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初めてのキツネリス

 言葉が形をなさない。この熱風を受けて、たちまちのうちに溶けていった。外へ出る気には到底ならない。そんな暑さの中で、おれは籠城し、釘付けにされていた。外はどこまでも放射状に続き、そいつはまさに途方もないといった感じで、おれはある一点、極小の点に留まり、ただただ過ぎ去ってゆくのを見るでもなしに見ている。

 書かなければ。毛羽立った精神がおれに命じてくるが、おれはこう思う。書いてどうする。そう思うと、いくらか心が安らぐ。おれは書かない。だが、実際にこうして書いている。留まり、滞り、籠り、そうやって無為の時間が過ぎてゆくのを感じるでもなく感じている。

 例えば何かを起こそうとしたとする。街へと出掛けたり、まあ、そういうのだ。例えば適当なバーやレストランに入ったとしたって、そこの店主と何気なくも意味深な会話が始まるわけではない。暑いですね。そうですね。これくらいが関の山だ。関の山。しこ名みたいだ。東、関の山。埼玉県ソドム市出身、ゴモラ部屋。埼玉県ソドム市ゴモラ区が何気に気に入っているおれなのだった。おれのタイトルセンスはやっぱり抜群に良いということが証明された格好だ。こんな風にだらだら書くより短いセンテンスでズバッとやる方がおれには合っているのかもしれない。コピーライター的な? いや、まあ、ラファティの短編、テキサス州ソドムとゴモラのパクリなのだが。なのだが、パクリであろうとなんだろうと気に入ってはいけないという法はない。あったとしても、そんな法は無視するに限る。自分には何が合っているとかを考えるのも意味がない。やりたいことをやりたいように。もう、勝手に生きて勝手に死ね。そんな気分がずっと続いていた。


 つまりは、サンプリングってやつだ。パクリの話だ。おれの書くものには、他人の書いていたものが文脈無視でぶっこんであったりするのだが、それはパクリというよりもサンプリングなんだっていうのがおれの姿勢だ。もちろん、このパクリ野郎、そう罵られたって一向に構わない。

 おれは何をどんなふうに罵られたって一向に構わないけれども、おまえ、覚悟はあるんだろうな? 確認だけはしておきたい。おまえだよ。おまえに問うている。ちゃんと覚悟を決めた上での言動なんだろうな? あ?

 しっかりとプレッシャーをかけ続ける。暴力の匂いを醸し出す。声色、表情、挙動、あらゆる手を使って呑み込んでゆく。馬鹿げたテクニックだ。支配されるべきではない。確信があるのなら貫き通せばいいだけだ。声が震えようとも、涙が滲もうとも。その手に何も持っていなくたって、意地を張ることなら誰だってできる。意地を張ったって何も良いことはない。確かに、確かに。だが、支配されることを認めてしまうのは、何も良いことはないどころの話ではなく、最悪の劣等感をおまえに焼き付けるだけだった。かわいそうに。自業自得とは言え、あまりにもかわいそうな話だ。痛々しくも膨れ上がった劣等感に悩まされ、思考を奪われ、結果、おまえはおまえより弱いやつを求めるようになった。でも、クソ雑魚のおまえより弱いやつなど中々いないのだ。それでもおまえは見下せる対象を必要としていた。渇望していた。暇があれば、YouTubeを開いて、小さな画面を食い入るように覗き込んでいた。瞬きも忘れ、現実を忘れ、しょぼついた目で捉える歪んだ真実。おあつらえ向きだ。おまえのようなやつにはな。

 おれは吐き気がする。おまえのようなやつにはな。扇動をするやつよりも、嬉々として扇動に乗っかるやつの方が圧倒的に気味が悪い。そして、爆発的に増殖してゆく。不気味なバクテリア。

 弱さは罪だ。それも最悪の部類の。弱いまま、そのままのおまえで最高に気持ちが良くなれるなんて、そんなウマい話が転がっているわけがないだろう。少し考えればわかる。だが、ほんの少しも考えやしないから、おまえはいつまで経っても弱く臆病で情けないままなのだ。弱さは罪だ。弱ければ弱いほど、強くあらねばならないのだ。本来は。


 なぜだ。そんなにしてまで生きたいか。自分を下げてまでイキたいのか。さっぱりわからぬ。どうしておれたちはまだ生きなければならないのか。呂律がまわらぬ。脳が悪さをしている。潮時を逃したおれは、海の底までおれを攫ってくれるはずだった波の跡を、恨めしげに見ていた。なぜだ。なぜ生きてしまうのか。何週間も何か月も同じ問いをし続ける。自分たちに、人々に、問いかけるのだが、なんといってもおれ自身に問う。自分では決してこの問いに答えることはできなくとも、どんなに時間をかけたって絶対に無理、一生問い続けても無理だとしても。そもそも、どのような問いにだってまともに答えることなどはできないのだ。それでも、確認だけはしておきたい。覚悟はあるのだろうな? ん?

