第62話 人狼族という種族
「きゃぁぁぁ! 」
「人がいきなり魔物に! 」
「バ、化け物! 」
「ち、違う。僕は……」
小さな子供がいきなり変身した。
戸惑う男の子は銀色の体毛を生やし狼のような顔をしている。
人狼族の子供である。
自分は化け物じゃない、そう訴えようとするが住民達に恐怖が伝播する。
「出ていけ化け物! 」
「子供達を家に入れろ! 」
「おい斧を持ってこい! 」
その子がしどろもどろとなっている間に物騒になっていく。
大人は子供を家に入れ、男達は武器を手に持ち今にも襲い掛かりそうだ。
「こ、このっ! 」
大男が一人、勇気を振り絞り人狼族の子に向けて斧を構える。
振り下ろそうとした瞬間、その斧をがっしりと掴む男性が。
「子供を抱えて逃げろ! 」
「申し訳ありません!!! 」
彼が言うと同じ体毛に包まれた女性がパニックになりかけている子供を抱えてその場から立ち去る。
それを見送り斧を構える男性に向くと、男性は動かない斧を動かそうと必死になっていた。
斧は諦めたのか襲い掛かろうとした男性は男に怒鳴る。
「お、おいあんた。邪魔するな! 」
「馬鹿野郎! 相手は人狼族の子供だ! 」
「化け物じゃないか! 」
「くそっ! ここでもかっ! 」
男が舌打ちを突き斧を抱える男性を蹴り飛ばす。
彼は倉庫にぶつかり大きな音を出す。
村の人達はそれを呆然と見ていたが、すぐに現実に戻されて蹴り飛ばした男を非難する。
だが——。
「……世話になったな」
その一言を残して消えるように去っていった。
★
「も、申し訳ありません。氏族長」
「ご、ごめんなさい」
男——人狼族ウルフィード氏族氏族長兼種族王『ライナー・ウルフィード』の前に人狼の母子が頭を下げていた。
一族の者が見守る中ライナーは二人に声をかける。
「気にするな。よくあることだ」
「一族にもご迷惑を」
「かまわねぇ。ここにいるもん似たような経験はしてきている。今回の事を迷惑と捉えるのなら、ウルフィード氏族の連中は迷惑な奴らばかりになっちまう」
「はは。確かにそうだ」
「いやお前は迷惑なやつに分類されると思うが? 」
「てめぇ。この前の喧嘩の決着でもつけるか? 」
「そういうところだよ。そういうところ」
「なによぉ」
彼女達と同じ銀色の体毛に包まれた狼顔の人達が殴り合いの喧嘩を始める。
ボコボコと音が鳴る中困惑する母子。
いつものことで慣れているが後ろのやり取りは母子にとっては少しバイオレンス。
ライナーは「少しは空気を読め」と思いながらどうするか考える。
「一先ず話を聞かせてくれ」
ライナーの言葉を皮切りに人狼の子供は涙ぐみながら少しずつその時の状況を話した。
「……人化が解けちまったのか」
「ご、ごめんなさい」
「気にするな」
子供の頭の上に大きな手がポンとのる。
少しくしゃくしゃした後笑顔で言う。
「人化を覚えたての時はよくあることだ。あれは常時魔力を使わないといけないからな。維持が難しい」
「ううう……」
「友達が欲しいっていうのはわかるが、今回はちと急ぎ過ぎたな。ゆっくりやろうぜ。な? 」
「はい……」
もしこの子が、いやここにいる者達が人化を使わずに過ごせればどれだけいいか、とライナーは思う。
だが首を振り非現実的な考えを振り払う。
人狼族という種族は生まれながらにして人化を使うことができる珍しい種族である。
通常他の異形種が人に紛れる場合、ヴォルトの様に幻影魔法を使い誤魔化すか、人化の魔法『種族人変化』を使うのが一般的だ。
しかしながらこの魔法は難易度が高く、また消費魔力が激しい。
よって生まれながらにして『人化』の異能を持つ人狼族は人に紛れるために生まれたような存在であった。
ウルフィード氏族を含めて多くの人狼族では人化は親が子に教えるのが一般的。
この子も母親から教わったのだが、出来た喜びと子供故の好奇心に負けて村に出てしまった。
その結果が今回の騒動なのだが……。
「どうしたものか」
ライナーは一人悩んでいた。
あの村は長年彼らが住んでいた村である。
泣き疲れ彼の前ですやすやと眠る子供が人狼であるとバレた以上、彼らはあの村に住むことはできない。
人狼族は氏族単位で活動するのが基本である。
住むところもそうだが移動も同じく、だ。
母子を置いて自分達だけで住むことはできるのだが迫害を受けて来た種族。
仲間意識の強い彼らは、彼女達だけを置いて自分達だけ能天気に暮らすという選択肢は最初からなかった。
「どうしやす? 」
「悩みどころだ」
「親父。この際山一つ占領しちまったらどうだ? 」
「国に見つかった時の方がリスクが高い」
人族や獣人族よりも遙かに強靭な肉体を持つ彼らなら、ここエンジミル王国の山を一つ占領することはたやすいだろう。
しかし見つかった場合、本格的に「魔物」として討伐隊を向けられる可能性がある。
氏族長にして種族王のライナーならばエンジミル王国の兵士を撃退することは可能だ。
だがその場合完全に「人間」を敵に回すことを意味する。
人間国家で人間を敵にした場合もはや逃げ場がない。
幾ら強いと言えど親族を守りながらの戦いは彼にとってはかなりきつい。
数で押されて負けるヴィジョンしか見えない彼はやはり人間と共に生きるという選択肢を選んだ。
「……あまり気乗りしないがヴォルトの旦那とエルムンガルドの姉御を頼るか」
「前に言っていた他の種族王ですかい? 」
聞かれて大きく頷いた。
ライナーも種族王としてのプライドがある。
年若い種族王であるライナーからすれば年配を頼るのは気が乗らない。
しかし今回はそう言っていられない。
ライナーは決心して周りのウルフィード氏族の人達に声をかけた。
「おい。準備をしろ。移動するぞ」
「「「おう!!! 」」」
ライナー自身も準備を始める。
探知能力にも長けているライナーは分かりやすい力を辿り目的地を定める。
(ん? 二人共同じところに……)
疑問に思うが、動くほうが先。
人化を使える者は人化をして、できない者は魔法で隠れて移動準備を終えた。
「じゃぁいく……っ! 」
「どうしやした? 」
「腹でも下しやしたか? 」
「いやなんでもない」
ライナーの腹に一瞬激痛が走った。しかしすぐに治まった。
腹に手をやるも何事も無かったようで首を傾げた。
彼らが目指すはヴォルトとエルムンガルドがいる所。
今度こそは、と少しの希望を胸にしてウルフィード氏族総勢約五十名が移動を始めた。
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