第6話 例え貧しくても
宿を出た私達は町を散策することにした。
物騒な町を歩くのだ。
何か起こっても対処できるようにしないといけない。
ということで背にはリュックサックを背負い、腰には短剣をさし、手には魔杖を持っている。
宿を出てぐるりと軽く周りを見渡すと、やはりどんよりとしている。
犯罪者らしき犯罪者は見当たらないがチラチラとこちらを見て来る人はいた。
「珍しいのか」
「宿の様子を見る限り旅人も訪れていないようだった。さぞ珍しいのだろう」
「本格的にわからないな。旅人も訪れない町とは」
「町に旨味がないだけでは旅人が訪れない理由にはならない。この先にあるだろう町やら村やらに行くための通過点になるからな」
「ま、何にしろ聞き込みが必要といことだ」
ソウを肩に載せて町を歩く。
「どうやって話を聞き出すのだ? 」
「料理を対価に聞き出す」
「また我の出番か」
「そういうな。頼りにしているよ、相棒」
言うと「ふん」と鼻を鳴らす音が聞こえて苦笑する。
めんどくさそうに言うが本心ではない事はよく知っている。
「しかし料理を出したくらいで話を聞けるものか? こういう場合普通金じゃないのか? 」
「そうだな。町が困窮していなければ金で済ませていただろうな。けどこの町は物が不足している。そんな状態で僅かな金を渡されたとして本当の話をしてくれると思うか? 」
「思わんが……」
「時に金銭よりも適したものがある、場合もあるとうこと。その状況に合わせないとな」
ソウに説明しながら先に進む。
徐々に景色が変わっていく。
幅の広かった道は一時的に細くなり、また広がった。
そして歩いていると広い場所に出た。
「市場か」
眺めて独り言ちながら足を進める。
かなり広いが店の数が少ない。
このアンバランスさは宿でも見たが不自然だ。
まるで……、そう。
昔栄えていたのに急激に衰退したような感じだ。
「人もまばらだな」
「食料が高すぎるからか、そもそもの人口が少ないのか」
歩きながら小声で話す。
ちらほら見える人は様々で人族や獣人族、魔族にエルフ族もいる。
多様な種族が見えるが険悪なムードではない。
種族が違えば価値観が違う。
それにより喧嘩が起こるものだがその気配はない。
良い事だがこの状況下でこれは不自然。
経済が止まり食糧事情が悪くなると犯罪率が高くなるのは常だからだ。
ラビは治安が悪いと言っていた。
しかしこれを見る限り後戻りが出来ないほどに治安が悪いというわけでもなさそうである。
「本当に何が何やら」
溜息をつきながら私は市場を出た。
市場を出ると住宅街のような場所に出る。
しかし目に映る家はどれもボロボロ。
「これはまた酷い」
歩きながら観察するが、歴史を感じるという方向性ではない。
建っている家は所々崩れている場所があったり、扉が機能していなかったりしている。
廃墟か何かか? と思ってしまうが違うだろう。
歩きながら少し目線を上げると、二階と思しき高さに洗濯ものが吊るされてる。
洗濯ができるということは水が通っているか魔法使いがいるか、だ。
しかしこれで人が住んで生活ができていることは分かった。
「いたぞ」
ソウの言葉に目線を戻す。
するとそこには一人のよぼよぼな人族がいた。
ソウに頼み異空間収納から食事を出してもらう。
今回のメニューはサンドイッチ。
もしここに住む人達が長期間なにも食べていなかったら重いものはだめだろう。
そういうことで軽い物。
一つの大きなバスケットを腕にする。
匂いに気が付いたのか人族のお爺さんはこちらを見た。
しかしその瞳に生気が宿っていない。
口を何度かパクパクさせて軽く息を吐き目線を戻した。
「そこのお爺さん。少し話を聞かせてくれないかい? 」
私が聞くと訝しめな表情をして再度こちらを見る。
バスケットに目線が釘付けになっているが、「なんだねエルフの嬢ちゃん」と聞いて来た。
よし。食いついた!
「私は旅人でね。しかし町に来たもののこの様子。出来ればこの町で何があったか話を聞きたいんだ」
「旅人? この町に? 」
そんなにも旅人がこの町に来るのが不思議なのだろうか?
「……悪いことは言わん。次の町へ移動した方が良い」
「何故だ? 」
ソウが聞くとお爺さんが驚いたような表情をする。
驚くのも無理はないと思いながらもお爺さんの方へ足を進める。
「竜?! いや精霊獣か」
「よく知ってるな」
「その昔精霊獣を連れたエルフを見たことがあるからの」
正方形の木箱に座りそう言うお爺さんに「食べるかい」とバスケットの中のサンドイッチを取り出し差し出す。
お爺さんは瞳を大きく開けて三角形の白いサンドイッチを見る。
しかしどうしようか悩んでいるようだ。
腕が上がったり下がったりと迷っている。
「……いいのかの? 」
「良くなかったら出さないさ」
言うとお爺さんが震える手でサンドイッチを手に取った。
そのままゆっくりとした動きで口に入れる。
シャリ、とレタスの音が聞こえるとサンドイッチを口から離してポロポロと涙を流し始めた。
「なんという……。なんという味じゃ。ハムの優しい肉の味にパンの柔らかさ」
感想を口にするとむしゃむしゃと更に食べていく。
さて。話を聞かせてもらおうか。
★
「どこから話したらいいのか……」
少し迷った後、お爺さんは思い出すかのように教えてくれた。
話を統合するとこの町はその昔「食の最先端」と呼ばれていたらしい。
しかしある時から商人が来なくなった。
この町の食材は周りの領地からの輸入が殆どだったため食料事情と町の経済に直撃。
結果として日用品はおろか食料もまともに入手できない状態になった、ということらしい。
「今は冒険者ギルドに依頼して近くの森に食料を調達してもらっている状況じゃ。幸いなことに皆蓄えはあるからの」
「それで食材の値段が高かったのか」
「そう言うことじゃ。じゃがこれもじり貧。わし等の世代は良いとして次の世代がどうなるか……」
お爺さんは表情を曇らせそう言う。
「しかし解せぬな」
「なにがじゃ? 」
「その話ならば何故この町から出て行かない? 」
ソウの言う通りだ。
原因のわからない商人の撤退とそれにより起こった衰退。
この町を出て生活をするという選択肢もあっただろう。
特にエルフ族や魔族のような長命種。
何もこの町で一生を過ごす理由はないと思うが。
「愛着……もあるが一番はこの領地の特色じゃ」
「「特色? 」」
「このリアの町を含むロイモンド子爵領は種族差別が領令で禁じられている特殊な領地なのじゃ。貧しいが居心地が良い」
それで異種族達が喧嘩をしていなかったのか、と納得する。
しかし領令で禁じられているとはいえそれを実行するのは至難の業だ。
もしかしたら、その昔食事を通じて手を取り合ったことにより喧嘩が少ないのかもしれないと思うと心に来るものがある。
「わしに話せるのはこのくらいかの。少しは役に立てたかの? 」
「ああ。十分に」
ニコリと笑いお爺さんの上にバスケットを置く。
驚いた表情をするお爺さんに「友人とでも分けてくれ」と言い残して木箱から立ち上がる。
軽くお尻を叩き、「ありがとうございます」と言う声を背に私は町長の館を目指した。
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