第75話 ウルフィード氏族歓迎会
ウルフィード氏族の人達が住民登録を終えた時、例の如く歓迎会を竜の巫女で行うことになった。
けれどここで一つ問題が出る。
「この人数、レストランに入るわけがない」
「ですよね」
「一層の事二号店を近くに作りますか? 」
「コルバー、料理人がいない」
「……確かに」
今は竜の巫女で打ち合わせ中。
どう見ても疲労困憊なリア町長とコルバー、そしてメイド長と文官と話している。
聞くにメイド長は貴族家出身らしく社交界にも出たことがあるとのこと。
よってリア町長のレッスン指導役となったらしいが、スパルタの様。
しかしメイド長曰く、リア町長は飲み込みがかなり良いようで、物凄い勢いで吸収しているらしい。
彼女が貴族社会の闇に飲まれない事を祈るばかりだ。
具体的にはブチ切れてその力を発揮しないように、と。
「ならば竜の巫女の外も使うのはどうだ? そろそろウルフィードのやつらの家も建つだろう」
ソウが提案して「グル」っと鳴く。
ソウにしては良い考えだ。
ライナー達の家もそろそろ建つ。丁度良いくらいにグループわけして店内と外で食べる、と。
ならば時間制にして店内と外で食べるグループを入れ替えるのもいいかもしれない。
それらの案をリア町長にまとめて言うと了解してくれた。
文官がそれを纏めている間に話を詰めていく。
「現在他の町でも野菜のような食材が採れ始めています。そちらも使えればと思うのですが、どうでしょうか? 」
「良いと思うぞ。そうだ。何か珍しい食材はないか? 」
食堂の椅子に座るリア町長に聞くと顎に人差し指を当てて考えた。
彼女は知らないようだ。
ちらりとメイド長の方をみて何かないかと聞く。
すると彼女も考えてきりっとした目つきで私を見た。
「最近ですとピーマン、というものが採れるそうです」
「ピーマンか! 」
「苦いようで採れた町では不評だったようですね。それで町で売るのを諦めて周りの町を周っている間に、この町へと辿り着いたのですが……。お使いになられますか? 」
メイド長に聞かれて少し考える。
私は好きだがピーマンは子供が苦手な食材トップ十に入る食材だ。
不人気だが栄養価も高く人狼達の食事事情改善には最適だ。
けれど彼らが十中八九苦手な食材。
だが彼らも流石に人前で「食べれない」とは言えないだろう。
「よし。それを頼むよ」
「畏まりました。では後程商人をそちらに向かわせますのでよろしくお願いします」
作る料理に歓迎会の規模など決めて会議終了。
そして私は当日を迎えた。
★
「ピーマンの肉詰め追加です! 」
「はいよ! 」
フライパンを閉じている蓋を開けると、肉が焼けている音と共に香ばしい匂いがキッチンに漂う。
固めたミンチ肉が入っているピーマンを皿に並べてラビに渡す。
「では行ってまいります! 」
「こけるなよ」
注意しながら次の肉詰めを準備する。
保存庫を開けてピーマンを取り出す。ピーマンの色は様々。
緑に赤に、黄色に青にと見ただけだと毒々しい。
けれど食べる側は気にしてない様子。
なので大量入荷したピーマンがどんどんなくなっている。
「……我も食べたい」
「あとで私と一緒に食堂行った時、食べさせてやるから今は我慢しろ」
涎で池が出来そうなソウに苦笑いしつつフライパンに蓋をする。
大量に食事を作った後、酒を準備して私も食堂へ向かった。
「肉汁が染み出てる~」
「だれだ、ピーマンがまずいって言ったのは。めっちゃうめぇじゃねぇか! 」
「肉の旨味とピーマンの苦味が上手くマッチしてますね」
「それだけじゃねぇ。中に何か入ってやがる」
「これは……玉ねぎと」
「人参です!!! 」
ラビが元気よく飛び跳ねていた。
中に入ると嗅ぎなれた匂いとお酒の匂いが漂ってきた。
周りを見渡すと人狼姿のウルフィード氏族の人達と町の人が飲んでいる。
笑い声や話し声、時折ジョッキ同士を克ち合わせる音も聞こえてきた。
