第97話 グランデ伯爵の乱 2 懐柔
時は少し遡る。
私は準備をする前、リア町長に指示を出していた。
「ここにある食材で料理を作ってくれ」
「料理、ですか? 」
「ああ。大量に、な」
「それは構いませんがとても一人じゃ」
「出来れば町の人に手伝ってもらいたい。なにこの町のレストランや食堂は竜の巫女だけじゃないだろ? 」
頷くリア町長に作戦を伝える。
作戦自体は単純で、腹ペコでやって来るグランデ伯爵領の人達に料理を振る舞うだけだ。
けれどその時町の人に危害が加わる可能性がある。
だから前線に行くのは確実に安全といえる私達だけだ。
因みにソウには運搬でも手伝ってもらおう。
「確か武装しているが反乱軍と決まったわけでは無いよな? 」
「ええ。しかしそれがなにか? 」
「一時的にグランデ伯爵領からの避難民として受け入れることは出来るか? 」
更に作戦の続きを説明するとリア町長の瞳が大きく開いた。
そして大きく首を縦に振った。
この町に向かっている者達は伯爵の命により攻め込んでいるはずだ。
けれどリア町長としては彼らを傷つけたくないと。
ならば彼らを武装解除させて一時的に保護すればいい。
名目は「グランデ伯爵領からの避難民」が良いだろう。
「あとは私達の仕事だ。さぁやるか! 」
そして私はヴォルト達を引き連れて移動した。
★
「これ本当に野菜炒めか?! 」
「シャキシャキする! 」
「おいこっちの肉を食べて見ろ。肉汁が溢れるぞ! 」
「うめぇ……。本当にうめぇ……」
泣いて喜ぶ人達に料理をどんどんと運んでいく。
かなりお腹が減っていたのだろう。
運んだ料理は消えるように無くなっていた。
けれど時間が経つにつれて食べている人にも落ち着きが見えてくる。
かなり疲れたのかそのまま寝入ってしまっている者もいた。
一仕事を終えて彼らを見る余裕ができた。
特徴がわかるかな、と思ってぐるりと全体を見渡したのだが……。
「女子供まで送り出すとは……。下衆だな」
「申し訳ございません! 」
「いや君を責めているわけじゃないよ。それよりも食ってるか? 」
「美味しくいただいております! 」
彼らを率いているという爵位持ちの男性が返事をする。
彼はアルモンド騎士爵というらしい。アルモンドの町を任されていた所、騎士爵ということもあっていきなりこの軍勢を纏めるようにと指示されたとのこと。
色々と話を聞いたが、違和感しかない。
どう見ても彼が軍を率いて進軍するとは思えないのだが。
「私の爵位とグランデ伯爵の爵位には絶対的な差があります。従わざる終えませんでした。しかし彼らをまとめ進行したのは事実。どのような罰も受け入れましょう」
彼が悲痛そうに言う。
本意でないのはよくわかった。爵位が時としてこうした足枷になるのはよくあること。
けれど彼の言う通り進軍したのは事実だ。
だから彼に頼みごとをする。
「君が連れてきた人達を説得してくれ」
事実としてグランデ伯爵が徴兵を行いロイモンド子爵領に派兵した。
自国の領内に王家が密偵を送っているというのはよくあること。
だから派兵の事実はすでに国が掴んでいるだろう。
故に内戦をふっかけたグランデ伯爵の処罰は免れない。
逆に処罰をしないと他の貴族に示しがつかないからである。
けれど彼らはどうか。
集めらえれ権力で脅され巻き込まれた被害者だ。
実行犯はここにいる人達だが実害は出ていない訳で。
彼の話を聞くと今グランデ伯爵領は人が少ない状態のようだ。
国としてはこれ以上この領地から人を失い土地として活用できなくなるのは避けたい所だろ。
なので彼らを一時的な避難民として引き取り再度グランデ伯爵領に戻ってもらう。
そして彼にはその纏め役もやってもらうとする。
リアの町にもキャパシティーというものがあるしね。
「最終的には国の判断に従ってもらうということになるけど、大まかな感じはこんな所。あとはリア町長と話しあってくれ」
「かしこまりました! 」
大きな声で返事をする。
本当に頼むよ、と伝えて背中を向ける。
「もう終わったのか」
上からソウが声かけてきた。
終わったことを告げると長い舌をちろっと出した。
「ならばこの料理は我が食べてよいということだな! 」
「まぁ作った分は良いだろうけど」
ちらっと後ろを見ると「大丈夫です! 」と返事が返ってくる。
「だそうだ」
「ならば頂くのである! これは食堂「アゼリア」の料理で――」
早速空から降りて来たソウが料理に顔を突っ込んだ。
その様子に呆れながらも作戦が終了したことをリア町長の所へ伝えに向かった。
★
「お疲れさまでした」
「水くせぇな、エルゼリアさん。あたいらも連れて行ってくれればいいのに」
「いや普通料理人は最前線に立たないからな? アゼリア」
「そうかね? 」
ケラケラと笑う食堂「アゼリア」の女店主に手を振りながらも、リア町長に誘導される。
状況を軽く説明しながらもリアの町の外に張られた天幕に入る。
町長の館まで行かないとダメかなと思っていたので近くに天幕を張ってくれていたのはありがたい。
けれど最高責任者がこんな前線に立つのは如何とも思う訳で。
嬉しいが、褒められた行為ではない。
「お疲れさまでした」
「お疲れ様。というよりも私はそこまでじゃないが」
「せっかく作った予算を再編しないといけないと考えると、気が重いですね」
リア町長が前を行き、メイドが労ってくれ、文官が嘆いた。
こればかりは私にはどうしようもない。
頑張ってくれとしか言いようがない。
「では詳細を聞かせていただけると嬉しいのですが」
嘆く文官から目線を移してリア町長に、アルモンド町長から聞いた話をそのまま伝えた。
「魔女、ですか」
「情報をどこから仕入れたかわからないが、まともな方法じゃないだろうな」
「確かに。言いがかりにもほどがありますね。エルゼリアさんがグランデ伯爵領の衰退を起こした、なんて」
「災害を人のせいにするなどありえませんね」
メイドと文官が笑いながら言うが、事情を知っている私とリア町長はそっと視線をずらした。
やったのは私じゃなくてエルムンガルドだから、違うな。
「ともあれ当初の目的通り避難民として受け入れることになった。大丈夫? 」
「……私が言い始めたことですので、やり切ってみせます」
「その意気だ。あとはアルモンド町長と相談してくれ」
「本当に、ありがとうございました」
「何てないよ。強いて言うのならばヴォルトやエルムンガルド、ライナー達ウルフィード氏族やソウも頑張ったんだ。後でお礼を言ってあげてくれ」
もちろんですとも、という返事を受けて席を立つ。
様子を見に行くと言い外に出るとそこにはアゼリアに迫るソウがいた。
「――このスープは美味なのである。もう一杯欲しいのである」
「……」
「ギ?! エルゼリア?! 違う。これは……」
「……」
無言でソウの足を強く蹴った。
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