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冒険者酒場

作者: お茶飲み人

 今日も町の冒険者ギルドは賑わっていた。


 それもその筈、時間は夕方頃なので依頼を達成した冒険者たちでごった返している。


 「おーい、依頼を達成したぞー。」


 「すいません、パーティー登録を解消したいんですが。」


 「毒消し草の採取終わったぞ。」


 「受付さんよ、モンスター図鑑を貸してくれ、急ぎでな。」


 ギルドの受付嬢は大忙しだ、あっちこっちに移動していた。


 「ひ~~、忙しい忙しい。」


 「こら新人、受付の手が止まってるわよ。」


 「す、すみませーん。」


 新人受付嬢は先月入ったばかりだった、まだ仕事を覚える段階なのだが………。


 そんな姿を、のほほんと見つめている冒険者が一人。


 冒険者歴10年選手のベテラン冒険者だ。


 彼はギルドに併設された酒場のカウンターでも、テーブル席でもなく、ギルド隅の壁に寄りかかっている。


 手にはジョッキが握られ、中にはエールが入っている。


 ベテランはジョッキを煽り、ゴクリと飲み込む。


 「う~ん、美味い。」


 酒を飲み、今日の依頼達成で得た金を数えて、気分良く酔っ払う。


 「フフ、まさかあのお嬢ちゃんがなぁ。」


 先月入ったばかりの新人ギルド職員を眺め、ベテランは物思いにふける。


 あれは確か、村に魔物のゴブリンが襲って来たとかで、討伐依頼を受けた時だったな。


 そんな事を思い出しながら、ベテランは酒を楽しむ。


 村娘が襲われていたあの日、ベテランは一撃の下にゴブリンを切り捨てた。


 それを見ていた村娘は冒険者に感銘を受け、職員試験をパスし、見事ギルド職員になった。


 「どうすれば冒険者になれますか?」


 最初はこんな感じで話しかけられた、ベテランは困り、こう返事を返したのだ。


 「お嬢ちゃんじゃ無理だ、冒険者は危険な仕事だからな。」


 「じゃあ、どうしたら冒険者さんの為になりますか?」


 中々引き下がらない子だな、そうベテランは思いギルド職員を薦めた。


 思い出すのは、あの眼差し。


 目に力が宿り、揺ぎ無い決意を秘めていた目を、ベテランは忘れなかった。


 「ギルド職員の試験だって、楽な道じゃなかっただろうに。」


 それを見事に合格し、あの村娘は冒険者ギルドの職員になった。


 今ではすっかり一人前の受付嬢として、男臭い冒険者ギルドに花を添えている。


 また、気立ても良く、人気がある娘だった。


 若手の冒険者がこぞって夕食を一緒にしようと、誘い合っている始末だ。


 ベテランはそんな受付嬢を見やり、まるで父親の様な感覚を覚えていた。


 「ふっ、この俺が娘を持つ親の気持ちを感じるとはな。」


 不意に、笑が込み上げてくる。


 冒険者たちがはけたのか、受付嬢がこちらを見て笑顔を見せる。


 ベテランはジョッキを軽く掲げ、それを返事とする。


 ベテランと新人受付嬢の間には、目には見えない確かな絆が結ばれていた。


 それを見ていた若手たちは、ベテラン冒険者を睨みつける。


 まるで、「独り占めするな!」と言わんばかりに。


 ベテランは肩をすくめ、ジョッキのエールを飲み干してテーブルに置く。


 そのまま出入口に向かい、一言も喋らずギルドを出ていく。


 「めんどくさいのは御免だ。」


 そう呟き、ベテランは宿へ向かう。


 ところが、その後ろをタッタッタッと走って来る足音がする。


 「ちょっと待って、一緒にお酒を飲むって言ったじゃない。」


 「誰がそんな事言った。」


 振り返ると、そこには新人受付嬢の姿。


 仕事が終わり、これからアパートまで帰るところのようだが。


 「さっきジョッキを掲げてたじゃない。」


 「あれはただの挨拶だよ、お嬢ちゃんと酒を飲むつもりで返事をした訳じゃない。」


 あーだこーだと、お互いに言い合いながらも、その歩みは弾んでいた。


 どちらともなく、軽口が言い合える仲になった事は、ベテランにとっても新鮮だった。


 「いいのか? 若いモンをほっといて。」


 「いいのいいの、あんな軽薄そうな輩に興味は無いわ。」


 やれやれ、こんなおっさんのどこが良いのか。


 ベテランはエールの酔いが残った状態で、更にもう一軒、ハシゴをする覚悟だった。


 若い娘には敵わない、そうベテラン冒険者は結論付けたのだった。



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