 結局のところ、こうあるべき自分などというものは存在しなかった。自分の存在すら怪しいものだ。それでも今日だって商売上がったりのこの暑さの中で、チャリンチャリンチャリーン、小銭を稼ごうとする。なんとしても生きるために。イラッシャイマセ。アリガトウゴザイマシタ。マタドウゾオコシクダサイマセ。そんな意味をなさない鳴き声が喉をくすぐっていた。太陽は狂ったように、空は干上がったように、時間は止まったかのように、七月の光がすべてを不様に照らす長い午後だった。

 定期的に包丁を研いでいるやつなんて、ここいらではおれくらいのものだった。だから偉いってわけではない。単純に好みの問題だ。おれは実は職人気質の持ち主なのかもしれない。自分の納得できる仕事しかしたくないって感じがある。感じだけだけどね。実際はなんでもしまっせ。おれの納得などを待っていたら飢え死にしてしまう。サステナビリティがないわけよ。ほら、納得がいかーん! なんつって、いちいち捨てたり割ったりしていたら勿体ないでしょう。売り上げにならないでしょう。利益出ないでしょう。捨てる神あれば拾う神あり、なんて言うけどさ、おれ神じゃないし、企業が出すゴミって基本拾えないようにしているじゃないですか。意地が悪いよね。まだ食えるけどタダではあげたくない。むしろ金を出してでも生ゴミとして処理しようとする。月並みなこと言いますけど、飢えている人がたくさんいるわけじゃん? 世界中にさ。その一方でさ、大量に仕入れて大量に廃棄している連中がいるわけじゃん。利益出すにはそれが一番効率いいって理由でさ。そういう連中は叩き潰しちまえ、ってなるじゃん。ごく普通の良心と倫理観の持ち主であるならば。でも、そんなことを言い出すやつはキチガイだって風潮あるじゃないですか。ああだこうだ的外れな理屈をこねて、貶めるわけじゃん。脳内お花畑とか言ってさ。じゃあ、おまえの脳内はなんなんだ? 痰壺か? って話じゃん。なんかわけわからないよね。現実を直視しようとしているのは、いったいどっちなんですかっつーことをおれは言いたい。狂ってますよ。何もかもが。


 わけがわからなさすぎて、ついついこれが小説だということを忘れてしまっていた。まあ、今さら小説もクソもないね。底意地の悪いインケツ野郎どもが世の中を席巻しようとしている。たとえ、なんちゃら党の勢いが一過性のものに過ぎないとしたって、連中に餌をたらふく与えたイカれたやつらがそこら中で蠢いているという事実は何ら変わりやしない。で、そういうやつらは旗色が悪くなると途端に知らんぷりするんだからな。勝ち馬に乗っていないと安心できない臆病な雑魚ども。自分を直視できない愚かなクズども。外国人よりも何よりも、真っ先におまえらが消え失せるべきだ。なぜなら、あなたたちはきっと人間ですらないから。誰にも言わないから、ぼくにだけはそっと教えてほしいな。あなたたちは、人間の皮を被ったウンコなんだろう? なあ、そうなんだろう? 安心して。ぼくはあなたたちの味方だよ。怖くないよ。ほら、怖くない怖くない……。脅えていただけなんだよね。ウンコのくせにいっちょまえにね。

 ところで、大量のウンコに脅かされる恐怖を考えたことがおありかな? 大量のウンコに存在そのものを否定される理不尽については? あるいは、ウンコであるという自覚のないまま悪臭をそこら中に撒き散らすウンコの滑稽さについて。この国の真実に目覚めたらウンコになっていた件。おいおい、ゲシュタルトを崩壊させている場合じゃないぜ。こいつは決して冗談なんかじゃない。ウンコどもは実在するんだ。ようく目を凝らしてみな。耳を澄ましてみな。だが、鼻は摘まんでいた方がいい。ぶっ倒れちまうぜ。あまりの臭いの強烈さにな。

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