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やまびこ

作者: T.K.フォン


 「やっほーーーー」

私は山に向かい、そう叫んだ。


 私の故郷の村は見渡す限り山々がひろがり多くの山に囲まれた中にある。

夏はあたり一面、鮮やかな緑に染まり秋は紅葉が美しく、冬は雪化粧の銀世界、そして春には新しい息吹が映えわたる。


 そんな村には面白い言い伝えがあった。

それはやまびこを繰り返し行っているとやまびこの声の主が姿を現すというものである。

何を言っているか分からないと思うが、これからお話する、その村に住んでいたある少年の不思議な、でも楽しく、少し寂しいお話で何を言いたいのかが分かるだろう


 その少年は小さい頃から野山で遊ぶのがとても好きだったそうだ。

あるときは山に入り虫を捕まえ、木の実を採って食べ、山中を流れる川では魚を獲って食べたりと、自然の中を駆け回ることが何より楽しかったそうだ。

 近所の子達が各々の家や庭で別の遊びをしていても、混じることなく山で遊んでいた。

そのため少年には友達と呼べる友達がいなかった。

 普段から山で遊んだことを曽祖父に話していたそうだが、ある時、曽祖父が少年にこんなことを言ったそうだ。

「あのお山にはやまびこさんが住んでる。お前がずっと毎日やまびこさんを呼んでいれば、もしかしたら会える時があるかもしれないのう」。

 そう言われた少年はそれからその言葉を信じ、毎日のように近くの山に入っては、他の山に向かってやまびこさんを呼んだ。

あるときは「やっほー」と、またあるときは「こんにちはーー!」、そしてまたあるときは「やまびこさ〜ん」と言ったそうだ。

でもいつも返ってくるのは自分の声だけ。

ただ少年は諦めなかった。

雨の日でも風が強い日でも、ただただ純粋に声を出していたそうだ。

友達がいなかった少年はいつも遊んでいる山にやまびこさんという友達ができたら良いなと考えていたのだろう。

 そして季節がふたつほど変わった頃、少年がいつものようにやまびこさんを呼んでいるとふと後ろから声をかけられた。

少年が驚いて振り返るとそこには村でたまに見かけたことのある男の子が立っていた。

「なんだやまびこさんじゃないのか、、」と少年は思ったそうだが、男の子は、「何をしてるの?」と聞いてきた。少年は「やまびこさんを呼んでるの」と答えたが、男の子は「ふーん、そうなんだ」と返し、「山にはいつも来るの?」と聞いてきた。少年は普段曽祖父に話しているように山でしていることを話した。

すると男の子は「そうなんだ!じつは僕も山が好きなんだ」と言った。そして、少年は嬉しそうに「じゃあ一緒に遊ぼう」と男の子を誘い遊んだ。

 それから毎日のように2人は山で遊んだ。

いつも1人で採っていた木の実を2人で分け、1人で走っていた山道を2人でかけっこをし、あるときは村の方からする子供たちのやっほーという声にやまびこの真似をして、2人で返したこともあったそうだ。2人が仲良くなるのに時間はそうかからなかった。

 少年は男の子と会った日から毎日、嬉しそうに家族に山でできた友達と遊んだことを言っていたそうだ。家族はその男の子の顔や服などの特徴を聞くと不思議そうにしていたが少年は嬉しくてそんなことは気にしていなかったそうだ。

 ある日男の子は少年に、「たまには麓の村でも遊びたいな」と言った。少年は少し躊躇ったものの初めてできた仲の良い友達がそう言うならとその日は村に降りて、そして初めて村の他の子に仲間に入れてほしいと言ったそうだ。村の子たちは驚いた様子を見せたものの、快く少年を迎え入れその日は夕方暗くなるまでかくれんぼやおにごっごなどをして楽しんだそうだ。それから少年は村の子とも仲良くなり、村で遊ぶことが多くなった。

 そんなある日、家族から「最近山にあんまり行かなくなったね」と言われ、少年は自分が最近やまびこさんを呼んでないことに気づいた。そして山で会った男の子とも全然遊ばなくなったことを思い出し、少年は「あの子、元気にしてるかなあ」と口にする。すると家族は「そのことなんだけど、村でそんな子がいるって話、やっぱり聞かないんだよ」と口々に言った。そんなはずないと思い急いで村の子にも確かめに行くも、「最初仲間入れてくれって言ってきたときは突然1人で来てそんなこと言うもんだから、すごくビックリした。だから1人だったのは間違いないよ」と言われた。

 そこで少年は山で会った男の子がやまびこさんだったことに気づいた。居てもたってもいられなくなった少年は息を切らしながら山に駆けて行き、もう一度やまびこさんを呼ぶ。そしてあの男の子がどこからともなく現れた。そして男の子は「僕が誰だかわかっちゃったみたいだね」と言う。すかさず、少年は「やまびこさんでしょ!!」と言う。

するとやまびこは「そう僕はやまびこ、君と同じ人間じゃないんだ、だから気づいてしまった、これからはもう一緒にいられないんだ、いちゃいけない決まりなんだ」と言う。それを聞いた少年は「なんでダメなの、今までみたいに一緒に遊ぼうよ」と今までの思い出を言いながら説得する。

 やまびこの目が涙ぐむ。そして「君はもうあんなにたくさんの仲間がいる、僕は君たちを繋ぎたかったんだ。いつも君が山に来てくれるのがすごく嬉しかった。山が好きなんだって良く分かったよ。いつも君が僕を呼んでくれるのがすごく嬉しかった。そんなにも僕に会いたいと思っていたのがすごく伝わった。だけどいつも君は1人ぼっちだった。だから心配でたまに村に降りて君の様子を見てたんだ。そしたら君がたまに村の子たちの方を羨ましそうにみてるのが見えたんだ。だから繋げようと思った。僕は山に1人だけど君は村にいっぱい仲間がいる。これからは仲間を大切にしてほしい」、やまびこさんはそう言葉を並べた。

 その時の私は泣きじゃくっていただろう。でもなんとかやまびこさんもこれからも一緒にと説得し続けていたと思う。でもやまびこさんは「短かったけど、君と過ごした時間は楽しくて、あっという間で、とても心が温かかった、寂しくなかった、ありがとう、、」

そう言うとやまびこさんは消えてしまった。

 その日から私はしばらく塞ぎ込んでしまった。しかし、いつまでもそうしていたらやまびこさんがせっかく繋いでくれたものが消えてしまうと思い前を向いた。

 私はそれからやまびこさんに教えてもらった仲間の大切さを胸に、村の仲間と日々を過ごしていった。そして山を守る仕事に就くため一旦村を出て勉強に励んだ。そして月日が流れ社会人になった私はやまびこさんのいる綺麗な四季を感じれるこの山を守るため村に帰ってきていた。新たな仲間を連れて。


「ありがとうーー!!」

私は山に向かって叫んだ。

遠くから「ありがとう」とやまびこが返ってくる。

その声は私か、はたまた、、、


次は僕が恩返しする番だよ、やまびこさん


                  fin

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