしれない」
「これならだいじょうぶそうだ」
という従者たち。
「あぁゼロ君。
このレポートはなぜ作った」
と国王が問いかける。
「えっ。なぜって王に言われたから……
じゃなくって、
説得する相手が、
軍部の方だと聞いたので、
国の未来がとか、
計算できないと買い物できないとか、
そういう説得よりも、
国語力がないと、上官の命令を正確に理解できない。
とかのほうが、ビビるかなと思ったのです」
とゼロは言った。
「おい。お前。国王に対して言葉を崩しすぎだぞ」
と従者は怒った。
「いや~。すみません。なにぶん身分が卑しいもので、
丁寧な言葉を使うと、正確には伝えられないのですよ」
とゼロは言った。
「ハハハハハ。いいよゼロ君。君はそのままでいい。
今日は解散で良い。
ありがとうゼロ君。
君はこの国の教育界の救世主かもしれないよ」
と国王は言い、去っていった。
会場はシーンとした。
「おい雨水。なんか痛くないか?」
「そうですね。なんか視線を感じますね」
「逃げよっか」
「そうですね」
そうして俺たちは一目散にその会場を後にした。