本当に馴染んでるな。
「お。エルゼリアさんじゃねぇか」
「お姉様こちらへ」
「いや姉さんはこっちだ」
「おいこら喧嘩するな。私はその辺に座っているよ」
周りを見渡していると人狼族の男女が声をかけてきた。
今にも喧嘩しそうな雰囲気に釘を刺すと背筋を伸ばして「もちろんです」と答える。
本当かよ、と思いながらも自分の席を探す。
「ううう……。胃が痛い」
「お嬢様。すでに手紙は出しております。仮病を使おうなど考えないように」
「言われなくてもわかっていますよぉ~。コルバー」
リア町長がジョッキを片手に机に突っ伏している。
それをコルバーが宥めてメイドが水を差し出しているが、……見なかったことにしよう。
メイドさん。それは水じゃない。透明感あふれる酒だ。
町長達からそっと離れて再度見渡す。
けれど席が空いていない。
埋まっているようだ。
仕方ないので私はソウを肩に載せてレストランの外に。
ソウの涎が私の肩を濡らしているがもう少し待ってほしい。
玄関から出て人狼達が住むエリアに向かう。
足を進めると灯りが見えて良い匂いが漂ってきた。
これはリア焼きだな。
どうやらアロムさんが振る舞っているようだ。
「お。エルゼリアじゃねぇか」
「ライナー。楽しんでるか? 」
「あぁ。ありがてぇことにな」
私に気付いたライナーが声を上げてこちらに向かってくる。
私も彼の方へ行き軽くジョッキを克ち合わせてエールを飲む。
「まさかこの姿で飲み食いできる日が来るとは思わなかった」
ライナーに誘導される形で席に向かう。
するとそこにはエルムンガルドが作り出した木製の机や椅子があった。
「エルゼリアには本当に感謝しきれねぇ」
「過大評価だよ。ライナー達を受け入れたのはこの町の人達だしね」
エールを飲みながらライナーに言う。
実際私がやったのは彼らの体調を整えただけ。
ライナー達が受け入れられたのはヴォルトの実績とこの町の人達の気風による所が大きい。
もう一杯ぐびっとエールを飲む。
私が飲んでいると机の上に移動したソウがピーマンの肉詰めをつついている。
ソウが「肉が、ピーマンが、乱舞するぅぅぅ! 」と騒いでいると町の人と人狼族の女性が近付いて来た。
「ライナー様。エルゼリア様。お注ぎします」
「お。すまねぇ」
「ありがとう」
追加のエールをなみなみと注がれていく。
泡がいっぱいまで来たのでぐびっと一つ。
「ぷふぁ! やっぱり皆で飲むエールは美味い」
「確かにそうだな。あ、一つ聞いていいか? 」
「構わねぇぞ」
「そっちの女性は奥方かな? 」
「「?!!! 」」
二人は目を見開いて顔を合わせる。
けれどすぐに逸らして今まで以上に顔を赤らめた。
あれ、ちがった?
いやどう見ても奥さんか、それとも恋人にしか見えないのだが。
「わ、わ、わ、私のような人が、ラ、ラ、ラ、ライナー様に釣り合うなど」
「そ、そんなことねぇぞ?! 」
「えええええーーーー」
何やら二人がテンパり始めた。
面白いので二人を放置して、ピーマンの肉詰めを食べているソウに目をやると、機嫌よく演説していた。
「これぞピーマンの新境地! 閉じ込められた肉汁がビックバンなのである!!! 」
キュイ! キュイ! と鳴きながらもばを盛り上げるソウ。
彼の周りでドワーフ族とエルフ族がジョッキを片手に踊っている。
時々私の知らない言葉を口にするソウだけれども、皆と楽しく食事をしているようでなによりだ。
結局の所歓迎会は翌朝まで続いた。
最初いなかった人も入ってきたりで大騒ぎ。
けれど楽しい一時というのは過ぎ去るのも早い訳で。
「ご馳走様でした」
ここまで読んで如何でしたでしょうか。
少しでも面白く感じていただけたらブックマークへの登録や、
広告下にある【★】の評価ボタンをチェックしていただければ幸いです。
こちらは【★】から【★★★★★】の五段階
思う★の数をポチッとしていただけたら、嬉しいです。




