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アリシアの幸せ

作者: 黒羽曜

 スペンサー侯爵家令嬢のアリシアは、5歳の時に家族と出かけた先で誘拐されそうになった。

 すぐに助けられたものの、アリシアを守ろうとした護衛が目の前で斬られ、顔に血飛沫がかかり意識を失った。



 次に目が覚めた時は激しく泣き叫び手がつけられなかった。

 1週間ほどするとそれがピタリと止んだと同時に、声を一切出さなくなってしまった。

 事件の後遺症かもしれないと医者に言われた。



 家族は幼い子供の心を深く傷つけたのだろうと考えた。



 しばらくの間様子をみたが、アリシアは微笑みはするものの感情はそこにはないようだった。



 家族は心配し、療養として領地にある比較的過ごしやすい森や湖など自然の多い地にある別荘へと移った。



 だが、父は王宮勤めで忙しく、母は妊娠中で長距離の移動は出来ない為、1人での療養となってしまった。

 2歳上の兄は申し訳なさそうな顔をしていたような気がする。



 時折、心配した父方の祖父母が別荘を訪れてはいたが、病気になり次第に足は遠のいてしまった。







 あれから5年の月日が流れ、母からの手紙も弟が生まれてからは来なくなっていた。

 弟が生まれ忙しいのだろうか。

 もう家族はわたしのことを忘てしまったのだろうか。

 生活は出来ているから、家令は覚えているのだろう。



 別荘ではとても静かに時が過ぎた。

 別荘へ移った時一緒だった侍女は弟が生まれた時に呼び戻された。

 代わりに、侍女になって2年目のリンシーが来てからは賑やかになった。



「お嬢様!おはようございます!良いお天気ですよ!」


「お嬢様!一緒にお散歩しましょう!

新芽が出て気持ちの良い季節ですよ!

少しは歩いた方がお身体のためです!」



 リンシーはとても元気だ。でも・・・



「お嬢様はもっと怒っても泣いてもいいんです!!

こんな所で何年もお1人で過ごすなんて・・・」



 怒りながらわたしの顔を見て今度は泣いている。



 わたしは、どんな顔をしているのだろう。

 ・・・よく、わからないのだ。

 お父様も、お母様も、お兄様も、まだ会ったことのない弟の事も・・・





 森が紅葉し始めた頃、母方の祖父母という人達が会いに来た。



『アリシア!!!』



 祖父母は涙を流しながら、わたしを抱きしめている。



 しばらく抱きしめた後、ゆっくりと向き合い



「今まで会いに来れなくてごめんなさい。まさかこんな事になっているなんて」



「長い間1人にしてすまなかった。これからは1人じゃないぞ。私達と一緒に隣国へ行こう」



 とても優しい笑みでわたしを見てくれていた。




 わたしはどうしていいのかわからずリンシーを見る。



「お嬢様。大丈夫ですよ。私もご一緒します。

言葉が出ずともお嬢様の代わりに私がお伝えします。

今まで通りゆっくりお過ごしになればいいんです」



 リンシーも祖父母もとても優しい目をしていた。




「アリシア」

「お嬢様」



 わたしは泣いていた。



「お嬢様。嬉しくて泣いてらっしゃるのですね?」



 コクンと頷く



「アリシア、ありがとう」



 再び抱きしめられた腕の中はとても温かった。








 隣国の祖父母はわたくしを伯父の養子として迎えてくれた。

 家族がどうしているのかは知らないし興味もない。

 わたくしの家族は祖父母と伯父家族、そしてリンシーだから。



「アリシア様、そろそろお茶にしましょう。

今日はアリシア様のお好きなチョコレートもありますよ」



「ふふ。では、リンシーの好きなクッキーも出してちょうだい。一緒に食べましょう」



「ありがとうございます!」




 お茶の準備をするリンシーの後ろ姿を見ながら思う。



 こちらこそ、ありがとう。

 わたくしは今、とても幸せよ。

家族側のお話をいつか書いてみたいかも?

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