第8話 リアの町の町長 2 優しき町長アリア・リア
女町長に腹ごしらえの提案をすると彼女は目を大きく開ける。
何か言われる前に言葉を放って抑える。
「私は旅をしているが、これでも料理人なんだ。町長に料理を振る舞いたい」
「きさまっ――! 「無論食材は私が持つ。これでも旅をしてきたんだ。余分に素材は持っている」」
老執事が憤怒の顔をするも「私が食材を持つ」と言うとひっこんだ。
代わるように町長が当たり前の質問をする。
「見た所その食材が見当たりませんが……」
「私の相棒は時空間魔法の使い手でね。彼が作り上げている異空間収納の中に置いてある」
「その通りである! 」
私の隣から威張るような声が聞こえる。
確かにすごいのだが威張ると凄さが半減だ。
「喋った?! 」
「子供のドラゴン?! お嬢様! 」
「誰がドラゴンか! 我は精霊獣ソウである! 」
魔物であるドラゴンと間違われて怒っているようだ。
確かに見かけは小さなドラゴン。しかし魔物は喋らない。
ソウ。魔物と間違われて怒るのはわかるが怒りを抑えてくれ。
老執事と町長の顔色が悪い。
そして私もちょっと怖い。
「せ、精霊様とは知らずご無礼を」
「無礼を働いたのは私達。町民には寛大な処置を」
顔を青くした二人が一気に頭を下げた。
それをソウが「今回だけだ」と尊大に答えると、二人は顔を上げる。
血色が少し戻った二人に同情しながら「コホン」と軽く咳払いをして話を戻した。
「で食事の話だが……見た所執事殿のみならず町長も健康状態が良い様には見えない。それを放って会談をすることも可能だが、出来れば万全の状態で話を聞いてほしいんだ」
少し語気を強めて町長にいう。
が少し考え込んで首を横に振った。
何故、と思うと町長が懇願してくる。
「私に振る舞う料理があるのならば町民に料理をお願いできないでしょうか」
その言葉に目を見開いた。
彼女は自分が良い状態ではない事は知っているはず。
なのに自分よりも町民をと言う。
町を運営する者としては些か優しすぎる気はするが好印象だ。
「それを含めての今回の話だ。まず万全の状態で話を聞いてもらい判断してもらうのが一番だと思うが? 回らない頭で決断し、後で後悔するよりかはマシだと思うのだが? 」
「しかし……」
「厨房へご案内しましょう」
尚も食い下がろうとする町長の前に老執事が立ち、案内を申し出る。
彼の行動が意外だったのか町長は後ろで驚いている。
「コルバー。貴方――」
「お嬢様。いえリア様。これ以上身を犠牲にするのはおやめください」
そう言われてリアと呼ばれた町長は「む」っとなる。
足を一歩前に出して詰め寄ろうとするが、老執事がそれを回避し前のめりで倒れそうになる。
執事が受け止め事なきを得たが町長は不服そうだ。
「……ほら。もう限界でしょう」
尚も抵抗しようとするがコルバーと呼ばれた老執事に諭される。
結果として私達は厨房へ向かった。
★
「これは酷い」
「……返す言葉もありません」
思わず呟くと隣から申し訳なさそうな声が聞こえてくる。
反射的に「気にしていない」と言いカバーするが、正直料理をする者としていただけないキッチンである。
このまま立っていても始まらない。
水回りを確認しに歩きながら観察する。
昔は大勢の料理人がいたのだろう。
中央に大きく長い机が「デン! 」と置いてある。
机を避けるように移動すると巨大な保存庫を通り過ぎシンクに着いた。
「これは……動くのか? 」
「古いですが私が毎日使っているので大丈夫かと」
老執事コルバーが答える。
それに安心し私は水生成が刻印された魔石が嵌め込まれているねじに魔力を流して口から水を出す。
大丈夫なことを確認し一度止めて軽く十は超えるコンロに目をやる。
流石に掃除はされているが、綺麗と呼べる状態ではない。
許可を取ってコンロに設置された発火が刻まれた魔石に魔力を流してどの程度火力があるのか確かめた。
「よし。ソウ」
「分かっている。家事妖精召喚」
ソウが唱えると魔法陣が展開されて小さな妖精が何体も現れる。
突然現れた小人に二人は驚いている。
初めて見るとそうなるよな、と思いつつもまず掃除をしても良いか聞くと小さく頷いてくれた。
今か今かと掃除をしたくてうずうずしているブラウニー達にソウがOKを出すとそれぞれ部屋に散って掃除を始めた。
「料理をするにしてもこれをどうにかしないとな」
一体のブラウニーが窓を開けて換気を良くする。
新しい空気が入ってくる中ズボンを引っ張る感じを受ける。
何事かと下をみると複数のブラウニーがなにやら訴えていた。
「どうやらこの家全体を掃除したいらしい」
召喚者であるソウが代弁する。
召喚者の契約者である私に許可を取りに来たのか。
しかしここは私の館ではない。
「館全体を掃除したいようですが……やっても? 」
呆けた顔をしている町長と老執事に聞いた。
すぐに綺麗になっていく様子についていけないのだろう。
聞いても答えが返ってこない。
このまま放置しておくと勝手に掃除に行きそうなので少し強めの口調で聞いてみた。
すると即座に了解がとれた。
しかし触らないでほしい部屋があるみたいだからそこは掃除しないように伝え、ソウが命令を出す。
それを聞きブラウニー達は元気よく扉の向こうへ行った。
新築みたいに綺麗になったキッチンを残して。
★
「これは何という料理で? 」
綺麗になった館の食堂にて。
町長ことアリア・リアと老執事コルバーに水分をたっぷり含んだほくほくの米を出していた。
もちろん普通の米ではない。
「お粥、というものです。長らくまともな食事をとっていない様子だったのでこちらをと」
「これは米、ですかな? また珍しい物をお持ちで」
「私がいた所では普通に作られていましたが」
正確に言うと生まれ故郷のアドラの森ではなく、長く住んだ大和という国でだが。
しかしこの周辺にも米はあるのか。
無くなったら最悪ソウに転移魔法で連れて行ってもらおうと考えていたがこれは僥倖。
大和の米とはまた違うだろうが、その違いをみつけるのも面白そうだ。
「では頂きましょう」
リア町長が視線を落として祈りの言葉をつげる。
木製のお椀を手に取り持ち上げると蒸気が彼女の顔にあたり赤らめさせている。
しかし構わずアツアツのお粥をスプーンですくい、口に入れた。
「……」
無言でもぐもぐ食べている。
しかしスプーンのスピードは落ちることなく、むしろ上がる。
口に入れるごとに感情がほどけてきたのかポロポロ涙をこぼしている。
「なんという優しい味なのでしょう」
「柔らかく、そして甘いですな」
「まるで死んだ母に包まれているようで……す」
更に涙を流しながらスプーンを運ぶ。
今の町の状況がどのくらい続いているのかは知らない。
しかしこの二人は、――他方は町長として、他方は支える者として、ずっと耐えてきたことがわかる。
優しき町長と支える執事に――。
ご馳走様でした。
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