00-卒業の風
———日葵さん、卒業おめでとうございます。
ありがとうございます。
いつもの通学路とも、教室とも今日でサヨナラです。
———卒業式、どうでしたか?
うーん。
公立高校の卒業式なんて別に面白味のカケラもないですよ。
体育館に椅子が敷き詰められて、順に名前を呼ばれて、証書を受け取る。
それだけなんですよね。
式は静かに進んで、眠そうな声の校長挨拶と、形式ばった答辞だけなのに。
それなのに、意外と涙ぐんでいる子がいたりして、私もなんだか、ちょっとだけ胸が詰まりました。
———3年間を共に過ごした仲ですしね。
そりゃ、高校を卒業するから悲しいな、ってのもあるんですけど。
なんだろうな。
それだけじゃなくって…
———と言うと?
卒業式、空席のパイプ椅子があったと思います。
あれは予備椅子なんかではなくって、あの席にいるはずだった子がいるんですよ。
———ほう?
そこに制服姿で座っているはずの子がいたんです。
「また会おう」とそう言い残して去っていった。
高校3年目の夏の終わりに姿を消したんです。
あなたもご存知だと思います。
朝倉湊です。
———何も言わずに姿を消したんですか?
いいえ。
ちゃんと言ったんです。
でも、言葉の意味までは、伝えてくれなかった。
———なんと言ったのですか?
「未来でまた会おう」って。
笑って、そう言って、いなくなってしまいました。
———そうでしたか…
その言葉の続きを、私たちは誰も、知らないままです。